その10
ケンスケは朝から少し変だった。僕が命じたイカ焼きを買い忘れるし、コーラ買ってこいというと間違えて豆乳を買ってくる始末。飲めるかこんなもん! ずっときょろきょろ落ち着きが無いし、階段で派手に転んでカメラを破損したっていうのに落ち込む様子が無い。一体何なんだ? 僕は昼休みにケンスケを屋上に呼び出した。子分が何か悩んでいるとしたら、ちゃんと相談に乗ってやるのが大将の勤めと言うものである。いやぁ、僕っていい奴だ。ケンスケは僕の呼び出しから二分と遅れずやってきた。相変わらず落ち着きがなく、なぜかでっかいカバンを持っている。一体なんなんだ? 僕は首をかしげて尋ねた。
「よぅ、今日はどうしたってんだ? 突然笑い出したりよ。サバイバルごっこで変なキノコでも食ったんか?」
「ああ・・・碇。俺はさ、碇にどうしても聞きたいことがあるんだよ」
「何だよ、言ってみな」
「笑わないでくれよな」
「いいから言えって水くせえ」
ケンスケは満面の笑みを浮かべる。そしてゴソゴソと端末をカバンから取り出し、何やらカチャカチャと操作し始めた。そして、ニヤニヤしながらその画面を僕に見せた。そこには、クレーターのような映像が映っており、それが何を意味しているのか僕には少しの間わからなかった。ようやくそれが何なのかわかって納得した瞬間に、ケンスケは身を乗り出してきた。
「こりゃ四号機の事故画像だな。何でお前がこんなもんもってんだ?」
「パパの端末からちょっとね」
「お前なぁ、情報窃盗は案外重罪なんだぜ。ネルフに見つかったらとっ捕まって尋問コースだぞ」
「大丈夫だよ、俺のパパだってネルフなんだからさ」
「しょーがねぇ奴だなぁ・・・で、これがどしたんだ?」
「四号機の事故のせいで・・・アメリカ支部は参号機の所有権を手放すんだろ?」
「ああ・・・ミサトが何かそんなこと言ってやがったなぁ。こっち送られてくるらしいから今チルドレンの選別を・・・」
「それだよ! うぐっ」
うお。鼻先二センチくらいのところに、鼻息の荒いケンスケがいきなり迫ってきたもんで、僕は思わずケンスケを殴り倒してしまっていた。端末がケンスケの手から飛び跳ね、危うく地面に落ちる瞬間に僕が慌ててそれをナイスキャッチする。
「わりわり、チューされるかと思ってよ、思わず殴っちまったアハハ」
「いてて・・・ひでぇなあ・・・」
「いや、悪気はねんだ、メンゴメンゴ」
「メンゴって古いなぁ。ま、いいけどさ。で、それなんだ」
「えーっと何だっけ?」
「参号機の候補者の話だよ!!」
「お、おう。お前ちょっと落ち着けよ」
「俺は冷静だよ! 冷静に熱いんだ!」
僕はお前のちょっと危ない姿を見て寒々しい。と、言う言葉は抑えて、ああそうかいと頷く。ふぅふぅと鼻息の荒いケンスケは握り拳を熱く掲げて何やらトリップ中だ。こいつこんな奴だっけ・・・ああ、ミリタリ関係はこんなもんだったな。何か疲れを感じた僕は軽くこめかみを揉んだ。
「でさ、碇。お願いがあるんだ!」
「何だよ。何かもう想像つくけど一応言ってみ?」
「俺を参号機のパイロットに推薦してくれ!!」
「えー・・・ヤダ」
「な、何でだよ!!」
「だってよー・・・アスカの近くに男が増えるのヤダもんよ。女ならいいけど」
「惣流なんかどうでもいいよ!! 問題は参号機に乗れるかもしれないってこ、あぐっ ・・・何で殴るんだよ碇」
「アスカがどうでもいいってのは聞き捨てならね。貴様喧嘩売ってマスカ?」
「うぅ・・・。えー・・・ま、まぁそれはともかく・・・俺が碇を裏切るようなことをすると思うか!?」
「あー。んー。そうだなぁ、イケメンな奴とか新しくチルドレンになったらヤだしなぁ。まだマシっちゃマシだよなぁ」
「だろ!? 俺なら安心だろ!? なぁ、頼むよ!」
ケンスケの熱意は留まることを知らず、逃げ損ねた僕は殴られて鼻血をたらしながらも諦めないケンスケの熱量に徐々に押され始めた。うう・・・この僕が気圧されるなんて。なかなかの気合に僕は徐々に感心し始めた。いいね、こういう奴、嫌いじゃない。うん、気合が入ってる。こんだけ根性据えて僕に迫れるのだから、エヴァに乗っても案外やるかもしれない。僕は段々、本気になってきていた。
「よっしゃ、わかった! ケンスケ、お前の気持ちはビンビン伝わってきたぜ! ミサトに推薦しまくってやる」
「ほ・・・本当か!!」
「おうよ。その代わり、参号機に乗ることになったらビビった瞬間殺すからな。二回殺す! いいな!?」
「勿論だ! ああ・・・ああああああ!! ようやく・・・ようやくこの日が来たのか!! うおおおお!」
「ちなみに僕が言ってもミサトが駄目つったら駄目だ。そのときは諦めろな」
「うおっうおっうおおおおお!! 俺はやるぞおおおおお!!」
「いやだから、えーっと、相手ミサトだからよ・・・絶対とは」
「やぁぁってやるあああぁぁぁぁ!!」
「・・・」
最後の僕のセリフは多分聞こえてない。まぁいいか。僕が推薦すれば多分、ミサトはケンスケを推すだろうし。これは一般には秘密にされていることだが、僕の通う高校の、僕の所属するクラスはチルドレン候補者が集められたクラスなのである。これは特定の資質を必要とするチルドレンを一箇所に集めることで、候補者が誘拐されたり他支部に囲われたりするのを防ぐ防犯上の理由や、もしも今のチルドレンに欠員が生じた場合(ありえねぇとは言えない。実際この間僕は死にかけた)に即座に補充ができるよう、近くに置かれている、と言う大人な理由もある。だから僕もアスカも綾波も都合よく同じクラスなのだ。ここはネルフでは「牧場」と言う隠語で表現されている。初めてそれを知った時、当然反発を覚えたものだが、今はアスカと必ず同じクラスでいられるという強力な利点の前に感謝すら捧げたい。「牧場」最高!
