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きょうのコラム「時鐘」 2009年5月21日
犯罪は時代を写す鏡だという。背任容疑で逮捕された男がマスク姿で連行される報道写真は、ただいま現在の日本を象徴してあまりある。見事なほど今の社会を映している
漢字検定協会前理事長は協会を私物化し、金銭感覚がマヒする「感染症」にかかったひとりだったかもしれない。が、マスクは感染症対策だったとは思えない。後ろめたさや弱気を隠す防具ではなかったか 漢字の成り立ちはよくできている。例えば「恥」は、耳と心の組み合わせだ。「ものに恥じる心はまず耳にあらわれる」(字通・白川静)からとある。うそがばれて耳たぶが赤くなるのは、昔も今も同じらしい 「厚顔無恥」との熟語もある。その人の耳は赤くならない。露骨な架空業務を言い逃れ続けてきた前理事長の逮捕は、今週末と予測されていた。ところがパスポートを取得したことが分かって早まったという。厚顔無恥が墓穴を掘った 逮捕容疑は協会に対しての背任だが、最大の背任は奥深い日本の漢字文化に対してであろう。伝統を食い物にし、向上心を助けるはずの検定制度を悪用したのなら、汚点は後世にまで残る。 |