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映画『鈍獣』の主演・浅野忠信がテレビドラマに出演しない理由とは?

nikkei TRENDYnet5月21日(木) 11時36分配信 / エンターテインメント - エンタメ総合
映画『鈍獣』の主演・浅野忠信がテレビドラマに出演しない理由とは?
映画俳優として日本をはじめ海外でも注目浴びる浅野忠信。これまで60作以上の映画に出演し、アカデミー賞をはじめとする海外の映画祭にも数多く参加している。今年は4本の出演映画が公開予定。今回は、映画界を代表する彼にインタビューし、『鈍獣』での意...
  映画俳優として日本をはじめ海外でも注目浴びる浅野忠信。これまで60作以上の映画に出演し、アカデミー賞をはじめとする海外の映画祭にも数多く参加している。今年は4本の出演映画が公開予定。

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 今回は、映画界を代表する彼にインタビューし、現在公開中の『鈍獣』での意外な役作りとテレビではなく映画を活躍の場にする理由を聞いた。

映画『鈍獣』とは

 2004年に岸田國士戯曲賞に輝いた宮藤官九郎の同名舞台劇を映画化したもの。宮藤色のコメディーが随所に散りばめられたミステリー作品。

 雑誌編集者の静(真木よう子)は、失踪した人気作家の凸川隆二こと凸やん(浅野忠信)を追い、相撲が中心のおかしな田舎町にたどり着く。静の前に現れたのは、凸やんの同級生でホストの江田(北村一輝)やその腰巾着である警官・岡本(ユースケ・サンタマリア)、江田ひとすじの愛人・順子ママ(南野陽子)、ぶりっこホステス・ノラ(佐津川愛美)などくせのある人物たち。

 江田と岡本は自分たちの過去の秘密を小説にした凸やんの殺害を企んでいた。しかし、彼らが何度凸やんを殺しても、彼は絶対に死なないのだ。コミカルでいて、スリリングに描かれたミステリー。果たして、彼が死なない理由はなぜなのか?

浅野忠信が映画出演に一番こだわるところは…

 今作の『鈍獣』で、浅野忠信が演じる凸川隆二(凸やん)は、非常に鈍感な男。その鈍感さは、何度殺されても気付かずに生活を続けるほど。殺しても死なず逆に殺すたびに元気になっていき、周囲に脅威を与える人物だ。

――この変わった男を演じるために、どういった役作りをしましたか?

浅野忠信(以下、浅野): 今回演じる凸やんは、能天気な性格で、鈍くてちょっと変わった男でした。なので、真剣に演じるよりも、ある種いい加減になる方が役にはあっているように思いました。

 そこで、撮影現場では、撮影と休憩時間でのオンとオフの切り替えを一切しないで演じてみました。普通、映画の撮影では休憩時間に共演者と仲良く話して、休憩が終わると自分の役に入り込むよう切り替えていくんですが、今回は休憩のテンションのままで撮影に入りました。そうすることで共演者の方は、お芝居が始まったときに、休憩のテンションのままでいることに驚いて混乱すると思いました。無神経で鈍感なところに驚く映画のストーリーに合うので、いつもと違う形で撮影に臨みました。

 本作は、2004年に宮藤官九郎が演出した同名の舞台が原案となっている。舞台は第49回の岸田國士戯曲賞を受賞しており、話題を呼んだ作品。映画の脚本は舞台同様、宮藤官九郎が手がけている。

――凸やんは、インパクトが非常に強い役ですが、主演のわりに出演シーンは少ないと思います。映画に出演するときに、一番こだわるのはどこでしょうか?

浅野: 一番大事にするのは、脚本と監督ですね。今作で言うと脚本の部分が大きかったです。自分の役がどうであるかあんまり考えずに、本として読んだときに非常に面白かったので出演を決めました。もちろん、元々、舞台作品であったのは知っていましたが、映画として作るので劇は見ていませんね。

 それと、出演シーンがあまり多くない役であっても、インパクトの強い役はわりと得るものが大きいことがあります。今は、どんな役でも変にプレッシャーを感じなくなった分、より役を楽しむようにしています。

監督をすることで演技にも変化が

 2000年から2009年だけでも30本を超える映画に出演している浅野忠信。映画俳優としての地位を確実につかんだ今、監督業にも興味を持っていると言う。昨年にはオムニバス映画『R246 STORY』の中で、「22446」という作品を監督している。

――監督をすることによって、演技の幅や見え方は変わって来るのでしょうか?

