(cache) アントニオ猪木　“燃える闘魂”が激白：主役再び：企画：スポーツ報知

アントニオ猪木　“燃える闘魂”が激白

６０周年ダーッ！　元気いっぱいにスポーツ報知の記念イヤーを祝福したアントニオ猪木

　アントニオ猪木―。来月２０日に６６歳になる男は、プロレスラーとして一時代を築き、政治家として話題の主となり、カリスマとして絶大な人気を誇る。その名を一躍、世界に広めたのが、１９７６年６月２６日に行われたプロボクシングの現役ヘビー級チャンピオン、ムハマド・アリとの一戦だ。アリについて、師匠・力道山について、そして夢について“燃える闘魂”が激白する。（構成・谷口隆俊、敬称略）＝２００９年１月２０日掲載＝

　◆凡戦の真実
猪木（当時３３歳）とアリ（３４歳）のビッグネーム対決は、今でこそ「伝説」となっているが、決着がつかなかった当時は「世紀の凡戦」などと酷評された。ボクシングの世界戦で通常使用されるグラブは、８～１０オンス（１オンス＝約２８グラム）だが、アリが使用したのは４オンス。ほとんど“素手”状態だ。不利なルールから、猪木は寝転がってチャンスをうかがうしかなかった。

　寝て戦ったのは、パンチが怖いというのではなくて、一発食らったら終わり、だったからさ。何て表現すればいいか…。竹刀や木刀と、真剣で戦うのは違うでしょ。２、３発当たったようだが、覚えていない。次の日にコブができていたから、相当硬いパンチだったんだろう。まともに食っていたら…。

　実は必殺技の延髄斬り（ジャンプして、足の甲で相手の後頭部を蹴る）は、この試合のために開発された。投げや関節技など次々に封じられた猪木が考案したのだが、公開練習で披露すると、これも禁止になった。

　もう、条件は何でものんだ。帰られたら困るし、それにどんなルールでも勝てると思っていた。漏れ聞くところだと、拳の中にシリコンを入れていたとか、いないとか…。ないようなルールなら、こっちもシューズに鉄板を入れるか、なんて声も出たけど、さすがにフェアじゃないから、そんなことはしなかったけどね。

　チャンスがないわけではなかったよ。一度、オレが寝技に引き込んで上になり、一発パンチを落とせば決まるという場面があったんだけど、なぜか落とせなかった。勝ったらどうなったんだろう。アリ軍団は１００人ぐらい来ていたし、ピストルなんかも持ち込んでいたというし…。神様が心配したのかな。フフ…。

　死力を尽くしたからこそ、２人は友人になった。アリはロサンゼルスの結婚式に、対戦相手ではただ一人、猪木を招待。９５年、北朝鮮でのイベントや９８年の猪木引退試合にも駆けつけた。

　北朝鮮に行く時、アリは病気（パーキンソン病）に悩んでいて、立ち寄った日本では、バスのステップさえ上がれない状態だった。それまで、カメラの前になかなか出て来なかったから、姿を見せた時にはいやおうなしにカメラのフラッシュがたかれるよね。そしたら、何かが目覚めたのかな。北朝鮮では、現地にある１００段くらいの階段を一気に上ったんだ。眠っていた意識が目覚めたんだろうな。翌年のアトランタ五輪で、聖火点灯の大役を見事に務めたのには感激したね。

　◇猪木―アリ戦ＶＴＲ　１９７６年６月２６日、日本武道館で「格闘技世界一決定戦」と銘打ち行われた。特別リングサイド席３０万円だったが、会場には１万人を超すファンが詰めかけた。３分１５回戦。投げ技、関節技、頭部への攻撃などが禁止された猪木は、あおむけになってキックを出して寝技に持ち込む作戦。６回、１０回には組み合い、７回、１３回、１４回にはアリのジャブが猪木にヒットする場面があったが、共に決め手を欠き、引き分けとなった。

　◆オヤジ
猪木に大きな影響を与えた一人が、師匠・力道山だ。国民的ヒーローの付け人をしながら、どなられ、殴られ、鍛えられる毎日を送る。だが、思うような結果が出ず、もう辞めようか、と悩んでいたある夜、師匠から自室に呼び出された。

