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日本はやっぱり現場力

頑張らないから11年連続で増収増益

不況下の増益企業スペシャル第3回〜ケーズホールディングス(後編)


 昨年秋以降の不況で逆風下の家電量販業界。最大手のヤマダ電機や2位のエディオンは減益、また赤字転落となる企業も珍しくない2008年度決算。そんな逆風下で11年連続で増収増益を続けているのが、ケーズデンキを展開するケーズホールディングス(水戸市)だ。

 創業以来、62年連続で増収を続け、2009年3月期の売上高は5741億円で、その規模はヤマダ電機、エディオン、ヨドバシカメラ、ビックカメラに次ぐ。経常利益は188億円(前期比14%増)と2ケタ増益でしかも過去最高益を達成。多くの家電量販店が採用している「ポイント制」を採用せず、「現金値引」をうたって独自の経営路線を進んでいるのが特徴だ。

 加藤修一・ケーズホールディングス社長が説く、不況時でも増収増益を続けられる理由…。その1つは、目先のことで無理をしないという「頑張らない経営」。もう1つは、不況期こそ出店環境が整うため積極的に行っている新規出店だという。

(聞き手は日経ビジネスオンライン編集長 廣松 隆志)

前編「経営とは終わりなき駅伝競走」から読む)

―― 厳しい経済状況でありながらケーズデンキは積極的な出店を続けています(2009年3月期の年間新規店舗数は40、閉鎖は20)。一般的には景気が悪い時は少し脇を締めて抑え、景気がよくなったら増やすのかと思いますが、その考え方も社長にとってはおかしいんですよね。

加藤 修一(かとう・しゅういち)氏
ケーズホールディングス代表取締役社長
1946年茨城県生まれ。69年、東京電機大学工学部を卒業し、有限会社加藤電機商会(ケーズHDの前身)に入社。73年、株式会社カトーデンキ(ケーズ HDの前身)代表取締役専務。82年、代表取締役社長。88年、株式を店頭公開。97年、カトーデンキからケーズデンキに社名変更。2007年、現社名に変更。 (写真:山西英二、以下同)

 はい、その反対です(笑)。売り上げを安定的に伸ばした方が、コストをコントロールしやすい。トータルの売り上げは景気によってぶれますが、売り上げが上がり過ぎるとか、下がるというのが経営的には大変なんです。

 景気がいい時は、店を増やさなくても、既存店の売り上げが増えていきます。景気がいいとお店が忙しくなっているから、それだけでいい、というわけです。まあ機会があったら少し店をつくりましょう、くらいですね。

 しかもそういう好況時に店をつくろうとすると、物件が高いし社員も足りない。採ろうとすると、どこでも社員を採るからいい人が来ないし、給料がずいぶん上がります。だからそういう時は、それなりに適当にやっていきましょう、ということです。

 ところが景気が悪くなってくると、既存店の売り上げが下がる。悪くなるんだったら、20人でやっている店は19人でできる。ちょっと暇なんだから1人減らして何とかやると人件費5%ダウンですから、その店の売り上げが2〜3%下がってもいいということになりますよね。

不況期に新規店舗を出すことで経営は安定する

―― 既存店の売り上げが減ったら、20人を19人でやるのではなくて、20人のまま何とか売り上げを確保しようという話になるかと思ったのですが。

 今みたいに300店体制になってくると、各店舗で1人ずつ余らせたら300人余ります。それで新店舗が40店舗となると各店20人なら800人が必要です。でも300人が余っているから、500人を採用すればいい。人が余るわけではないからリストラする必要もない。この新規店をつくらなかったら、どうやって300人に辞めてもらうかになっちゃうんです。辞めてもらえないから、その分、300人の人件費だったら1人500万円としたら15億円ぐらいになります。だから僕が言っていることは普通ですよ。

 人件費が減らない、競争も激しい中で人や売り上げを増やそうとすると、いっぱいお金をかけないと増えません。何とか売り上げが増えたとしても、コストがその何倍もかかってしまって減益になっちゃうんです。