浅野: 変わってきます。見られている側が見る側に変わった瞬間にずいぶん見え方が違うと思いました。そのことを知るか知らないかでは、ずいぶん変わる気はしますね。

 僕はわりと細かいことを気にし過ぎるタイプで、リアリティーがあるように、ゆっくりと細かく役を組み立ていくんです。自分自身がリアリティーのない映画を見ないこともあるんですが、それによって大胆に演じれないこともあったんです。ですが、監督をしたことで、もっと大胆にやってもいいんだと分かるようになりました。レンズを通して見ると、大胆な演技をする俳優さんは意外と面白かったんです。メリハリが付くという意味では、演技を大げさにしてもしっかり伝わることを、監督をやって初めて気づきましたね。

――近年、邦画バブルと言われるほど邦画が好調ですが、興行成績が芳しくなかった一昔前の邦画と何が大きく違うと思いますか?

浅野: 個人的には、日本映画はもともと優れたものが多かったと思っています。洋画人気が続いた時期もありましたが、それは日本映画が優れてなかったかという意味ではないと感じています。映画人たちが全力で作る優れた作品はずっと作られ続けてきています。

 ただ、もちろん映画の作られ方には多少の変化があるかもしれません。例えば、テレビ局が主体となって映画を作ることも増えています。でもそうやってメディアがお互いのいい所を出し合い、協力し合って映画を作ることはすごく素敵なことだと思います。とにかく今は、日本映画の良さを再認識する時期が来ているんだと思いますよ。それを持続できれば一番いいですね。

 近年は、人気となったテレビドラマの映画化が多く、興行的にも成功をおさめるケースが増えている。昨年は、『花より男子ファイナル』や『容疑者Xの献身』(ドラマでは『ガリレオ』)『相棒-劇場版-』が2008年度の興収ベスト10入りしている。今年も『ROOKIES』や『ごくせん』など人気ドラマの劇場版が控えている。

――今、話にもでましたが、テレビドラマ主体の映画作りが増えていますが、映画を中心に活躍されてきた浅野さんとしては、この流れをどう思いますか?

浅野: 全然悪いことだとは思っていません。今の若い観客がそれを求めていて、面白いと感じているから、その流れがあるはずなんです。新たな形ができることはすばらしいことだと思いますよ。それで映画が盛り上がってくれて、そのほかの邦画や洋画、昔の作品にも興味がつながれば非常にいいことです。

 僕はまだほんの一瞬しか、映画の世界に携わってないですけれども、正直、邦画が盛り上がっていない時期もありました。ですから、今の邦画人気にわがままを言える状況じゃないことをよく理解しているんです。盛り上がっているものには、やはり有難みしか感じられません。盛り上がっている中に、少しでも自分たちの役割があるのなら、本当にうれしいこと。また元気のない時期には戻りたくないですからね。映画の本数も増えているので、もっと僕に役割をくださいって感じです。

つまらないことを面白く変える方法

――映画俳優をやっていて、嫌なことや報われないこと、制限されることもあると思います。それでも1つのことをずっと続けられるのはなぜでしょうか?

浅野: 本当に嫌なことなら辞めるしかないと思います。僕は俳優を好きで選んで始めたわけです。そこに選ぶだけの理由があって、面白さがあるはずなんですよ。自分がやりたくて始めたのだから、チャレンジし続けるべきだと思います。あと、本当につまらないことであっても、自分にはそれを面白いものに変えるだけの力があると信じれば、結構やる気が出てくると思うんです。気持ちの持ちようと言うか。

 僕は100あるうちの90が辛そうで嫌だなと思う役であっても、残りの10に面白そうだなと感じられるところがあれば、その役を引き受けたりします。つまり、それにトライしてみる価値があるって事なんです。10の部分を見つけた直感に自分の信用を置くというのは、結構重要だと思いますけどね。

 それと、これまで出演してきた映画でも印象に残っているのは、辛かったものが多いんです。辛いと言っても振り返ってみれば、楽しかったことにしか思えないんですけどね。後々、いい経験になるので、そう考えるとやっぱり辛いと思うことこそ、楽しさを探しながらやるべきだと思います。

 昨年4月に公開された主演作の『モンゴル』は、チンギス・ハーンの生涯を描いたもの。アカデミー外国語映画賞にノミネートされたことで話題となった。製作は、ドイツ、カザフスタン、ロシア、モンゴルの合作で、監督はロシアのセルゲイ・ボドロフ。チンギス・ハーンを演じた浅野は全編モンゴル語で撮影に挑んだ。

――昨年、アカデミー賞にノミネートされた『モンゴル』も苦労の分、忘れられない作品ですか?