その、「牧場」の一員であるケンスケは、要するにエヴァに乗る資質有りってことだ。結局新人なんてどれでも一緒(僕は違ったけどな!)だと語っていたミサトなのだ、僕がコイツ気合入ってる、必ずやるって言えばそれは重要な意思決定のファクターとなるだろう。僕はその夜、さっそくミサトに提案した。
「ケンスケって覚えてるか?」
「ああ、あのミリタリオタクの子でしょ? あんた、虐めてないでしょうね」
「舎弟としてかわいがってやってるだけでぃ。で、アイツな」
「うん、その子がどうしたのよ」
「参号機の候補者リストに入れてやってくれよ」
「何で? つうか何であんた参号機のこと知ってんのよ!」
「お前一昨日酔っ払って泣きながら話してたじゃんよ」
「!! ・・・う、嘘よ、覚えてないわ」
「アホほど飲むからだ馬鹿。まぁ、精神的にキツい役目だっつのはわかるけどよ。無理強いするわけじゃねんだからもうちょい気楽にいけや」
「うっさいわね! 私はナイーブなのッ で、あんたがわざわざ推薦するってのはどういうことなの?」
「嫌々乗る奴より、ずっと使えると思うからだ。あいつな、エヴァ乗りたがってんだ」
ミサトは渋い顔をした。なぜ渋るのか、僕はわからなかった。
「あのね、シンジくん。その子はきっとエヴァと言う兵器にカタルシスを感じているだけよ」
「語る・・・寿司? なんだそりゃ。食えるのか?」
「・・・聞き流して。難しい言葉使ってごめんねシンジくん・・・」
「今ちょっと馬鹿にしただろ。馬鹿にしただろ! オイ!」
「うっさい。黙って最後まで聞きなさい。噛み砕いて言うとね、エヴァがかっこいいから乗りたいって動機なんだと思うのよね、私は。でも、そんな気持ちで乗れるものだと・・・あんたは思うの?」
「ああ、乗れると思うぜ。僕は乗れたしな」
「あんたは脳味噌カラッポだっただけじゃない。普通はアンタと違ってお味噌が詰まってんの。だからね、きっとエヴァに乗るってことをナメてるわ。エヴァに乗れるのは、乗らなきゃならない理由がある奴よ。アスカも、レイにだって理由がある。あんたにも今は理由があるでしょう? それから・・・鈴原くんとかね?」
「トウジが? あの馬鹿に何の理由があるってんだ。体育の後、自分の靴下匂って悶絶してるような馬鹿だぞアイツは」
「彼には事情があんのよ。これは個人的なことだから言えないけど・・・彼なら、やるわ。守るべきモノがあるからね」
僕にはさっぱり理解できなかった。だってあんなアホよりも、乗りたくてたまらないケンスケのほうがよっぽど肝も根性も据わって見えるからだ。僕は納得いかなかった。しかし一つだけはわかる。ミサトはトウジを乗せる気だってことだ。委員長の家から帰ってきたアスカが居間にやってくる。「何? 何の話してんの?」と尋ねてきたが、僕もミサトも応えなかった。アスカは「牧場」のことを知らない。あいつの友達である委員長もチルドレンだと知ったら、アスカは複雑だろう。だから僕は教えてないし、ミサトも同じような考えでアスカに気を使っていた。僕は首をすくめた。
「アスカ、ミサトの奴、昨日寝ゲロしたらしいぜ」
「げっ きったな〜ぃ!」
「だよな! 最悪だー酒減らせこの無能ぶちょー」
僕はわざとおちゃらけて笑った。ミサトも苦笑した。ミサトの気持ちはわかった。どうやらケンスケを乗せる気は無いってことだけは確かだ。明日、奴に残念な結果を伝えねばならないだろう。それでもケンスケが納得しなければ、次は直談判でもさせるしかないな・・・と僕は思った。
「ってわけで、ミサトはお前乗せる気ねぇみたいだぜ」
ケンスケが気の毒な程肩を落として呻き声を上げた。僕は多少昨日の内容を脚色し、実は既に適正無しでシンクロできないという理由をでっち上げてケンスケに伝えることにしていた。真実を告げるのは幾らなんでも残酷に思えたからだ。ミサトは要するにケンスケの心のほうに適正が無いと断じていたのだ。僕には気合たっぷりに見えるケンスケだが、ミサトはそうは思えないらしい。僕自身納得いかないものがあったが、仕方ないといえば仕方がない。決める権限を持っているのはミサトであり、ミサトの決断が無ければ僕が暴れようが叫ぼうがケンスケをチルドレンにすることはできない。
まぁ所詮他人事なので僕はさっぱりその辺はどうでもよくなっていた。ケンスケにはトウジが選ばれそうだと言うことは伏せた。それもショックが大きいだろう。何で僕がこんな気を使ってやらにゃならんのだという気持ちも手伝って、僕はすっかりケンスケをチルドレンにしてやろうと言う熱意を失っていた。
