■□自慢のエヴァット□■

その2


抵抗空しく、僕はミサトの虜囚となった。僕の自慢のキレっぷりに何だかいたく感激したらしく、この乳女は勝手に僕の保護者となった。しかも親父もそれを認めてあっさり親権放棄した。碇ゲンドウは一回キャンと言わせる必要がある。

ミサトの、「自分は僕の保護者なのだから同居すべきだ」と言う恐ろしい言葉に眩暈を感じたが、でもこれは悲しい現実だった。ことある度に銃をちらつかせる僕より数段キレたお姉さまと一緒に生活するなんて無理だ。僕がヤンキーとして頭角を表すことができたのは、一重に人より後先を考えないで無茶をする、と言う一点に他ならない。つまり、そのキレ方において到底かなわない相手に出会った時、僕のツッパリ道は終焉を迎えたのだ。

さようなら、金属バットと共にあった16歳のあの夏。

と、思っていたのはその日だけだった。煙草吸ってても文句は言わず、晩飯時にはビールを勧めてくる。逆らわなければなかなかよろしい生活環境。

こっちに出てくる際に学校は休学扱いになっている。親父の金と放任な保護者、そして溢れるほどの時間。僕の生活は当然のように堕落を極めた。 が、僕自身それで良いとは思っていなかった。僕には一応夢がある。そのためには高校くらい出ておかないと厳しいのだ。だから僕はミサトに学校に行かせてくれるようお願いした。ミサトは二つ返事でそれを快諾してくれた。

と言うより、既にその手続きを済ませた所だったそうだ。対使徒用の兵士として僕を飼うつもりかと思っていたら、案外ネルフは度量の大きいところらしかった。嫌らしくネチっこい鑑別所に比べれば、収容されるにしても大分生き易い。きっとそのうちぶち込まれるであろう少年院や刑務所よりも、ずっと素晴らしい環境であることに間違いは無さそうだった。

僕はすっかり、呼びつけられて半ば無理矢理にエヴァのパイロットにされたことを容認していた。慣れれば居心地は悪くない。

「それにしても意外ね。君が学校に行きたがるとは思わなかったわ」
「夢とかあんだよ一応。高校くらいは出とかねぇとな」
「鑑別に二回も入ってる悪ガキのセリフじゃないわね」
「親父がアレじゃなかったらとっくに首だわな。ひゃひゃ」
「嫌なガキねぇ、あんた」

ミサトは僕の打算に満ちたセリフをそれ以上は責めなかった。僕は親父のゲンドウが嫌いだが、その権力と金の力は大好きだった。親父の名前で退学を勘弁してもらったし、少年院送りも回避できた。あの親父には様々に不愉快な目にも合わされたが、ゲンドウのお陰で助かったことも何度もある。

だからアイツは嫌いだが、憎んでいるわけではない。趣味の悪い髭とグラサンとあの態度には腹が立つものの、親父と縁を切るなんて考えられない。そもそも、悪友達に煽られなければ今も仙台で親父の威光を笠に好き勝手していたに違いない。だから、ここで今変な乳ねーちゃんと暮らす羽目になったのは、そのツケを払う時期が来た、と言うことかもしれない。僕は妙に納得していた。

次の日、前の学校の制服のまま登校することになった。そう言えば学校に通うのはもう何週間かぶりで少し心が浮き立った。でも、前のままのように連れの連中がいるわけじゃない。転校生なのだ。転校するのは初体験で、正直少しだけドキドキした。不安なような楽しみなような。僕は心をぎゅっと引き締めた。こういうのは最初が肝心だ。ナメられたら駄目だ。じじいの担任に連れられて教室に向かう。教室は外まで聞こえるくらい騒がしかった。

昨日ミサトに手伝ってもらってリツコに負けないくらい完全に染め上げた気合十分の金髪を手櫛で整え、僕は深呼吸した。 ガラっとドアが開く。教室は一瞬で静まり返った。癖になりそうな快感だ。確実に何割かの奴は僕の第一印象にビビったし、ちょっと悪めの男の子が好きな女は僕にチェックを入れただろう。

