群馬、福島、新潟三県にまたがる尾瀬国立公園の山開きがきのう福島県側であった。ミズバショウが既に咲き始めた所もある。見ごろは六月初めだ。
「山上の楽園」と称せられる尾瀬が有名になったのは名曲「夏の思い出」のおかげではなかろうか。愛らしいメロディーを口ずさめば、行ったことがない人でも美しい自然が目に浮かぶ。
一九四九年、江間章子さんの歌詞に中田喜直さんが曲を付けた。近著「夏がくれば思い出す―評伝 中田喜直」(牛山剛著)によると、中田さんはピアノに向かってさらりと書き上げ、母親の指摘で全面的に改めたという。
牛山さんは日本語のリズムと抑揚を旋律に乗せることができた天才と評する。「雪の降る街を」「小さい秋みつけた」「めだかのがっこう」などがおなじみだ。岡山市の岡北中学校や津山市の美作高校の校歌もある。聞いてみたい。
「夏の思い出」がNHKラジオで放送されると、尾瀬に登山家やハイカーが続々と訪れ、自然の荒廃が心配されるまでになったのは、作者らにとっては不本意だったろう。
尾瀬は今や日本の環境保護運動のシンボルだ。自動車の進入を禁止し、湿地に木道を設け、ごみ持ち帰り運動を繰り広げるなどの取り組みが続く。美しい歌が自然を守る力になってほしい。