「ま、仕方ねぇわな。どうしても戦争やりたかったら戦略自衛隊にでも志願しな」
「戦自には18歳以上でないと志願できないんだ・・・でも本当に頼んでくれたんだよな。ありがとな、碇・・・」
「ま、気にすんなよ。駄目だったんだしよ」
そう言って僕はケンスケが買ってきたコロッケパンを齧った。しばし無言の時間が続く。何となく次の授業に出る気がしなくて、チャイムが鳴っても僕とケンスケは屋上でボーっと時を過ごしていた。すると、授業中にも関わらず屋上のドアが開かれた。僕は慌てて煙草を投げ捨てて振り返る。屋上に出てきたのはトウジだった。
「んっだよ! 驚かせんな馬鹿ジャージ!」
「んあ、一服中やったんか。そりゃスマンのう」
「次停学食らったら僕はミサトに殺されちまうんだよタコ・・・あービックリした・・・」
「センセがガッコで煙草吸うから悪いんや。ちょっとは我慢しぃや」
「我慢できたら煙草なんざハナっから吸ってねぇよ。辞めらんねーから仕方ねーっつうんだ」
「ほうか・・・まぁ、丁度ええわ。センセに話したいことがあるんや」
そう言ってトウジはケンスケをチラっと見た。ああ。何となくその用件がわかってしまって、僕は溜息を吐いた。まぁ、ケンスケには悪いが、どうせ長くは隠せる問題じゃない。僕は首をすくめて言った。
「エヴァに乗れって言われたんだろ? ミサトと金髪のねーちゃんによ」
「・・・! 何でわかったんや?」
「昨日な、あっこでしょぼくれてる奴をミサトに推薦してやったんだ。そしたら、もうトウジに決めたんだって言ってたからよ」
「ほうか。ほな、ケンスケには悪いことしたのぅ」
「気にスンナ。ケンスケ、お前も気にしてねぇよな?」
「あ・・・ああ。おめでとう、トウジ・・・」
ケンスケは苦しげに、だがやっとのことでそう言った。うんうんと僕は大きく頷いた。よしよし、偉いぞケンスケ。それでこそ男だ。今度カメラ新しいの買ってやるからな。ウジウジしたってどうしようもないことは笑い飛ばせばいいんだ。わざわざグタグタした態度で人様を不愉快にすることなんか無い。胸を張ってりゃいいのだ。だが、ケンスケの言葉に、トウジは悲しげに顔を歪めた。
「おめでとう・・・かぁ。わしよりケンスケのほうがよっぽど適任や思うんやけどなぁ」
「ミサトの考えるこったからな、何か理由があんだろうぜ。つうかこの僕と同じ立場に立ったっつーのに浮かねー面だな。どったんだ? 給料アホほどもらえるぜ?」
「金か。金もええけどな。ワシ、ケンスケには悪いんやけどホンマはあんま気が進めへんたんや」
「なんでだよ?」
「死ぬかも・・・しれへんやん?」
それは実に正直な吐露で、僕は神妙に頷いた。
死ぬかもしれない。確かにそうだ。僕が前回の使徒戦で死にかけたことは勿論この二人も知っている。ケンスケが聞きたがるから、僕は毎度使徒襲来の度にその体験を面白おかしく話してやっているからだ。しかし前回の奴はさすがの僕もおちゃらけて脚色交えて話すことはできなかった。ケンスケはそれでも能天気に喜んでいたが、そう言えばトウジは神妙な表情だったことを覚えている。エヴァに乗る、と言うことは使徒と命の奪い合いをすると言うことに他ならない。僕は実際に何匹も使徒を殺してきた。前回も、運がもう少し悪ければ今度は僕が死ぬ番だったのは疑う余地が無い。
負ければ全人類を巻き添えにする・・・と言う事実が、僕の個人の死の重さを軽く感じさせていた。だが、僕も前回の戦いで思い知ったのだ。そんな感覚的な「全人類」など、結局のところ自らの危機に比べればかなりどうだっていいってことだ。そうか。僕はようやくミサトの言葉の真意に気付いた。自分の命と秤にかけれるだけの理由が無ければ・・・エヴァに乗るのは難しい。
僕には理由がある。恥ずかしいから絶対誰にも言わないが、親父が結構がんばってることを知ってる。アスカに死んで欲しくない。ミサトも僕は何だかんだ言って頼りにしてる。綾波が使徒との戦いに嬉々として飛び込んでいるのに、僕が怖気づくなんて考えられない。使徒とかいうバケモンに屈するのは意地と誇りが許さない。それらは命の危険があるかもしれない、と言う事実よりも僕の中で比重が大きく、恐怖をねじ伏せるだけの重みがある。しかしケンスケはどうだ? 何か守るべきものがあるのか? 戦いに望む覚悟が果たして理由もなくできるものか? ああ、そうか。僕はとても合点がいった。なるほど、ミサトの言う通りだ。