第一印象から飛ばした甲斐あってか、僕が黒板の前に立つまで誰も一言も声を発しなかった。僕はじじいに言われる前にチョークを手にとって大きな字で黒板に名前を荒々しく書いた。

「碇シンジだ。・・・よろしくな」

授業中、端末にメールが届いた。

『碇くんってロボットのパイロットなんでしょ? y/n』

y/nって何だ。一瞬考えた。ああ、そうか、YESとNOのことか、と気付いて、僕は迷わずYESと打ち込んだ。ちょっと悪ぶってるけど世界を守るロボットのパイロット。絶対かっこいい。自然とにやけてくるのを、僕は必死で押さえ込んだ。

メールの返信を読んだらしい女の子や、そのメールを転送された連中がみんなで僕を取り囲んで騒ぎ始めた。やばい快感で鼻血が出そうだ。僕は基本的に目立つのが大好きだ。連中の興味津々な顔は僕の自尊心を痛く満足させた。僕はぶっきらぼうを装いつつ、連中の質問に答えまくった。

目立っていると同じ穴の狢さんは面白くないに決まっている。そろそろ来るなと思ったらやっぱりイカメしい顔をした男が一人、僕の机をバンと叩いて挑戦的な視線を僕に向けた。こういうのは最初が肝心なんだ。僕は再びそう思った。しかし、よくよく見てみると、僕に明らかに喧嘩を売っているそいつは、上下共にジャージだった。

第三新東京市のヤンキースタイルだろうか? こっちが最先端だとしても僕には到底受け入れられないセンスだ。僕はもっとちゃらちゃらした格好が好みなのだ。

「おう転校生。ちょっと顔かせや」

啖呵は結構普通だ。顔を貸せなんて微妙に古風ですらある。第三新東京市ってよくわからない所だ。こんなんがヤンキーなのか。僕には理解し難い。しかしまぁ、こういう挑戦に応じないわけにはいかない。それこそ僕のツッパリ道。誰にもナメられない為には、誰の挑戦であろうが受けるし喧嘩は勝つまでやってやる。

幸い、今日はちゃんと武器を用意してある。僕は思いっきりそのジャージ男にガンをつけまくりながら立ち上がった。






夢の為に高校を卒業したい・・・だなんて、らしくもなく熱っぽく語っていた癖に、碇シンジは登校初日から問題を起こした。何でも、顔を貸せと言われたので先手必勝とばかりにその場でメリケンサックをはめてぶん殴ったらしいのだ。いきなり恥を掻かせてくれるものだ。私は思わず銃で両腕打ち抜いてくれようかと真剣に考えてしまった。

保護者を申し出たのは私からだ。しかし、授業中に暴れたキチガイのクソガキを回収し、先生方に頭を下げるなんて業務は聞いていない。私はガミガミと怒りまくる生徒指導の先生に大して平謝りしながら頭の中でこのガキへのお仕置き方法を考えていた。

当の本人は不貞腐れてソッポを向いている。この馬鹿を挑発した被害者の少年にも非はあると思うが、一方的に殴られ倒した少年の腫れ上がった哀れな顔面を見るとそんな言葉は口が裂けても言えなかった。

全く、本当に恥を掻かせてくれるものだ。私は無理矢理シンジくんの頭を押さえつけて謝らせた。耳元で「学校、辞めさすわよ」と脅すと、彼は多少素直に頭を下げた。全くもって手のかかるガキだ。後で顎外れるくらい引っぱたいてやる。

ここ数週間観察していたが、このガキはそれなりに頭が良くて狡賢く、打算的な癖に喧嘩だけは後先考えずに買うわ売るわ、相当歪な性格をしている。学校に行くまでに三件の暴力事件を起こして保安部に連行され、その度にリツコや私に散々説教されているにも関わらず懲りた様子が無い。