―― すべて合理的ですね。常識的な話に聞こえます。結果的に2009年3月期は62年連続の増収、そして11年連続の増益ですか。

 うちは不況の影響を受けていますが、ほかの会社ほどひどい状態にはならないんです。ローコストというよりも、無駄なお金を使っていないということだと思っています。

―― 売り上げが減るのは経営者にとって恐怖感のあることだから、普通は何とかして売り上げを増やそうとします。

 いや、その何とかするとか頑張っちゃうのが、やはり良くないんです。

―― 昨年夏までと比べると、その後の売り上げは相当落ち込んだのではないですか。

 それはマスコミがサブプライム問題を言ったからでしょう。新規店と既存店のトータルだと10月だけ落ち込みましたが、11月には戻り、1月以降も世間が言っている落ち込みはありません。

 輸出産業は大変でしょうけど、日本の売れ行きはそんな何割も変わっていない。全体で数%しか下がってません。うちは数%の落ち込みで全体がびびるような仕組みじゃない。

 確かに、既存店だけを見れば、なかなか伸びないですよ。ただ、よそよりはましでしょう。なぜましかというと、よそは普段売り過ぎているから(笑)。いつも、うちは普段売ってないからあんまり落ちないと言っているんだけど。

―― それはどういう意味ですか。

 頑張ってないからです。頑張って売り上げをつくってきた人は、こういう環境になった時にそれ以上の頑張りができないから、落ち込みが大きく出ちゃうんです。普段から無理をしていると、足元を揺らされたら厳しい。

年商は1億円、町の電器店からスタート

―― ケーズデンキの前身、お父さん(加藤馨氏)の経営する加藤電機商会やカトーデンキだった頃はどのような会社だったのですか。

 僕が大学を卒業して入った時は、ナショナル(現パナソニック)のショップで年商が1億円ぐらいでした。社員が十数人いましたからナショナルショップとしては大きい方です。

 僕は修理やアンテナ立て、訪問販売をやっていました。アンテナ立てが一番得意でしたね。「テレビの映りが悪い人がいたらご一報ください。必ず映るようにします」という広告をすると、電話がかかってくるわけです。よその電器店さんがやってもダメという難しい故障を直してちゃんと映るようにして、お客さんを増やしていきました。

―― その頃、今のような規模の会社の姿は頭の中にあったのですか。

 いや、それはなかった。その頃一番大きな電器店(星電社)は年商40億円ぐらいでしたのであり得ないですよね。当時は1億円だから。

―― ITの進化が、会社を大きくした部分はありますか。

 コンピューターのない時代は、売った商品全部について伝票を発行していました。カーボンが入って4枚つづりになっているレスターという伝票を使っていました。たぶん一組が3円とか4円したと思いますが、100円の商品を売ってもそれを全部発行していましたね。

 1000円以上の商品については、ビジブルレコーダーというのを使い、いつ仕入れた、いつ売り上げたと足し算、引き算をして、各店の在庫、つまりどこに何が何個あるとかを全部把握していましたね。棚卸しというと、そこから全部転記して全部計算するということだったし、かなり細かく管理していましたね。

 これは僕じゃなくておやじが、業界の勉強会の中から近代的なものを導入したのだと思います。

 伝票にはテレビとか冷蔵庫と書く欄があって、全部型番を書き、全部伝票にして、日報を出していました。僕がそれを見て、頭の中から全部の店の在庫を引いたり足したりしていました。その頃は店が小さかったから、どこの店に何が何個あるかが分かります。何個置くべきだというのも頭で決めています。それで日報を見て、いくつ売れたからどうなったかも分かるんです。それで自分でまた発注する。4店か5店の時はそうやっていましたね。コンピューターが入る前は大変でした。

―― 売れる商品はボリュームで仕入れるので、今は早く仕入れをして用意をしている、と。

 電池、電球とか、トースターとか、継続的に売っている商品はPOS(販売時点情報管理)データによって定数を決めて自動発注というので動かしているから、人が介在していません。新製品はデータがないので、商品を仕入れる係がやっています。

 今、僕は消費者と全く同じ立場です。昔は商品について詳しかったんだけど、今はお客さんの立場でお店に行く。そして僕が困ることはお客さんも困る。「買おうと思ったけど、どれを買っていいか分からない」と言って、お客さんの気持ちを代弁します。

―― アフターサービスと言えば、家電量販の世界では保証に力を入れています。

 これがまたケーズデンキだけ違うんです。よその会社は保険であり、お金を払ったら3年保証します、5年保証しますと言います。それだと、故障は少ないと思うから保険をかけたくないよという人がいっぱいいる。だけど2年以内で壊れちゃったら、お客さんは保険をかけてないから3万円頂きます、2万円頂きますとなる。これは気の毒だから、ケーズデンキは自動的に保証しているんですよ。