兵士は訓練を通して恐怖をねじ伏せる術を手に入れるのだ、とミサトは僕を白兵戦技の訓練でボコボコにした後に言っていた。僕やアスカのように、いきなり実戦に出て、それに「慣れる」ことは確かに恐怖への抵抗手段に成り得る。しかし本当の兵士は、感情を廃し、命令に服従し、すべてを徹底することを叩き込まれるからこそ、戦えるのだ、と。僕は時には命に関わるような喧嘩に慣れていた。綾波はまさに訓練によって恐怖を遮断したように思う。アスカは僕が無理矢理叱咤し、要するにそれが訓練のかわりになった。ケンスケが同じようにできるとは限らない。そしてそうするのであれば長い訓練期間が必要だろう。それでは、間に合わないのだ。
そこで訓練を通して生まれる「覚悟」のかわりになるのが、戦う理由なのだろう。戦わざるを得ない、戦う必然があるならば、恐怖と向き合うことができる。アスカなんてまさにそれで、あいつは未だに話さないが、何らかの命よりも大事な「理由」を持っているのである。ケンスケにはそれすらも無い。ああ、無理だ。僕は頷いてケンスケの肩をとんとんと叩いた。では、トウジにはどんな理由があるのだろうか。恐らくそれなりに抜き差しなら無い理由があるのだろう。
「トウジよーお前なんで乗ることにしたんだ?」
「まだ、返事はしてへんねん・・・センセに話聞いてもうて、それから決めよ思ってな。イマイチ覚悟でけへんっちゅーかやっぱり怖いんや。せやから・・・センセに聞いて欲しかったねん」
「いいぜ、何でも聞いてやる。言ってみな」
トウジは深呼吸して、つかえつかえ話はじめた。
「あんな、わし、妹いるねんか」
「知ってるぜ。それで初日に喧嘩売ってきたんだろ?」
「せやぁ。わしんとこ、親父もじーさんもネルフで忙ししとって、妹の面倒ずーっとわしが見ててん。せやからな、妹が怪我してしもうた時に逆上してもたっちゅーか・・・あん時はスマンかったのう」
「それはもうケジメつけたろ。で?」
「ほんでな・・・妹、このままやと歩かれへんようなるかもしれへんねん・・・」
「そんな重傷だったんか?」
「足の組織がえし?かなんか起こしかけてるらしいねん。でも、ネルフの病院やったら助かるかもしらん。もし・・・エヴァに乗るんやったら・・・妹ネルフに入院させてくれるらしいんや・・・」
「・・・そっか。お前んとこも大変だな」
「正味の話・・・妹が怪我したんはわしのせいやねん。わしが目ぇ離したからはぐれてしもて・・・せやから、わし妹助けたらなあかんねん。まだ小学生やねんで、わしのせいで歩かれへんようなったらかわいそやんか・・・わし申し訳ないやん・・・」
トウジは顔をくしゃくしゃにして泣いた。
「おう、トウジ。エヴァに乗るのは半端ねぇぞ。死ぬかもしんねぇぞ。すげえ痛いしな。それでも妹助けたいんかよ?」
「わしは・・・怖いんや。せやけど、アキコのためや。わしは命賭けてでも償いせないかんと、そう思うんや」
「じゃあ、助けてやれよ、エヴァに乗ってよ。ケジメつけるってことだろ? ビビってねぇで根性入れろや」
「センセに迷惑かけてまうかもわからんで」
「お前みたいな新米が、僕に迷惑も何もねぇよ。今から生意気な心配すんなよケツ拭いてやるっつーの」
「おおきに・・・おおきにな。わし、やるわ」
「おう、やってみりゃ何でも意外と何とかなるもんだ。僕がきっちり教えてやんよ」
僕とトウジは握手した。トウジは鼻水を垂らして泣いた。ケンスケはじっと僕らのやり取りと会話を見ていたが、どうやら自分でケンスケが駄目な理由に気付いたらしく、今度は違うショックを受けて肩を落とした。興味本位の、ただの憧れのような気持ちで「死ぬかもしれない」と言う恐怖に立ち向かうことの困難さを思い知ったのかもしれない。この後、ケンスケがエヴァに乗りたいと言うことは一切無かった。僕らは表面上、いつもの三人でつるんでいたが、トウジはいつも不安感に苛まれたような表情を隠しきれていなかったし、ケンスケは僕とトウジの両方に気を使った。そして、参号機が日本に搬入され、トウジは起動実験を行うことになった。
起動実験は松代の第二発令所で行われるらしい。万が一四号機と同様の事故が起こった場合でも、松代なら失うものはあまりない、と言う毎度のことながら腹の立つ理由からだ。でも、リツコが言うには事故の可能性はずっと低いらしい。四号機事故の原因となったS2機関(なんか使徒のエネルギー源と同じ理屈のエンジンみたいなものらしい)を搭載していないからだそうだ。
「ねぇ、シンジ。あいつ今頃起動実験中よね」
「そだな、そろそろだろうな」