なんというか、子供子供している面がある。その癖、悪賢いから始末に悪い。碇司令の威光があれば多少の悪事は許されることを知っているのだ。嫌な奴。

被害者の少年は普段は明るい普通の子らしい。黙り込んでいたが、「どうして顔を貸せなんて言ったのか」と言う生活指導の先生の追求に、しぶしぶといった形で口を開いた。

「そのボケが足元確かめんと暴れたせいで、わしの妹が怪我したんじゃ。わしはそいつを殴らんとあかんねん」

そのセリフに、私の胸はチクリと痛んだ。直上会戦と呼ばれた、最初の使徒との戦いで多数の痛ましい犠牲が出たと聞いている。この少年も、あの戦いで身内が傷ついてしまったのだろう。それは仕方の無いことだが、この少年にとっては割り切れるものではないだろう・・・と、私が若干おセンチな気分に浸っていると、シンジくんは顔を歪めて下品に唾を吐いた。

「知るか、そんなもん。そんなに妹が大事なら金庫にでも入れとけよバーカ」

被害者の少年・・・たしか鈴原くんが、またコブシを振り上げて生活指導の先生に羽交い絞めにされた。いくらなんでも酷すぎるセリフだ。私は彼に非難の視線を送ったが、彼は不貞腐れて「あいつの方から喧嘩売ってきたのに」と呟いた。その目が酷く傷ついているように見えて、私は複雑な気分になった。

シンジくんにはシンジくんの理屈があるのだろう。私は何も言えずに、ただ黙ってまだわめき続ける鈴原くんと、シンジくんを交互に見つめることしかできなかった。鈴原くんが落ち着きを取り戻すと、なんとも気まずい空気が生徒指導室全体に水を打ったような静寂をもたらせていた。

一番最初にその空気に耐え切れなくなったのは先生だった。怒りを露わにした表情で、その先生は断じた。

「碇シンジくん。理由の如何はともかく、怪我をさせたんだ。しばらく自宅謹慎とする。では、保護者の・・・葛城さん? 彼をよろしくお願いします」
「はい。お騒がせしてしまって本当に申し訳ありませんでした。鈴原くんも、ごめんね。後でちゃんとよく言い聞かせておくから。ほら、シンちゃんもちゃんともっかい謝んなさい!」

シンジくんは、舌打ちしたが、日ごろの教育の賜物か、素直に頭を下げた。

「悪かった。・・・でもな、まだやる気ならいつでも来いよ」

このガキは・・・私も、生徒指導の先生も、さすがに呆れるしかなかった。

その時、突然、携帯電話が鳴った。私のと、シンジくんのが同時に。







僕はとても不愉快な気分だった。あいつが喧嘩を売ってきたから、買っただけなのに。喧嘩は勝つことがすべてだから、負けないように先にぶん殴っただけなのに。でも、僕ばっかり責められた。

あのジャージ野郎のお涙頂戴なセリフに、鉄女ミサトもらしくもなく同情していやがった。僕はとても不愉快だ。僕に非が無いとは言わない。人を殴るのが悪いことだってくらいさすがに知ってる。でも、僕が悪いならあいつも悪いはずなのだ。僕が殴らなければ、あいつは僕を殴ってたに違いないのだから。あのジャージの事情なんて知ったことか。それはあいつの殴りたい理由であって僕が殴られる理由じゃない。ふざけんな、と僕は強く憤りを感じた。

そんな機嫌の悪い僕の前に出てくるのだからこの使徒って奴も運が悪い。こいつは殺してしまってもいい相手だ。だから僕は遠慮しようとも思わなかった。パレットライフルを構えて、僕はでたらめにそれを乱射した。人や動物に向けて銃を撃ったことなんてない。でも、相手は家庭の医学に書いてある精子の絵みたいなふざけた格好の化け物だ。僕は微塵も躊躇せずに、そいつを蜂の巣にしてやろうと、引き金を人差し指で連射しまくった。

