裁判員制度のスタートに合わせて21日、逮捕された容疑者に国費で弁護士をつける被疑者国選弁護制度の対象事件も拡大される。これまでは殺人や強姦(ごうかん)などの重大事件に限られていたが、窃盗や傷害などの容疑で逮捕された容疑者も利用でき、対象事件は10倍に跳ね上がる見込みだ。弁護士を確保できるかが最大の焦点だが、制度を運営する日本司法支援センター(法テラス)や日本弁護士連合会は「態勢は整った」と強調している。【石川淳一】
法テラスなどによると、制度対象事件は08年度1年間で7411件だったが、拡大後は年間で8万件前後に増えると想定。国選弁護を担う契約を法テラスと結んでいる弁護士は、弁護士全体の58%の1万5556人(4月1日現在)に上るが、都市部に集中しており、地方での対応が課題だ。
日弁連は、過疎地や事件多発地で、弁護士1人当たり年15件以上の受け持ちが見込まれる地域の対策を検討してきた。地裁支部管内で事件が起きた場合、地裁本庁所在地や他の支部の弁護士を派遣して対応する方向という。武井康年副会長は「懸念は解消され、全国で対応可能だ」と自信を示す。
また、法テラスは、弁護士が少ない地域に重点的にスタッフ弁護士を派遣。離島も含めた22カ所には「司法過疎対応事務所」を設置した。スタッフ弁護士は国選弁護が主業務で、1人年50件程度を担当するとみられる。
現在逮捕・拘置されている容疑者も、21日以降は制度が適用される。捜査機関が容疑者に事前通知しており、制度拡大直後は一斉に弁護希望が出る可能性がある。法テラスは対象拡大直後を「集中期」と位置づけ、各地の地方事務所に弁護士を確保するよう呼びかけている。
裁判員制度スタートにあたり、竹崎博允(たけさきひろのぶ)・最高裁長官は「刑事裁判に国民の参加を求め、分かりやすく迅速な裁判を実現し、国民の意見を反映させることで、司法に対する理解と信頼を深めることを目的としています。我が国の司法制度にとって新たな一歩となります。ご協力をお願いします」との談話を発表した。
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■ことば
逮捕から起訴までの容疑者段階で、資力のない容疑者が国費で弁護士を付けられる制度。捜査機関の強引な取り調べを防ぐのが目的。起訴された被告の国選弁護は以前から行われていたが、日弁連などが導入を主張して刑事訴訟法改正で06年10月にスタートした。
毎日新聞 2009年5月21日 東京朝刊