浅野: そうですね。大変でしたけどロシアの監督と一緒に映画を撮ってみたかったし、誰でも経験できるわけではないので、本当にありがたかったです。これまで何度も海外の映画祭に参加させてもらったことで、自分の活動する場所が日本だけではないんだと理解するようになりました。今では仕事もそういう選び方をさせてもらっています。結果的にアカデミー賞という形で評価されて、すごく救われた気がしましたね。

テレビドラマに出演しなくなった理由

――あまり人前に出て、目立ちたいというタイプではないように見えますが、俳優をやりたいと思ったのはなぜですか?

浅野: 実は、僕は小さい頃から有名人になりたかったんです。きっかけは、僕が幼稚園か小学校入ったぐらいの頃に見たウッドストック(※1)のロックフェスティバルですね。母親がビデオか何かで見せてくれたんですが、ステージの上に立つ人に大勢の観衆がお祭り騒ぎして喜んでいるのを見て、人前で大勢が喜ぶようなことをしたいと思い始めました。今考えると、彼らは俳優ではなくミュージシャンなんですが、当時の僕にはその括りがなくて、テレビに出ている人=有名人みたいな感じでしたね。

――有名人になりたかったという割には、人前に出ても穏やかで目立とうという感じではないですよね?

浅野: それはたぶん小さい頃の経験が大きいと思います。祖父が米国人だったこともあり、幼い頃は髪が金髪に近かったんです。だから普通にしてても目立っていたんですよね。それもあって、人から声をかけられることが多く、自分から無理に目立つことをしなくてもいいんだって思うようになったんですよ。でも、俳優としてデビューした頃は逆に恥ずかしかったですね。友達とかに自慢もせずにいました。

――10年ほど前からテレビドラマなどに出演しなくなっていますが、なぜでしょうか?

浅野: 最初の頃はテレビにも結構出演していましたが、マネージャーと喧嘩することも多く俳優を辞めたいと思う時期もあったんですよ。それと僕の感覚ですが、テレビはシステムに縛られて撮影している感じがして、撮って放映されて、また撮ってすぐ放映されてというサイクルが自分に合わなかったんですよね。映像という意味では同じですが少し機械的というか。

 逆に映画は感情的につくる印象が強かったんですよ。撮影は本当に大変で、徹夜してまた次の日も朝早くて。それでもいい大人が時には喧嘩しながら、同じ目標に向かって頑張る姿がなんだかすごく自分の中で信用できることに思えましたね。僕が若い頃に関わった映画の中には、公開されるか分からない作品も結構あって、それでもみんながむしゃらに撮り続けているのを肌で感じて、この世界だけでやりたいと思うようになりました。

 実際に映画中心の活動になると、今度は映画スタッフから「これからもお前は映画だけでやれよ!」と愛情を込めて言ってくれるようになったんです。すごく大切にしてくれるし、そう言われると、いまさら俺がテレビでやってもしょうがないかなと思うんですよね(笑)。

俳優より「映画俳優」と言われたい!! 

――では、俳優というより「映画俳優」と言われる方がうれしいのでしょうか。

浅野: はい、ありがたいです。20代の頃から多くのベテラン共演者の方に「浅野君は映画俳優として頑張ってね」と言ってもらってここまで来ました。誰かが映画俳優と呼んでくれることで、映画一筋でやっていけることを示せていると思います。

――映画監督も若い人が増え、助監督経験を踏まずにいきなり監督ができる環境にもなっています。ひと昔前とは大きく変わっている現状をどう思いますか?

浅野: それは全然ありだと思います。ただ、若い監督は、映画しかない時代からやっている人たちの経験や知識を機会があるなら学ぶべきだと思います。今の技術しか知らずに映画を撮るのはもったいないと思います。

 もちろん、その逆も言えます。ベテランの映画人も新しい技術や映像を学ぶべきだと思います。自分の世界に固執せずに映画の持つ自由さを受け入れるべきです。お互いがリスペクトし合って相乗効果を生む必要があると思います。僕も俳優として壁を作らずに、若い人たちの野心的な撮影の仲間に入れもらいたいし、ベテラン監督の持つ手法もきちんと教えてもらいたいです。

 それと、海外とも手を組んでどんどん映画を作るべきだと思います。特にアジアは距離も近いので、もっと仲良く映画を撮ってほしい。どうしても日本は閉鎖的な部分があり、海外の人と話をすると、そこを指摘されるのでまず閉鎖的なところを取っ払うのがいいと思いますね。

 多少、騙されることや変だなと思うことがあっても、それは最初だけですから、慣れて相手を理解すれば、解消されていくと思います。違和感はあるかもしれないですけれど、それならなおさら早いうちに解消したほうがいい。世界中の人と一緒に作品を作れるのが映画の良さだと思うので。

(写真/菊池 友理、文/永田 哲也=日経トレンディネット)

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  • 最終更新:5月21日(木) 19時 9分
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