―― 保険ではないんですか。

 保険じゃないです。ケーズデンキでお客さんに対して保証するわけです。お客さんの立場を考えているからそういうやり方なんです。うちはテレビの3万円以上のものを買ってくれたら3年間保証、5万円以上のものを買ってくれたら5年間保証、冷蔵庫で10万円以上のものだったら10年間保証。これは買っただけで保証になっちゃうんです。

保険よりも保証のほうが、お客さんも店も好都合

 保険手続きも何もないんです。シンプルでしょう。いちいち保険をかけますか、かけませんかと聞かなくていい。保険をかける手間とか、保険会社が儲かる分だけコスト高になりますからね。

 お客さんがいつ買ったかだけ分かれば、保険をかけるのではなく保証しちゃった方が軽いわけです。そういう考え方で全部ローコストになっているので、けちってローコストにしているわけじゃない。でも、これはなかなか理解されない。何十年とこの考え方でやっていますが、よその会社に行くと、非常識になっちゃう。

―― 東京にいるとなかなか、ケーズデンキの店舗を見かけません。

 街の中は、わざわざ行く場所なんです。デパートに買い物に行くような場所です。だから巨大な店が成り立つ。会社帰りに寄る人はいるけれども、わざわざ買いに行こうとすると大変なんです。だから、うちはそういうところに店はつくらず、郊外に大きな店をつくります。土地が安いし店舗もローコストだから、大きな店をつくっても安いコストでできる。

 うちはスーパーのような立地にしか店をつくらない。デパートとスーパーは違うので、すみ分けをしましょうということです。だからビック、ヨドバシとケーズは競争にならない。違うところで商売をしているのです。

―― 不況で出店の環境はずいぶんよくなっていて、ショッピングセンター(SC)などからもお話がたくさん来るようになったんじゃないですか。

 サイズと金額が合えば出しますが、電器店というのは、自分で大きいチラシを入れて、自分で客を集めているわけです。ショッピングセンターは人を集めてはくれますが、坪当たりの家賃がかなり高い。

 出店計画で考えていけば、基本的には、いい店と悪い店、儲かる店と儲からない店ができる。利益の出ない会社は、儲からない店の比率が高いんです。儲かる会社は、儲かる店の比率が高い。ケーズデンキは儲かる店の比率が高いから儲かるのです。

 そういう面でも、軽く考えているんですよ。当然儲かる店をつくっていって、それを社員に伸び伸びとやってもらう。社員の力はもちちん必要ですが、社員の力だけで儲かるようにしようとはしない。

―― 無理しなくても儲かるような店をつくっていく。

 ダメになった会社を買収したら、買収した側の会社もダメになる。ダメな店を抱えてしまうからです。

 ケーズデンキはいくつも買収をやってきたけど、1割未満の店だけを捨てればいい会社とやってきました。だいたい分かるんです。よその会社を見ていたら、その会社がいつ頃ダメになるかがだいたい予測できるし、過去の予測は全部当たりましたよ。

 数字がダメになっていくということは、ダメな店をつくってきたということなんです。規模が大きくて数字が悪くて、使える店が半分もない会社というのは大変ですよね。

―― そういう意味では、2007年に子会社化したデンコードーなどは、ケーズにはどんなふうに映っているんですか。

 デンコードーは似たような会社で、僕が30歳の頃、だから30年ぐらい前はよく勉強に行きました。昔はデンコードーの方がずっと大きかった。郊外型で、1フロアで広い大きさのお店を展開している会社で、東北地方でシェアトップ。そこへケーズデンキがあるから、両方一緒になってダントツのシェアになると強いエリアができるということで、一番組みたかった相手でした。

先頭に立ちたいという思いはなし

―― おそらくこれから先も家電量販業界の再編機運は続くのでしょう。地域戦が終わると全国大会がこれから始まります。社長は全国で3店とおっしゃっています。

 今の勢力図を見て、どこが残るという意味で言っているわけじゃないんです。お客さんの生活パターンとしての規模の街があり、その中に電器店があった時、お客さんは面倒くさいから4つも5つも比べて買わない。普通は2つぐらい、よく比べても3つぐらい。比べる対象から外れた店は、急速に衰退していくと思うんです。それが全国、過去はばらばらに地域リーグ戦をやっていたから、各地域で3つぐらい有名な店があったとして、お互いがいろいろな地域に出ていくようになると、そこで淘汰が起きて最終的には比べられる3つぐらいになっていくでしょうという意味です。お客さんの行動心理から言っているわけです。