アスカはトウジが参号機のパイロットに選ばれた、と言う事実を知って怒った。なぜ自分のクラスのクラスメートから都合よくチルドレンが見つかるのだ、そんな偶然はおかしい、と怒った。それで僕はせがまれて「牧場」の真実を話した。話したくなかったけど、どんな事実でも構わないから話せというアスカのしつこさに負けて、僕はしゃべってしまった。アスカはショックを受けてその日は口を聞いてもらえなかった。
次の日からようやくある程度機嫌を直したアスカは、半泣きで委員長じゃなくてトウジで良かったって思ってしまったって告白した。そして、そのトウジのことを委員長は好きなのだ、と言うことも口を滑らせた。だから自分は最低なのだ、とアスカは落ち込んでいた。僕はどう慰めればいいのかわからなかったので、ただ黙って話を聞いた。委員長にはとてもじゃないが言えなかったらしい。でも、すぐ知れ渡ることだし、それはトウジ自身が言ったほうがいいと僕は思ったので、アスカに言わなくてもいいんだって言った。それから、トウジにはやらなきゃいけない理由があるからアスカと同じなんだって言うと、アスカは妙に納得していた。僕はこの話の流れでアスカが自発的に弐号機に乗る理由を話してくれるんじゃないかと期待したけど、そんなことにはならなくて少しガッカリだった。
「起動しなかったりしてな」
「そのほうがいいわよ・・・ああ、でも、鈴原は妹さんが・・・」
「そんなもん、起動しなかったとしても何とかしてやれってミサトに言うぜ、僕は」
「そうよね、アタシも言うわよ。バシっと言うわ」
「ぶっちゃけ、トウジが乗れようが乗れまいがどっちだっていいんだ。でもさ、殺生にも程があるだろ? 一大決心して妹のために命かけようつってんのに・・・乗れなかったからって助けないのはよー生殺しじゃん、そう言うの嫌れー」
「武士の情けが無いわよね」
今日今この瞬間、予定通りなら起動実験が行われている最中のはずだ。ミサトもリツコも松代に出てしまった。今日はだからアスカと二人きりで物凄い幸せな気分のはずなのだが、アスカは僕の気持ちを知らないでズーンと落ち込んでいるので僕としては逆に居心地の悪さすら感じる。僕は未だにアスカに告れないでいる。大体だ、一緒に住んでたら余計にそう言う機会がねぇよ。いつもミサトがいるし、顔つき合わせてマジになんのは照れくさいのなんのって・・・。今日はミサトがいねぇから期待してたのに、トウジの件で空気悪すぎ。トウジめ、無事に参号機パイロットになって帰ってきたら訓練にボッコンボッコンにしてやる。僕が後ろ向きな決意をした時だった。突然、僕の携帯とアスカの携帯が鳴った。
「・・・召集・・・ね」
「使徒か! ミサトがいねぇっつうのに。めんどくせー時にきやがったな・・・」
「シンジのパパが指揮ってことになるわよね」
「ウゼー! あの親父は小言がうるさすぎんだ、自由に戦わせてもらえそうもねぇよ・・・かったりいなぁ」
「使徒が来てるのにかったるいって・・・あんたバカぁ? 悠長すぎるわよ。使徒・・・また、戦いになるのよね」
「まさか既にビビってきてんじゃないだろうな? あ?」
「そんなこと! ・・・ちょっとだけ」
「ビビってんじゃんッ」
「だって、怖いもんは怖いわよぅ・・・」
でも大分余裕でてきたな、コイツ。N2爆弾900発くらいフィールドで抑えきったらしいし、それなりに自信ついてきてんのかもしれない。まぁ、そんだけ死ぬ確率が下がるってことで、それ自体はいいことだ。僕はアスカには死んで欲しくない。ほんとはもうエヴァにだって乗って欲しくないくらいなのだ。でも、それを言うとこの女は拗ねるので、言わないだけである。ミサトとトウジは松代で悠長に実験中だ。まぁ、トウジにこれぞパイロットってとこでも、見せてやるとしますか。僕は拳をバキバキと言わせた。
僕の気合は、使徒と呼ばれたそいつを見た瞬間に霧散してしまっていた。漆黒の強面と、しなやかな人体を思わせるボディ。滑らかな動作で歩くそいつはどう見ても「エヴァ」だった。普段見慣れているそれを使徒と呼ばれても、いまいちピンと来ない。僕は首を傾げた。
「親父・・・あれ、エヴァに見えるのは気のせいか?」
「お前の視力が正常である証拠だな。あれはエヴァだ。しかし、使徒でもある」
「意味わかんねぇぜ。エヴァで使徒ってどういうことだよ」
「本部のMAGIが使徒に乗っ取られた件、聞いているだろう」
「ああ。リツコがやっつけたんだろ? 生身でよくやるぜ」
「それと同じだ。今度はエヴァが乗っ取られた。そう言うことだ」
「な・・・なんだと・・・じゃあ、あれは・・・」
「そう、参号機だ」