　オヤジ（力道山）は元横綱・前田山の高砂親方らと酒盛りをやっていて、オレにジョニ黒をコップで３杯、ラッパ飲みさせた。その時、親方が「こいつはいい顔をしている」と言った。そうしたら、オヤジが「そうだろう」と自慢げに笑ったんだ。オレの「力道山観」が変わった。その顔があったおかげで、オレは恨まずに済んだ。

　１９６３年１２月８日の夜―。力道山が赤坂で暴漢に刺されたのは、その直後のことだった。

　力道山には引退後、参議院議員になるという話があった。３０年後に弟子が政治家になった。

　寝ていたオレの足元に、ある時、オヤジが現れたんだ。熱にうなされて、金縛りに遭い、汗びっしょり。毎晩のように、それが１年半近くも続いた。外務委員会に入って北朝鮮に興味を持ち始めたころ、力道山の娘が北朝鮮にいると聞いた。力道山という思いは常にあったから、すぐに情報を集めて、新潟で彼女とこっそり会ったよ。９５年には平壌で３８万人を集めるイベントをやった。何で北朝鮮にそこまで、という人がいるけど、師匠の国だし、なるべくしてなったこと。オヤジが導いてくれたんだと思う。

　◆夢を語る
夢は必要だ。「夢を持てと言うと、子供たちがダメになる」と言う人がいるけど、そうだろうか？　まずは大人が夢を持って、子供に見せないと。

　オレはね、日本一の詐欺師なんですよ。フフフ。詐欺師って言葉は良くないが、ある意味、四角張った常識の中で奇異なことをするだろ？　オレたちは夢を売る商売だから、規格外の発想をしないとね。

　キューバでの宝探しなんて面白そうだろう？　１９年前、Ｆ・カストロ前国家評議会議長と対面した時、「パラオから島をもらい、マスコミで紹介したら観光客が増えた」という話をしたら、前議長は特区にある島に「友人猪木の島」と名付けてくれた。その島の周りには財宝を積んだ沈没船が７５隻沈んでいるという記録が残っていて、島にも、財宝が隠されているという話もある。パラオにも子供たちを招待したことがあるので、キューバにも…。社会に出て戦っている連中、明日を背負ってくれる連中を連れて行ってみたい。若い人たちに、夢を持って、力を合わせてもらいたいんだ。

　◆物まね観
自分で人気なんて言うと怒られちゃうかもしれないけど、女学生のスカートの丈と消費税と猪木の人気は下がることを知らない、なんてくだらないこと言うヤツがいるんだよ。フフフ。ライブで試合を見ていない小さいお子さんまでが『１、２、３、ダー』をやる。スポーツ選手は力が落ちて引退すれば、人気も下がるというのが普通。自分でも人気の理由がよく分からない。物まねされることに抵抗はないし、大いにやってほしい。アントキの猪木とか一生懸命やっている。みんないい稼ぎしているみたいね。フフフ。

　ある番組で「春一番が一番似てないよ」って言ったら「仕事が減りましたよ」と怒られちゃった。オレだって春一番のマネしてやったこともあるじゃねえか、って言ってやったけどな。まあ、別の場所で「春一番はいい」って言っておいたよ。

　最後にクイズだ。今年はどんな年になると思う？　…答えは、お母さんの年になる番だ。だって、去年は父さん（倒産）ばっかりだっただろう？　はははっ！　このフレーズも、物まねされちゃうだろうな。

　◆アントニオ猪木（あんとにお・いのき）　本名・猪木寛至（かんじ）。１９４３年２月２０日、神奈川県生まれ。６５歳。６０年、日本プロレスでデビュー。７２年、新日本プロレスを旗揚げ。８９年、参議院選挙で当選し、レスラー初の国会議員に。９８年４月に現役引退。０７年３月、新団体イノキ・ゲノム・フェデレーション（ＩＧＦ）設立。３月１５日に広島サンプラザで「ＧＥＮＯＭＥ　８」が行われる。１９０センチ、１０２キロ。