日本郵政の西川善文社長再任に鳩山邦夫総務相が難色を示している。政界や財界と対決しても、最後のひとりになるまで闘うと、認可権限の行使もちらつかせている。
日本郵政の役員人事は同社が委員会設置会社であるため、社外取締役が中心になっている取締役会の指名委員会が18日に決定した西川氏の再任を含む取締役候補案を22日の取締役会に提案する。この後は6月末の株主総会に付議されることになる。これ自体、手続き上問題はない。
だからといって、すんなりと受け入れられるかというと、そうは言いにくい。指名委員会が昨年来、日本郵政グループで起きている不祥事や問題の経営責任を総括した上で決定したとは見えないからだ。
「かんぽの宿」の売却問題では、入札手続きに不適切な点があったとして、総務省から業務改善命令を受けている。障害者団体向け割引制度の悪用では、郵便事業会社の2人の職員が逮捕されている。このほかにも、業務改善を求められた案件がある。民営化されたとはいえ、公共的色彩の強い業務を行い、現段階では株式の100%を国が保有しているのが日本郵政グループ各社だ。その持ち株会社である日本郵政は、経営内容のみならず、不祥事への対応なども過不足なく国民に説明するという責任を果たさなければならない。
役員選任にもこれは当てはまる。指名委員会は民営化されたグループ各社を統率し、収益力を高めていくうえで、西川氏の手腕は必要と判断した。株式会社において経営者は高い利益の実現を求められる。しかし、それだけではない。企業統治(ガバナンス)も重要な要素である。
郵便割引制度の悪用は、営業の第一線で法令順守意識が低いためで済まされるのか。収益力強化を最優先する日本郵政の経営姿勢が、郵便物の量を確保するという風潮を加速したことはなかったのか。取締役候補の選任を行うに際して、こうした点の考慮は欠かせない。検討したのであれば、国民に示す必要がある。
また、指名委員会の社外委員に郵政民営化を決めた当時の経済財政諮問会議議員だった牛尾治朗元経済同友会代表幹事や奥田碩前日本経団連会長が入っていることも、西川氏再任提案が「仲間内」で決められたのではないかとの疑いを生んでいる。こうした疑念を振り払うためにも、説明責任は重要である。
また、郵政改革が政府の最重要課題として取り組まれ、日本郵政は国が全株を保有している会社である以上、麻生太郎首相には、この問題で明確な見解を示すことが求められている。郵政改革の将来の姿もそこにかかっている。
毎日新聞 2009年5月22日 東京朝刊