アスカが嘘!と叫んだ。でも、この状況を見るにつけ、それは疑いようが無い事実だと僕は思い始めた。大体、親父が嘘をつく理由なんかない。事実、あれは使徒に乗っ取られたエヴァなのだろう。そして、問題はトウジが乗っている参号機だ、と言うことだ。親父も難しい顔をして歯を食いしばっている。なるほどね、確かに難しいわな。僕はエヴァットを抜き放った。外部電源から大量の電力がエヴァットに流れ込み、帯電するエヴァットが紫電の閃きを弾かせ始める。僕はそれを振り被っていつでも走り出せるよう腰を落とし、迎撃体制を整えた。
「ちょ・・・シンジ! あれには鈴原が乗ってんのよ!」
「だから何だよ」
「じゃあ! 戦えるわけないじゃない!!」
「綾波、バックアップは?」
「射撃位置についたわ。射線は七時方向。弐号機、邪魔」
「ファースト! あんたも戦う気!? アンタ達、見損なったわよ! あれには鈴原が乗ってんのに!」
「親父。いつでもオッケーだぜ。弐号機以外はな」
「シンジ!」
「うるさい、黙れ! お前、トウジに死ねっつーのかよ!」
「あんたが殺そうとしてるんじゃない!」
「バカヤロウ!! さっさとプラグ引っこ抜かないとトウジがどうなるかわかんねぇだろうが!! ・・・わり、喧嘩してる場合じゃねえな。アスカ、フィールド放射すんじゃねえぞ、トウジに当たったらヤベエ」
「・・・ご、ごめん・・・」
「いいんだ。親父、作戦はあんのか?」
アスカはキレる寸前だったが、僕の絶叫でようやく僕の意図に気付いて項垂れた。こんな言い争いの時間も惜しい。アスカには悪いが、フォローしてやるつもりは今は無かった。そう言うのは後でいい。僕は人命尊重とかそんなのどうだっていい。僕と関係ないところで人が何万人死んでも心はさっぱり痛まない。でも、ダチが死ぬかもしれないなら・・・話は別だ。
「シンジ、まず機動力を奪え。相手は腐っても元エヴァだ。お前達と同等か・・・いや、使徒なのだ、それ以上と考えてもいいだろう。プラグを抜くには足を止めることだ。動いている目標に下手なことをすればプラグを傷つける恐れがある」
「要するに足を狙えってことだな。了解だ、綾波、バックアップよろしく」
「了解。射線には入らないで。ためらわないわ」
「お前にそんな高等な機能期待してねぇ。アスカは俺と反対の足狙ってくれ。トウジがシンクロしたままだったらいてぇだろうけどな、死にゃしねぇよ」
「う・・うん。わかったわ」
僕は静かに頷いた。今までで一番難しい戦いになるだろう。僕は緊張せざるを得なかった。ふざける余裕もない。一つのミスでトウジは死ぬ。エヴァのパワーでぶん殴ったら、肉がひしゃげるどころじゃない。生身の体なんてゴミ屑のように一瞬で血の煙に化けるだろうし、エヴァットやフィールド放射の衝撃は直撃すればプラグごしでも人間くらい殺せるに違いない。もう僕はトウジを五体満足で助けようとも思わない。ただ、死なないようにやるだけだ。命あってのモノダネ、多少は覚悟しろや。と僕は呟いた。親父が迎撃開始と叫ぶ。僕は駆け出した。
参号機・・・いや、使徒は恐ろしく俊敏だった。僕らのエヴァが人の動きを超えないのに対し、奴は確実に人間では不可能な動作で体を捻り、腕の関節を外して延ばし、ブリッジの状態でしゃかしゃかと走る。間抜けな姿だが、恐ろしく早く、僕のエヴァットもアスカのグレイブも中々使徒の足を捉えることができない。綾波の放つ弾丸は案の定と言うか毎度のことというか、ATフィールドに阻まれて牽制以外の役には立たない。僕はアスカが左に回りこんだのを確認してから、退路を断つように使徒に襲い掛かった。使徒はまたもや不自然な方向に足をぐにゃりとまげて僕のバットを空振りさせ、あり得ない方向に曲げたままの腕を振り回して初号機を跳ね飛ばした。
久しぶりの直接的な苦痛は大したダメージではなかったが、一瞬僕の動きを止めるのには十分過ぎた。足の止まった僕に、参号機が予備動作無しでジャンプニーパッドを直撃させる。横隔膜の辺りを痛打された僕は胃袋が飛び出しそうな痛みに膝をつき、そこに待っていたかのようなアッパーカットを合わせられて後頭部から思いっきり地面に倒れ伏した。激痛で目がひっくり返りそうだ。参号機は僕を休憩させるつもりは全くなく、倒れる僕に向かって踵を振り下ろした。体をよじって何とかかわすも、右腕が直撃されて初号機の腕は簡単に折れた。当然、骨折の痛みが僕を襲う。一瞬のうちに起こった参号機のラッシュに成す術もなく、僕は絶叫した。やりづらいのは確かだが、それを除いたとしても強い。こいつ、強いぞ!?
