「衆院選「候補者A」かく闘わんとす」

衆院選「候補者A」かく闘わんとす

2009年2月27日(金)

第9話 妻は一時、うつ状態にも

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 「すみません、来る途中、この子が水たまりにハマっちゃって」

 もうすぐ2歳になる下の子を胸の前に抱え、民主党新人候補・Bの妻が、10分ほど遅れて待ち合わせ場所の事務所に現れた。今回も前回に続き、次の総選挙に立候補を予定しているBの話を紹介する。

 筆者に頭を下げた後、Bの妻は事務所の椅子にどっかと腰を下ろした。そして、子供の泥にまみれた靴を脱がしていると、隣で今年、小学生になる上の子がちょっかいを出し始めた。それを叱り、下の子の世話を続ける。

 妻には化粧っ気もあまりない。髪を振り乱し、ジーパン姿で2人の子供の相手をする姿は、どこにでもいそうな若い主婦である。

 「政治家を目指すような人はお金持ちで、奥さんも“セレブ”みたいに思われるかもしれません。でも、うちに限っては全然違うんですよ」

身重の体になるたびに生活は激変

 1人目の子供は、ちょうどBが勤めていた金融機関を辞めた頃に誕生した。2人目が生まれたのは、民主党の公認が内定した直後である。身重の体になるたびに生活が激変し、出産や育児に追われることになった妻の苦労は計り知れない。

下の子を抱くBの妻

下の子を抱くBの妻 (写真:著者)

 前回、3000万円の活動資金をBに提供した父親の思いについて書いた。息子がサラリーマンを辞め、政治家を志すと聞いた時、父親は、
「守るものは家族だけだ。家庭だけはしっかりしろよ」
と、ひとことだけ忠告した。しかし、家族を守りながら、志を貫くのは簡単なことではない。

 夫のBが政治の道に進んで以降、先の見えない生活が続く。

 党の公認を得て、念願だった地元から立候補が決まったことは、妻にとっても大きな喜びだった。しかし、それ以来、夫は家には寝に帰るだけの毎日だ。しかも最近になって、家族の収入すら途絶えた。

 妻は、どこから見ても“明るくて元気なお母さん”だ。そんな彼女も、一時、うつ状態に陥ったことがある。たった1人で子育てをしながら、将来への不安に押し潰されそうになったからだ。

 「もちろん、夫には当選してもらいたいです。でも、たとえ落選するにせよ、とにかく早く選挙になってほしい。それが正直な気持ちです。選挙があると言っては延びることが続くばかりで、もう疲れました…」

ピザ屋のアルバイトで知り合う

 妻もBと同様、身内に政治家はいない。父親は地方公務員、母親はパート勤めという家庭で育った。専門学校を出た後、雑貨類を扱う会社に入社。しかし、方針が合わずに辞め、地元のピザ屋でアルバイトをしていた時、Bと出会った。当時、Bは大学生で、同じくアルバイトに来ていた。

 結婚は、Bが金融機関に就職して数年後のこと。やがて1人目の子供もでき、平凡な結婚生活が続いていくはずだった。

 そんな時、Bが突然、政治家を目指すと言い出したことで、妻の人生も一変する。サラリーマンを辞めると言う夫を、無条件に応援したわけでもない。

 「私と結婚したことで、彼の夢を潰したくない」
 それが夫を許した理由だった。

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著者プロフィール

出井 康博(いでい・やすひろ)

ジャーナリスト。
1965年岡山県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本経済新聞社入社、「ザ・ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」の客員研究員を経て、独立。主な著書に『松下政経塾とは何か』(新潮新書)、『年金夫婦の海外移住』(小学館)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社)などがある。また日経ビジネス2002年9月30日号コラム「ひと烈伝」でヨシダソースで有名な米ヨシダグループの吉田準輝会長を寄稿、現在「フォーサイト」(新潮社)で「2010年の開国・外国人労働者の現実と未来」を長期連載中。


このコラムについて

衆院選「候補者A」かく闘わんとす

ねじれ国会に、2代続けて首相の突然の辞任、そして総選挙。ざわつく国政に、テレビや新聞、そして週刊誌と政局関連の話題を取り上げているが、その当事者である代議士、そして代議士になろうとしている人たちは、いったい普段どんな生活をしているのかは意外と知られていない。本連載では、「地盤」「看板」そして「カバン」を持たない“フツー”の代議士や候補者の生活に焦点を当てることで、日本の政治はどのように作られるのか、そして現在の政治システムが抱える課題とは何かを浮かび上がらせていく。

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