―― 業界再編で規模を追いかけざるを得ないという見方もあります。

 規模は毎年売り上げが増えるとだんだん大きくなるわけだけれども、規模を追いかけているわけじゃない。規模を追いかけるようになると、どこかとどこかがくっついたら売り上げがどうなるという話がありますが、僕はあれは一番嫌いだね。大きくて弱い会社ができちゃう。

 私はそういう考え方でやっているけど、ほかの人はバイイングパワーという言葉を結構使い、どことどこがくっつくと売り上げが1兆円になるとか何とか言っています。

 それが何なのという話。だってメーカーさんから見れば、どことどこがくっつきましたと言っただけで仕入れを安くしてくれと言われ、じゃあ、利益を減らせということかという話になりませんか。何も変わらず、いや、つながったというだけで何で安く供給しなくちゃならない、となります。供給したとしたらメーカーの利益が減るだけじゃないですか。手間が省けるとかではない。

 ケーズの場合、一緒になった会社はみんな看板をケーズにしています。それから商品部隊は水戸にしかありません。水戸から自動発注で注文が行きますから、水戸に来て商談したら全国の店にきちっと物が入っていくし、お話は1カ所で済むということでね。

 これは大きくなった分だけコストが下がったことになりますが、うちとあそこが提携したとか株を持ったことは、メーカーさんの日頃の行動に対してコストダウンになっていない。

 バイイングパワーというのもおかしい。僕が大学を卒業する頃、一番大きかったのは星電社という会社です。その次に一番電器を売っていたのは第一家庭電器、その次がダイエー、その次にベスト電器、コジマ、ヤマダ電機。これが順番に日本一の売り上げになったんですね。でも一番になった順番に弱くなっていくんです。星電社も第一家電もダイエーも経営が行き詰まりました。

 昨年11月、投資家への説明のためにアメリカに行ったんです。その時にサーキットシティという家電大手が経営破綻しました。15〜16年前アメリカに勉強に行った時は、サーキットシティがアメリカで1番の電器店だったんです。ベストバイが東海岸で活躍して、やっと西に少し店をつくってきた頃だった。だけどつぶれましたね、と言いました。

 これは事実を言っているだけです。そうすると、バイイングパワーという言葉は何なんですかという話です。

 バイイングパワーというのは、メーカーに圧力をかけようという意識なんです。僕はお客さんもメーカーも従業員もみんなよくなった方がいいと言っているんですよね。そこからいくと、バイイングパワーだけで安くしろではなくて、うちの方としてメーカーの能率が上がるようにしていきましょう、と。そのコストが下がった分は山分けしましょうという言い方はよくしています。下がった分だけ全部こっちによこせと言うのであれば、メーカーは下がらなくてもいいとなります。能率が上がったら全部取られちゃうんだったら、能率は上がらなくてもいいと言う。能率が上がったら分けっこしましょう、だったら喜ぶけどね。

 よその会社だと本部で商談しても、お店に行ってまたお店の人をいちいち口説かないと仕入れてくれないなんていうのがあるかもしれないけど、うちは自動的に商談して定数に入ったら、コンピューターから注文が行く。だからお店から注文が行かなくても、ちゃんと全店に発注が行っちゃうわけです。

―― 家電量販の店舗にはメーカーから派遣の販売員が来られたりしていますけれども、その点でケーズさんらしいところは何かありますか。

 うちは「なるべくだったら、あんまり来てほしいとは思わない」という態度です。来た人は、自社の商品をお客さんに薦めるからね。

 都市型の店は頼っていますが、どうしたって自分のメーカーがいいとやるから、お客さんが怒る場合があるわけです。何々を買いたいのにこっちへと言われたとか、買いたいものは保証が悪いとか何か変なことを言われたりしたら、怒りますよね。

 都市型の店舗はお客さんがいっぱい来ていて、それで量販店の社員を少ししか置いていないから、メーカーの人はお客さんを誘導できる。自社の商品を売ることができるから来るんです。

高望みはしないが増収増益を続けるのが目標

―― 店長や現場の社員からは、加藤社長のやり方に対してどういうリアクションがあるのですか。

 僕に社員からの声は、そんなに直接は返ってこない。だから僕がお店に行ったって社長扱いされません。気が付かない人が多いよ(笑)。開店セールで笠間店(茨城県笠間市)に女房と行ったけど、まあ、店内を歩いていても1人か2人気が付いたぐらいで、あとの人はただ単におじさんが歩いているとしか思っていないでしょう。昔、中内さんがダイエーに行った時に社員がずらりと並んだのとは反対です。全然社長だとも思ってもらえない。思ってもらいたくもないですけどね。