アスカがグレイブを横なぎにふるって僕にのしかかっていた参号機を追い払う。そこに零号機の銃撃が浴びせられ、参号機は飛び跳ねながらそれをかわした。僕は激痛に耐えながら無事な左腕でもう一度エヴァットを掴んだ。
「シンジ、大丈夫!?」
「いってぇ・・・右腕がイカれちまった。ちくしょう、あいつ普通に強いぞ。手加減してらんなくなってきた」
「でも、鈴原が」
「わーってる。もう一回いくぞオラー!」
次こそ。そう思って突撃するも、ひょいひょいとまるでバカにされているかのように攻撃はかわされていく。くそ、足しか狙えないってことに気付いてやがる・・・僕は下唇を噛んだ。
「このままじゃ、トウジ助けるどころか負けちまう。アスカ、次で決めるぞ、外すなよ?」
「シンジ・・・どうする気?」
「僕が足を止めてやる。あのムカつくうねうねの足をぶった切れ!」
「え、えと、うん。やってみる」
「いち、にのサンで行くぞ。いち・・・にの・・・さん!」
僕はエヴァットを振り上げ、そして十分に反発力を溜めたそれを思いっきり参号機に投げつけた。例によってこちらをバカにしたかのようにそれをヒョイっとかわす、が! 僕が狙っていたのはその油断だ。使徒にもいろいろいるが、こんだけこっちを舐めてバカにして油断するような奴は今までにいなかった。僕を心底ムカつかせるには十分過ぎる。もう、自分の苦痛や死の危険をどうでも良いと思わせるだけのふざけた態度こそ、こいつの敗因となるだろう。僕はエヴァットを投げると同時に、それを追って走ったのだ。そして使徒が案の定、馬鹿にしたかのように避けたその瞬間、エヴァットを追って走った僕のタックルが参号機の腰にがっちり食い込む。こうなったら体を捻ろうが腕を延ばそうが関係ない! 僕はそのまま参号機を押し倒し、じたばたと暴れる参号機を押さえ込んだ。同じエヴァだ、単純な力では体勢有利のこちら側に分がある。僕は叫んだ。
「いまだ、やれ!」
ATフィールドを展開しようとする参号機を押さえ込み、発生しかけていたフィールドは僕の発生させたフィールドと反応して溶けて消える。今、参号機を守る壁は何も無い。綾波の銃撃がようやく参号機の右足に命中する。左足は、アスカの振り下ろしたグレイブが綺麗に両断した。そして動けないことを確認した僕が、右腕に向かって思いっきり左の拳を打ち込んだ。
「どうだ、これでオアイコだぜ。お釣りは両足だ! アスカ、プラグ引っこ抜いちまえ!」
だが、甘かった。使徒はしぶとい。それは知っていたはずなのに、両足と片腕を奪った時点で戦闘不能だろうと僕は決め付けてしまっていた。それは人間の流儀、もしくはエヴァの流儀であって使徒の流儀ではないのだ。参号機が無事な左腕だけで僕を押しのけ、そして初号機にのしかかる。僕は跳ね飛ばしてやろうとするが、ぐちゃぐちゃになった足の腿と、肘までの腕の力で押さえつけられてしまう。そして参号機の口から流れ出した透明な粘液が、初号機の装甲の隙間に入り込んだ。
「ぐ・・・ぎゃあああああああああ!」
僕は意識せずに悲鳴を上げていた。それは灼熱感であり、今までで最高の苦痛だった。無数の長い針で徐々に串刺しにされるような、そんな拷問のような激痛は僕の神経と言う神経を焼ききろうとした。そこには意地も気合も根性も通用せず、僕はただ体が反応するそのままにビクンビクンと体を跳ねさせて絶叫し続ける。この苦悶を冷静に見つめる自分を客観視する自分が、いつもの冷静な仮面を外してさすがの痛すぎだよね、と呟いた。それ程痛い、ただ痛い。僕は腕をめちゃくちゃに振り回し、使徒を押しのけようとする。だが、振り回したつもりの腕はピクリとも動かない。くそ、くそ、こんな隠し技持ってたのか、この野郎! だが、苦痛の時間はすぐに終わった。
弐号機が放射したフィールドが
参号機の上半身を吹っ飛ばしてしまったのだ。
僕の内部に浸透しようとする針の塊のような苦痛の液体は、参号機が活動を止めた瞬間、僕の中で苦痛を発するのを止めた。僕は荒い息を吐いてしばらくその苦痛の残滓に自分自身の体を抱きしめて耐える。ようやく冷静になった時、アスカが泣いていることに気付いた。
