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親族から選挙地盤を引き継ぐ、いわゆる世襲議員を制限しようという動きが急だ。2世、3世議員が増え、ついに2大政党のトップはともに元首相の孫だ。自民、民主両党とも、次の総選挙から何らかの制限を導入する方向になってきた。
先手をとったのは民主党だ。
現職の国会議員の3親等以内の親族が、同一選挙区から連続して立候補することを党の内規で禁ずる。さらに、政治団体やその資金を親族に引き継ぐことを法律で禁じる。こんな方針を打ち出し、マニフェストに盛り込む。
3親等とは、子や孫、ひ孫、兄弟や甥(おい)、姪(めい)などもひっかかる。かなり幅広く網をかける案だ。
一方、自民党でも党改革実行本部が、親族が同じ選挙区から続けて立候補する場合には公認しないという方向で調整を始めた。親族の範囲はまだ明確でなく、政治資金の継承についても検討中。どの程度の「排除」になるかは、今後の党内協議次第だ。それでも、引退する小泉元首相の次男は、無所属で立候補せざるを得ないという。
世襲議員の多い自民党内では、もともと世襲制限には反発が根強い。「出自による差別」「職業選択の自由が侵害される」といった理屈が声高に語られてきた。だが、民主党が次の総選挙で世襲禁止を目玉に攻勢をかける構えを見て、何もしないわけにはいかなくなったようだ。
世襲議員への風当たりが強まってきたのは、首相をはじめ内閣や政党の要職に2世、3世が目立つようになったからだ。安倍、福田、麻生と3代続けて元首相の子や孫が首相になり、鳩山民主党代表は元衆院議長の曽祖父から数えて4世だ。
朝日新聞の調査では、親族から地盤を引き継いだという定義だと、衆院議員のうち世襲は自民党が33%、民主党は12%。ちなみに、麻生首相は父親の引退から20年以上間をあけているが、同一選挙区からの立候補で世襲にあたる。鳩山代表は別の選挙区からの当選で、この定義にはあてはまらない。
世襲が批判されるのは「地盤、看板、かばん」をそっくり受け継ぐ不公平感からだけではない。人材の多様性が乏しくなり、社会の変化に対する政治の対応力が弱っている。新たなタイプの指導者を生む土壌が細っていく。そうした弊害がいやでも見える、政治の現実があるからだろう。
仕事ぶりや人格が高く評価されている世襲議員は少なくない。それでも制限の動きが強まっているのは、この現実への有権者の不満と不信が、政党として無視できなくなっているためだ。
優れた資質を備えた多彩な人材を国会に集め、政治を変えたい。そんな有権者の刷新への期待を政党は十分くみとれるだろうか。
京都市にある財団法人、日本漢字能力検定協会の大久保昇・前理事長と長男の浩・前副理事長の父子が、背任の疑いで京都地検に逮捕された。
協会は広報業務を前理事長が代表を務める広告会社に委託していた。その一部が実態のない取引だったとされ、3年余で協会に約2億6千万円の損害を与えた疑いがもたれている。
これだけでなく、大久保父子は驚くべき公私混同ぶりを指摘されている。
協会が広告会社に委託したほかの広報業務は多くが外部に再委託され、広告会社が利益を中抜きしていた疑いもある。他の関連3会社には漢字検定の受け付けや採点、問題集の出版などの業務が委託された。同じように中抜きされた利益が、結局父子に還元されていたのではないかとみられている。
さらには漢字資料館をつくる名目で協会のカネで邸宅を購入し、大久保家の墓の隣には供養塔を建てた。協会名義のクレジットカードも私的利用していた。長男の趣味のカーレースへの投資やクルーザーのリースには関連会社のカネを使っていた。
父子が代表を務める関連会社との取引は「利益相反」として禁じられている。まして協会は公益性があるとして税の優遇を受ける公益法人である。
漢字ブームに乗って漢字検定の受検者は年間280万人にまで増えた。協会の年間収入は70億円を超し、利益は7億〜8億円に上る。これでは、公益法人を悪用した株式会社まがいの錬金術だったと言われても仕方がない。
この実態を見逃していた文部科学省の責任は改めて問われるべきだ。地検は疑惑の全体像を解明し、違法行為を洗い出してほしい。
この事件の本当の被害者は、協会に5千〜1500円という検定料を支払ってきた受検者だ。事件は公益法人全体のイメージを悪くし、まじめな法人には迷惑なことだろう。
漢検協会は現在、新しい理事長の下で改革を進めている。運営にあたる理事会やチェック機関であるべき評議員会は、メンバーが一新された。新しい役員は公益法人の目的を自覚し、責任と役割を果たしてほしい。
関連4社との取引中止は当然だ。それだけでなく、これまで4社に支払った業務委託費のうち不当な分は協会に返還させるべきだ。
公益法人の運営には高い透明性と自律が求められる。
協会は、調査委員会による報告書をホームページで公開するようになった。寄付行為や事業計画、収支報告書などできる限りの情報も公開した方がいい。外部の目にさらすことで、チェック機能が働くような仕組みを考えてはどうか。
協会は「公」にふさわしい組織に生まれ変わらなければならない。