―― 今後の業績はどうなっていくのでしょう。

 環境が厳しいから、高望みはしません。でも増収増益はずっと続けられるようにしていこうと思います。こういう時期だから、引き締めてやっていこうとしていますけどね。こういう時期なので、そんなにすごく伸ばさなくたって、周りの調子が悪くなると目立つだろうと思うんだよね。

 こうなったから手を打つといっても、間に合わない会社が多いんじゃないでしょうか。そんな何か対策を取ったらどうにかなると言ったって、やっぱり惰性があってしばらくは大変ですよね。

―― では、従業員の採用ペースも変わらない。

 採用は常にしています。常に必要ですね。不景気になると減りますが、既存店とか、先ほどの20人のところを1人ずつとかから配置転換します。

 だからしばらくは同じようなペースで店舗数を増やしていくでしょう。店の土地も前よりは探しやすくなっているんです、今の環境は。

 結局、競争になって取りっこになっちゃうんです。でも、やるところがいない、相手はうちしかないと思ったら、うちも強気でいい条件を出すし、出たくないと言えばそれで済む。

 景気がいい時に設備投資に踏み切って、悪くなった時にブレーキを踏むのは2回ぶつけるようなもの。左のガードレールにぶつけて、ガードレールのないところに行ったら落っこちる。

―― そういう意味では、不況期はむしろやりやすい時代ですか。

 いや、それは普通の方がいいです。これだけ不景気だったら、やっぱり増収、増益にするのにはさらなるコストダウンというか、ちょっとみんな真剣にやってくれと言わざるを得ないじゃないですか。普通の景気だったら、もう気楽にやってくれと言えるけど、今は気楽じゃなくて「もうちょっと基本をさらに徹底してくれ」と言っていますね。接客とか、商品の説明。だから、そこで何とかしろとは言わないです。「さらに、やるべきことをちゃんとやってくれ」みたいな言い方ですけどね。

―― 「頑張れ」とは言わないわけですね。

 お店に寄った帰りにトイレに行きます。トイレが汚いとしたら、きれいにすることになっているんです。だけど、ちゃんと掃除をしましたと言ったって、その30分後に誰か汚すかもしれない。そのことまで考えてきれいにしてくれみたいなことを言いますけどね。事実として起きちゃえば、いや、やっているんですではダメなんですよね。やっているんです、相当頻繁にやっていますと言っても、それでも汚かったらやっぱり汚いんですよね。

地味に、地道に、着実に

―― 影響を受けた経営者、目標とする経営者はいますか。

 あんまりいないかもしれません。途中でいい人っているけど、みんなダメになっていく。やっぱり良すぎちゃうんでしょうね。だから何でそうなっちゃうのかなというのは難しいですね。

―― 社長ご自身は、お父様から会社を継がれましたけど、次にバトンを渡す身内の方は社内にいますか。

 いや、いない。身内にバトンを渡すようなことやっている会社が、だいたいダメになっていく。ダメにならなくするには、そういうことをしないということなんです。

 僕は若いうちにいっぱい勉強をしました。電器店の組織があって、その中で昔は年に2回か3回勉強会があり、1泊とかして講師を8人から10人ぐらい呼んで、ずっと勉強会だったんですよ。いろいろな人の話を聞いているうちに、うまくいくのは誰が言っても同じことだな、と思ってきました。うまくいくということは、だいたい誰もが言っていることが一緒。形が違うだけで、人のためになったとか何かをやった人なんです。

 テクニック的に自分がうまくいくことをやった人はその時期が短いんですよ。ずっと続かない話だから、瞬間的にうまくいった話ですね。そういう人は、みんな後でダメになっていくんです。だから有名になればなるほど短いんですよ。うちの会社みたいに特徴がないと、ずっと生き残る。不景気になると脚光を浴びますよね。好況の時は地味に、地道に、着実にやっている会社だから目立たないんです。

 十何年も前から、本当に同じことを言っています。表現とかは多少変わっていますけれども、筋は全部同じです。今が増収、増益だからと言えるのではなくて、昔から同じことを言っています。それを知っていただきたいですね。