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失われた命の理由どこへ 真須美被告と面会

 彼女と言葉を交わすのは、10年ぶりだった。以前と変わらず、堰(せき)を切ったように、何かにせき立てられるかのような話は途切れることがない。ただ違ったのは、今回は透明のアクリル板越しの対面となったことだった。

 和歌山の毒物カレー事件で、殺人などの罪に問われた林真須美被告。いまは大阪拘置所の独居房で暮らす彼女と、4月に面会した。

 初めて彼女に会ったのは事件の翌日、平成10年7月26日だった。和歌山県警担当になって1週間。前夜の食中毒騒ぎは、一夜明けると無差別殺傷事件になっていた。呆然(ぼうぜん)としながら向かった現場周辺で、初めてまともに話を聞けた相手が彼女だった。

 あの日からずっと、この事件を、彼女を追いかけてきた。和歌山地裁から大阪高裁、そして最高裁へと審理の場が移る間、私も大阪社会部に異動した。

 この事件では、4人が犠牲になった。捜査の過程で過労で亡くなった刑事もいた。失われた命の理由を、どうしても知りたかった。事件発生時を取材した者として、知らなければならなかった。

 だが、公判の傍聴を重ねても、答えは見つからないまま。無罪を訴え続けている彼女に尋ねても詮(せん)無いことだと思いながらも彼女に会うほかなかった。

 「会いたかったんよ。事件発生から10年のとき、私が詠んだ川柳のことを記事にしてくれてたやろ」

 面会室に現れた彼女は、驚くほど変わっていなかった。冗舌なのも昔のままだ。「私はやっていないんやから。証拠もないのに『推認される』なんて言葉で死刑にされてはたまらへんわ」。会話はキャッチボールにならないまま、10分の面会時間は瞬く間に過ぎていく。

 付き添いの刑務官が残り時間が少ないことを告げると、ペースはさらに上がった。「主人に元気だと伝えてください」「差し入れを頼んでもええかな」「今度は手紙を書いてね」。矢継ぎ早の言葉を残すと、人懐っこい笑顔とともにドアの向こうに消えていった。

 カレー事件の犯行動機は解明されないまま、真須美被告の死刑が確定した。確定死刑囚との面会は著しく制限される。彼女と会うことも、もうかなわないだろう。結局、この10年あまりの取材は何だったのか。自問自答を、記者を続けていく限り繰り返すのだと思う。(福富正大)
 

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