「アスカ・・・どうなった?」
「ごめん、ごめんシンジ。アタシ、アタシ・・・ごめん」
「ごめんごめんじゃわかんねぇ。トウジは?」
「・・・ごめんね、ごめん・・・」
「ゴメンじゃわからねぇって言ってんだ!」
アスカは僕の叫びに、ビクっと身を震わせて、そして顔を伏せる。そして声を出さずに泣き続けた。僕は舌打ちして外の様子を見回す。上半身がなくなってしまった参号機の残骸は、片足がちぎれ、もう片方の足が蜂の巣になって膝をつき、その体勢のまま沈黙している。上半身の残骸は少し離れたところに見えた。アスカの全開のATフィールド放射によってずたずたに引き裂かれ、頭部は目玉を飛び出させて首吊死体のように舌をベロンとはみ出させている。生きているようには見えない。この様子では、プラグは・・・僕は思いっきり操縦桿をぶん殴った。六発ぶん殴って、手の痛みでようやく冷静さを再び取り戻すことができた。
「アスカ・・・助かった」
「シンジが・・・シンジが死んじゃうって・・・シンジが死んじゃうと思ったから・・・」
「ああ。また、命の恩人だな・・・」
「でも・・・でも、鈴原が! ごめん、ごめんなさい、ごめん・・・」
「・・・綾波、初号機動かせねぇ、回収は頼むわ」
「了解」
「わりいな」
僕は初号機を降りて、ATフィールド放射の体勢のまま固まっている弐号機に向かって歩いた。アスカも、弐号機を降りてきた。アスカは僕に抱きついて、そして泣き続けた。僕にはかける言葉が無かった。アスカは、親友の好きな奴を殺してしまったかもしれない。僕を救う為に。仕方無いとはいえ・・・僕も、泣きそうだった。
「惣流・・・センセもや。勝手に殺さんどってくれるか・・・ほんまえらい目会おたわ・・・」
「は? ・・・はぁ?」
硬直する空気。僕とアスカは抱き合うような姿勢のまま、氷となった。白い菌糸のようなものを体中に巻きつけ、ずりずり引きずって歩いてくるそいつは、いまやATフィールド放射で血の袋に化けたはずの、トウジだった。さすがに無事ではいられなかったのか、右足を引きずっており、左腕で抱くようにかばっている右腕はあり得ない方向に曲がってトウジが一歩歩く度にぷらんぷらんとゆれている。それが痛いのか、トウジは顔を歪めていた。
「て・・・てめ、生きてたんか!」
「アホぅ、わしが死んだら誰がアキコの面倒見るんじゃーアキコが嫁行くまでは誰が死ぬかーボケー!」
「うわ・・・よく見たらその足潰れてねぇ? いったそ・・・」
「痛いわぃ・・・めっちゃ痛かったわぁ・・・何や知らんけどいきなり勝手に動きよるし・・・センセやら惣流には容赦なくやられるし・・・何やねんな・・・」
「なんやねんじゃねーよ・・・よくまぁ、使徒の腹ン中で無事でいれたもんだ・・・」
アスカは口をパクパクさせ、そしてまた僕に抱きついて今度はびーびー声を上げて泣き出した。トウジが痛みに顔を顰めながらも困った顔をする。僕も困る。何なんだこの幕切れは。辺りを見回すと、壊れてひしゃげたエントリープラグが見えた。ATフィールド放射に巻き込まれてひしゃげるだけで済むはずがない。僕が殴った時点でプラグは抜けていたのだ。そして、プラグをひしゃげさせたのは参号機の最後の足掻きに巻き込まれたからのようだった。
「人騒がせな野郎だ・・・あとで三回は殺す!でも、まぁ・・・生きててくれて助かったぜ」
「何や、それ」
「てめーが死んでたら洒落で済まなかったんだよ、僕も、アスカもな」
「ほうか。まぁ、何や生きてるしええがな」
「へ・・・タコ。迷惑かけるかもってホントにかけてくれやがったな。ほんっと迷惑だぜ!」
救護班がトウジを拉致りに来るまで、僕は抱きついて泣いているアスカの髪を触っていた。ああ・・・まぁ、役得だ。今回は勘弁してやるか、と、僕は沈静剤を打たれて強制的に寝かされたトウジを眺めながら思っていた。
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