「馬鹿! 弾着の煙で敵が見えない!」

ミサトが激怒する声が聞こえた時には、もう遅かった。もくもく立ち上る煙が使徒の姿を覆い隠し、確かに全然何にも見えない。ちょっと調子に乗りすぎた。

「ミサトー、煙でなんも見えねんだけど」
「あんた本当に人の話聞いてないわねー」
「大真面目に聞いてるっちゅーの。覚えてないだけで」
「余計悪いわよ!」

ミサトがめっちゃ怒ってる。この女はほんと怒りっぽい。毎日生理なんじゃねぇの?とか考えてしまった。

「なぁ、見えねーけどもうちょい撃っとく?」
「とりあえず今の位置で待機。弾装を交換して!」
「えーと、どうやるんだっけか」
「そこの兵装ビルから・・・ああもう!あんた後でもっかいぶっ飛ばすからね!」
「そんな怒んなよぅ・・・こっちゃ一応真面目にやってんだから」
「じゃあ、さっさと指示通りやれ!」
「だからやり方が・・・」

揉めている間に段々煙が晴れてきた。どうやらこの鉄砲の弾は効いてないらしい。例のバリアのせいだろう。リツコが言うには、近づかないとバリアを壊せない・・・と言うところまではギリギリ理解できた・・・らしい。それで鉄砲効かなかったのだろうか。何だ、このライフル意味ねぇじゃん。僕は銃芯を掴んで逆さまに銃を構えた。

バット殺法の基本的な構えだ。やっぱりこっちのほうがしっくりくる。

「シンジくん何考えてるの!? 指示通りに・・・」
「だって効いてねえじゃんよ。ぶん殴ったほうが早いって」

僕はミサトの残りの声を無視して走った。精子使徒の近くでブレーキ。思いっきり振りかぶった一撃がオレンジの壁を打った。甲高い音がして、その壁が一気に粉々になる。ちょろいもんだ。後はあの精子の脳天にもはやバットとなったライフルを叩きつけてカチ割ってやれば大勝利。僕は無造作に銃を振り上げた。

だが使徒のほうも必死らしい。やられっぱなしではいなかった。 空高く放り投げられたのだと気付いた時には、既に落下が始まっていた。僕は絶叫系の乗り物が嫌いだ。特にフリーフォールとか絶対乗りたくない。悲鳴をあげるのは我慢できた。男の子ってことだ。長い長い胃が喉からはみ出そうな落下はやっと終わり、僕は思いっきり地面にたたきつけられて悶絶しそうになった。

エヴァの損傷は僕の痛みだ。高いところから背中で落ちたら痛いに決まってる。しばらく息ができそうにない。モニタが警報音を鳴らす。さすがに毎日テストだなんだとこれに乗っていると操作にも慣れたものだ。外部カメラで警報の元を探すと、少年が二人エヴァの指の間でうずくまって震えていた。

なんて運が悪くてドン臭い奴らだ。そもそも何でシェルターから出てるんだ? 逃げ損ねたのか?一瞬、まぁいいや見なかったことにしちゃおうと思ったが、ミサトが釘を刺すかのように「今動かないで!」と怒るので、僕はしぶしぶそこを動かなかった。

使徒がえっちらおっちらこちらに向かって来ている。どうでもいいが早く指示して欲しい。片足一歩で銃バットが届く位置まで使徒が来たら見捨てよう。僕は僕の命が一番大事だ。だが、ミサトは素早くとんでもない指示を出した。

「その二人をエントリープラグに乗せなさい!」
「ま、マジかよ! プラグ開けてる間にアイツ来たらどうすんだよ!」
「仕方ないでしょ! 見捨てるわけにはいかないわ!」
「わーった、わかったよ! おいそこの二人組み! 早く乗れ!」

僕は外部スピーカーを入れてがなり、プラグをイジェクトした。もちろんシンクロは切れてるから外の様子はわからない。使徒が何時来るかもしれないとかなりハラハラドキドキだ。この二人後でベコベコにしてやると決意していると、程なくしてドボンドボンと二つ水音が聞こえた。僕はすぐさまプラグを元に戻してシンクロを再開する。

