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きょうの社説 2009年5月21日
◎GDP過去最悪 下落幅はほぼ想定の範囲内
悲惨な数値なのは確かでも、それほど心配する必要はないだろう。一―三月期の国内実
質総生産(GDP)の大幅落ち込みは、ほぼ想定の範囲内で、市場予想よりむしろ良かった。先行指標である機械受注や鉱工業生産指数はプラスに転じており、昨秋からの大幅下落に歯止めが掛かり始めている。一―三月期が景気の「大底」で、四―六月期のプラス転換というシナリオが現実味を帯びてきたと考えてよいのではないか。速報値で前期比マイナス4・0%、年率マイナス15・2%という過去最悪の数値は、 輸出比率の高い製造業を中心に、生産の縮小、雇用調整が猛烈なスピードで行われたことを示している。「百年に一度」といわれる経済危機の深刻さを物語っていよう。 ただ、短期間で一気に調整を終えた結果、三月の鉱工業生産指数は前月比1・6%上昇 と半年ぶりのプラスに転じた。日銀金沢支店の五月の景気判断は三年一カ月ぶりの「上方修正」となるなど、このところの各種経済統計は、地方でも回復の兆しが見える。 内閣府の外郭団体の経済企画協会が、エコノミスト三十七人を対象とした調査では、四 ―六月期の実質成長率は前期比1・14%のプラス予想で、十―十二月期は2・4%の上昇だった。日米欧とも景気は一―三月が底との見方が定着してくれば、市場心理はぐっと明るさを増すだろう。 一―三月期のGDPの下落分は主に企業が被ったダメージであり、これが雇用調整やボ ーナスの減額などのかたちで個人消費に影響するのは、半年後といわれる。定額給付金の支給や巨額の追加経済対策が効果を発揮してくれば、内需の落ち込みを下支えしてくれるのではないか。 むろん楽観は禁物であり、日銀の白川方明総裁はニューヨークでの講演で、こうした回 復予想が「偽りの夜明け」である可能性を指摘している。景気の一時的な回復を本格回復と見誤らぬようにという自戒を込めた言葉であり、世界経済が安定的な回復軌道に乗るまでにはまだまだ時間が必要だ。政府・与党はそれまで消費税引き上げ論議を封印し、追加経済対策の効果を最大限に引き出してほしい。
◎裁判員制度開始 「不安」があって当たり前
司法の歴史を画す裁判員制度が始まった。重大な刑事事件で人を裁くことの重みに耐え
、間違いのない判決を出せるか不安に思う国民は多い。反対意見もなお根強い中で動き出した制度であるが、裁判員になるのをためらったり、不安になるのは普通の国民には当たり前のことであり、そうした悩みはむしろ裁判員としての誠実さや健全性の表れと思って、任務を果たしたい。最高検が四月に公表したモニター調査では、「参加したい」と積極姿勢を示した人は3 3%となり、昨年の最高裁調査の16%より増加した。金沢、富山地裁でもこれまで摸擬裁判が繰り返され、市民と接する機会の乏しかった裁判官や検事も外に出てアピールした。この結果、住民の関心が高まってきたのは間違いない。だが「あまり参加したくない」が多数派の状況に変わりはなく、やっかいな「義務」が増えたと負担に感じている人も少なくないだろう。 島田仁郎前最高裁長官は、初めて判決を言い渡した時のことを「恐る恐る祈るような心 境で臨んだ」と述懐している。職業裁判官ですらそうなのだから、裁判員の精神的な負担の大きさは想像に難くないが、裁判員に選ばれたからには、苦悩や葛藤を乗り越えて最善を尽くしたい。そうした国民の努力の積み重ねによって裁判員制度が根付くことになる。 そのための環境整備もしっかり進めたい。例えば、社員が裁判員に選ばれ欠勤する場合 の休暇制度が未整備な企業は制度化を急いでほしい。裁判員裁判が実際に始まれば、制度上の矛盾や想定外の問題が表面化する可能性がある。規定では三年後に制度を見直すことになっているが、円滑な運用の妨げになる問題は規定に縛られず、柔軟に改善していけばよい。 中長期的な課題の一つとして、子どもたちも含めた幅広い啓蒙、教育活動がある。裁判 員として司法に参加することを国民の義務とし、権利とみなすことは、事実上の憲法改正といっても良いくらいである。司法参加の権利・義務意識を国民に定着させるには相当の時間と労力がかかる。
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