Haney Lawyers
- 家族法・子供の誘拐パート2 [2008/12/17]
今日は子供の誘拐に関してのお話のパート2です。
さて、前回は一方の親が子供を海外へ連れ出そうとする時に取る法的処置の説明をさせて頂きました。もし親が子供と実際に出国してしまった場合い、子供を連れ戻す事は出来るのでしょうか?これは目的地の国がハーグ条約加盟国であるかでほぼ決まります。
ハーグ条約とは:
ハーグ条約とは、オランダのハーグで締結された国際協定の事を言いますが、その中でも頻繁に適用されているのがHague Convention on the Civil Aspects of International Child Abductionと言い、つまり、国際的な子の奪取の民事面に関するハーグ条約なのです。家庭紛争が発生してる中、一方の親が子供を海外に連れ出してしまうようなケースに素早く対応する為、1980年10月25日に締結されたのです。同条約には今現在81カ国の加盟国があり、オーストラリアは1987年1月1日にこの条約に批准しました。
加盟国間で片親による子供の誘拐が発生した際にはハーグ条約の中央当局Central Authorityである連邦司法長官局Commonwealth Attorney General’s Departmentが残された親の手助けをし、子供が居住する国の中央当局に迅速な子供の返還を請求できることになっています。
オーストラリアでハーグ条約が適用される状況は大きく分けて三つになります:
1. 残された親の許可や裁判所からの出国許可無しで、一方の親が子供をオーストラリアからハーグ条約加盟国へ連れ出した場合。
2. 一方の親が許可を得てハーグ条約加盟国へ子供を連れて行ったが、オーストラリアへ戻ってこない場合。
3. 一方の親とハーグ条約加盟国で居住している子供と面会するのに援助が必要な場合。
又、ハーグ条約の目的は子供が違法に連れ去られる前に居住していた国の法廷で親権問題を解決する為の管轄権を守ることにあり、条約上、親権や養育権を決めるものではありません。養育に関する問題は返還後の家庭裁判で決まります。
申請手順と流れ:
1.加盟国の確認
もし他方が無断で子供を海外へ連れ出した場合はまず最初に目的地の国が何処かを調べる必要があります。連邦警察署へ連絡し、子供の出国情報を確認します(子供の親でないとこのような情報は開示されません)。国がハーグ条約加盟国かどうかはFamily Law (Child Abduction Convention) Regulations 1986のSchedule 2か、ハーグ国際私法会議のウェッブサイトか、国際誘拐ホットライン1800 100 480で確認が取れます。
2.書類の作成
加盟国であることが確認されたら、連邦司法長官局Commonwealth Attorney-General’s Department, Family Law Branchへ子供の返還請求の依頼をします。
申請に必要なのは次の書類です:
1. 申請書Form 1 – Application for the Return of a Child
2. 供述書Supporting Affidavit.
上記の書類は連邦司法長官局のウェッブサイトからダウンロードする事が出来ます。又、申請書類は同局から子供が居住してる国の中央当局へ配信され、その情報が現地でも使われるので情報はなるべく細かく、正確に記入する事がポイントです。尚、供述書には現地の裁判所が事件の背景が分かるように、次の情報を入れると効果的です:
1. 相手側との同棲、婚姻、別居、離婚日など。
2. 子供を連れ去られた時の状況。
3. オーストラリアで子供が居住していた環境。
4. 相手側が子供を返還しない理由が当方に分かっている場合は、その理由。
5. 子供が海外へ連れ出されて12ヶ月以上経ってる場合は申請が遅れた理由。
子供が住み慣れてる環境をなるべく変えないのが一般的な家庭裁判所の考え方です。従って子供が連れ出された事が判明したら至急、手続きを行った方が良いでしょう。もちろん連れ去った親と連絡が取れるようでしたら交渉で問題を解決するに超したことはありません。
3.書類の提出
作成された書類は連邦中央当局(Commonwealth Central Authority)であるキャンベラか、各州に有る州中央当局(State Central Authority)に提出する事が出来ます。但し、州中央当局に提出された書類は必ず連邦中央当局に転送されます。
キャンベラに書類を郵送する場合は下記の住所へ:
The Manager
Australian Government
Attorney-General’s Department
International Family Law Section
Civil Justice Division
Robert Garran Offices
National Circuit
BARTON ACT 2600
4.子供の返還
申請書類を受理して直ぐに連邦司法長官局は子供が連れて行かれた国の中央当局へ返還の請求をします。これをConvention Protocolとも言います。
子供の返還依頼を受けた国の中央当局は現地の裁判所へ子供の捜索・変換作業に必要な裁判所の命令Recovery OrderやLocation Orderなどの手続きをし、現地の警察署が協力し、子供を見つけオーストラリアへ返す手順を積極的に取ります。
通常、ハーグ条約に基づいて返還される子供は奪取した親と戻ってきますが、もし誘拐前に子供は残された親と居住していた場合は子供が当方に戻ってくるよう申請書の質問項目7番に記入する必要があります。
5.家庭裁判
子供の返還後は養育に関する交渉・裁判を進めないといけません。ハーグ条約は親権や面会等を決めるものでは有りませんので、今後の養育に関しては他方と交渉し、解決出来ないようであれば家庭裁判所への申立てが必要です。
その他のポイント:
ハーグ条約を使い、海外で子供の返還作業に掛かった費用は基本的に申請者本人が負担しないといけませんが、国によっては現地の法律扶助制度を使える場合があります。又、経済的に余裕の無い方の為にオーストラリア連邦司法長官局は様々な条件を満たしてる者に経済的な援助をする制度Overseas Custody (Child Removal) Schemeを提供しています。但し、オーストラリアで発生した費用は同制度の対象外です。
尚、今現在日本はハーグ条約に批准していません。従って、子供が日本へ連れ出された場合は返還の請求が出来ず、法的に子供を連れ戻す事は非常に難しくなります。
本記事は法律情報の提供を目的として作成されており、法律アドバイスとして利用されるためのものではありません
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来豪26年になる岡本弁護士は、オーストラリアでの生活経験が豊富な上、日本人のルーツを大切にしている。2003年にQLD工科大学法学部大学院を卒業し、家族法と移民法を中心に日本語で法律相談を行っている。
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