・・・ん? 何か変だ。

「やっぱりシンクロにノイズが発生してるわ。プラグに異物を入れたから!」

非難する口調のリツコの声が聞こえた。そう言うことか。この馬鹿二人組みを入れたことで何か変な感じがするのか。一つの服を複数人で着ているような、何か表現に困る違和感だ。ウッゼー! 戦闘の邪魔しただけでは飽き足らずにシンクロの邪魔まですんのかよ!僕は使徒とまだ距離があることを確認した後、振り返ってその二人に怒鳴りつけた。

「このボケ共、僕を殺したいのか! あぁ? その気なら後で散々ぶっ殺してやるぁ!・・・あ?」

何か見たことある顔。一人は顔に絆創膏を沢山張っており、誰かに散々ぶん殴られた後みたいに顔が腫れている。ああ、こいつ、さっき僕に喧嘩売ってきたジャージだ。と、気付くのにそれ程時間はかからなかった。何て野郎だ、喧嘩に負けたからってこんな嫌がらせしてくるなんて嫌な気合が入ってる。もう一人の眼鏡君には見覚えが無いが、このジャージと一緒にいるってことはクラスメイトか何かだろう。

「お前な、喧嘩はいつでも買ってやるつったけどよ、もうちょい待っとけよ。避難警報聞こえなかったんか? せっかち過ぎんぞ」
「い、いや、スマン、邪魔する気は無かったんや」

明らかに毒気を抜かれた様子で、そのジャージ男は項垂れていた。まぁいいや、この馬鹿に付き合って使徒にやられたら話になんない。

「ちょっと待っとけ。後でお前ら殺すからな、逃げんなよ」

僕はとりあえずそう啖呵を切って前に集中した。精子使徒が迫っている。ちきしょーさっきは何でやられたんだ? 意味がわかんねぇ。そう考えていると、オレンジの細い何かがびゅんびゅん振り回されているのが辛うじて見えた。 そうそう、こういうチェーンみたいなの振り回す馬鹿がいたよなぁ・・・と懐かしい地元仙台を一瞬思い出してしまう。

まぁ、それと似たようなもんだろう。速度は段違いだけど。アレに引っ掛けられて放り投げられたのだ。落ちてる最中は本当に怖かった。思い出すだに寒気がする。この野郎、絶対ギッタギタにして踏んづけてゴミ捨て場にポイしてやる。僕は素早く立ち上がり、雄たけびを上げて突進した。

オレンジの壁をガンガン殴ってぶっ壊したところまでは快調だった。でも、辛うじて残像が見えるだけのその光ってるチェーンをかわすなんてことは土台無理に決まってた。テンションが上がっていた僕はちょっぴり無謀で、そして無策過ぎた。来る! 歯を食いしばる。

来たー! やっぱり来たー! 超痛い! この間やられた箇所と同じ場所にその光チェーンがぶッ刺さる。二回目だし予想してたから初めて食らった時ほどキレずに済んだが、やっぱり死ぬほどムカついた。僕は刺された上体のまま銃バットで精子の頭をガンガンぶん殴った。銃バットは案外モロくてすぐに折れたが、精子使徒の頭は見事にへこんだ。僕はそのまま馬乗りになって精子のミトコンドリアがくっついてる箇所にあたる部分についた赤い玉をガンガンぶん殴った。

見るからに弱点ぽいし、細かいことはよくわからないが、実際弱点らしいからだ。今日の僕は冷静に残忍だった。ばきゃっとその玉が割れた時点で、精子使徒はゆっくり動きを止めた。多分死んだ。でももう限界だ。刺さったチェーンを抜くとまた内臓引っ張り出されるほど痛いに違いないが、このまま放置してても痛いに決まってる。

解決策は一つだけ。さっさとシンクロ解除だ。
エヴァを降りると、馬鹿二人は妙にしおらしかった。どうやら痛い痛い痛いと連呼しつつぶん殴りまくりの僕は相当キレた奴に見えたらしい。いつかは思い知らせてやるつもりが、予定が繰り上がった。まぁ結果オーライ。僕は眼鏡にジュース三分以内に買って来いと命じ、救助が来るまでその場で待つことにした。