江戸時代の裁きといえばお白州が思い浮かぶ。ただ大岡裁きの講談がもてはやされたのも、むしろ現実のお上の裁きへの不満からかもしれない。だがそのころ農村では村人の入札(いれふだ)--投票による“裁判”も行われていた▲日本史家の藤木久志さんが調べた江戸末期の越後の村では村役人を選ぶ入札のほか、悪事の犯人を特定する盗難入札や、善行者や非行者を選ぶ善悪入札があった。目を引くのは、村役人の選挙は本百姓だけで行われたが、盗難入札や善悪入札は小作人にも1票が与えられたことだ▲こと治安については、村を挙げて参加するのが習わしだったのだ。村の秩序維持を入札で行う慣行は江戸時代よりずっと前の中世から続いてきたらしい。これではさぞやえん罪も多かったろうが、人々が神仏に誓約したうえで入札をした昔は、投票結果が神意と見なされたのである▲こう振り返ってみれば、裁きを常に「お上」に委ねてきたわけではない日本の庶民である。だが、きょうスタートした裁判員制度をめぐる世論調査では、裁判員に選ばれても「できれば参加したくない」と答えた人が52%にのぼっている▲参加に消極的な人が1月調査より6ポイントも増えたのは、次第に明らかになる制度の問題点をわが身に引きつけて考えるようになったからだろう。一方で制度で刑事裁判が「良くなる」と答えた人は「悪くなる」という人を上回っている。こと一般論では制度に期待する人は多いのだ▲他人を裁く責任と不安に思いを巡らす人が多いのは、決して裁判員制度に逆風といえない。その真剣な思いを司法に繰り入れる柔軟な運用と、不断の見直しに制度の成否がかかろう。
毎日新聞 2009年5月21日 0時04分
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