事件・事故・裁判

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裁判員制度:きょうスタート 裁くのは、あなた 紆余曲折の船出(その1)

 裁判員制度が21日、スタートした。国民の司法参加は、政府の司法制度改革審議会の議論を経たうえで、海外の制度の利点を取り入れた日本独自の制度として実現した。この日以降に起訴された事件が対象となり、裁判員が参加する裁判の実施は7月下旬以降とみられる。制度開始に当たって、導入の経緯や、制度の仕組みをまとめた。【北村和巳、銭場裕司】

 ■どうやって選ばれる?

 ◇1事件に呼び出し50~100人 最後は抽選で6人

 今年の裁判員は、昨年末に最高裁から通知が送られた29万5027人の裁判員候補者から選ばれる。

 各地裁・支部は起訴された対象事件について、公判前整理手続きで審理日程を決めた後に候補者名簿から抽選し、公判が3日以内に終わる事件では50人程度を呼び出す。呼び出し状は選任手続きの6週間前までに発送され、最も早い人には6月上旬に呼び出し状が届く見通し。届いた人は同封の質問票で辞退を申し立てることができ、認められれば裁判所に出向く必要はない。

 選任手続きでは、担当職員から事件の概要が初めて伝えられる。候補者は、当日用質問票で(1)事件に特別な関係があるか(2)事件に関する情報を報道などで知っているか(3)自分や近親者が同様の被害に遭ったことがあるか--を回答する。被告や被害者、その親族や同居人、告発者らのほか、不公平な裁判をする恐れがある者は裁判員になれないからだ。

 裁判長は、質問票などを参考にしながら候補者に直接質問し、辞退の可否や裁判員になれるかを判断する。検察官と弁護人も候補者のうち原則4人まで理由を示さないで裁判員に選ばないよう求めることができる。

 一連の手続きで残った候補者から、抽選で裁判員6人が決まる。裁判員が病気などで途中から参加できなくなる場合に備え、補充裁判員を同時に選ぶこともある(6人まで)。

 ■選ばれる確率は?

 ◇5593分の1--対象事件は年々減少

 昨年末に裁判員候補者通知が送られた29万5027人のうち、年間を通じて辞退を認められる人や警察官など裁判員になれない人は延べ約7万4800人に上る。最高裁が候補者に辞退希望を尋ねる調査票への回答で判明した分で、残った約22万人の候補者から裁判員が選ばれることになる。

 辞退希望を示したのは延べ7万251人。内訳は70歳以上4万5434人▽学生2030人などで、原則、辞退が認められる。「重い病気・けが」と回答した2万2749人は各地裁が可否を判断するが、大多数が辞退できる見込みだ。

 全国の地裁・支部で08年に起訴された裁判員制度対象事件は計2324件だった。1事件につき補充裁判員2人を含め8人の裁判員が選ばれると仮定すると、裁判員総数は1万8592人。制度が年の途中から始まるため裁判員総数を12分の7にして、今年の裁判員候補者数で試算すると、裁判所に呼び出される可能性がある約22万人のうち、およそ5%が裁判員・補充裁判員に選ばれる計算だ。

 また、08年の対象事件数を基に、年間で有権者(08年9月2日現在)の何人に1人が裁判員に選ばれるか試算すると、有権者5593人に1人となる。

 ただ、対象事件数は最高裁が統計を取り始めた03年の3646件から年々減少傾向にあり、今後の増減で選ばれる確率は変わる。

 ■判決、どう決める?

 ◇裁判官を交えて有罪・無罪、量刑を評議

 裁判員は裁判官とともに話し合い、被告が起訴状に書かれた犯罪を行ったかどうか判断し、有罪と認められれば「懲役○年、執行猶予×年」「死刑」といった刑を決める。

 刑事裁判では、被告の有罪を立証するのは検察官の責任とされる。裁判員は検察官の主張と証拠を検討し、社会常識などに照らして罪を犯したことに疑問がある時は、無罪と判断しなければならない。いわゆる「無罪推定の原則」だ。結論は、法廷に出された証拠だけを材料にして導き出す。

 公判は、検察官が起訴状を読み上げ、被告と弁護人が意見を述べる「冒頭手続き」で始まる。双方が主張を展開する冒頭陳述を行い、公判前整理手続きで選択された証拠の取り調べがされる。証人や被告には裁判員も質問が可能だ。裁判員と裁判官は公判の進み具合に合わせ、評議室で疑問点や感想などを意見交換。「証拠調べ」が終われば、検察側が論告求刑、弁護人が最終弁論し、被告の最終陳述で審理が終わる。

 裁判員と裁判官は「評議」に移り、最初に検察官の主張通り被告が罪を犯したか話し合う。どのような事実があったかを認定し、法律の適用を受けるかどうかを議論し、有罪となった場合は、量刑の判断に移る。事実認定や量刑で意見が分かれて決まらない場合は、多数決で決める。

 ■辞退が認められるのは?

 「思想信条」は対象外 共働きで子供が病気/単身赴任者の帰省→考慮

 裁判員として参加することは法律上の義務だが、辞退が認められるケースが法律や政令で定められている。

 70歳以上や学生、過去5年以内に裁判員や検察審査員を務めた人、会期中の地方議会の議員らは希望すれば辞退できる。親族らの介護・養育の必要があったり、妊娠中や出産から8週間たっていない人も辞退が可能だ。

 さらに、個別の事情で候補者から辞退希望が出る際の判断材料として、最高裁は事例集をまとめた。共働き夫婦=6歳未満の子供が病気やけがになった時▽派遣労働者=出勤日数が少ない月や就職活動時▽トレーダー=株式相場の乱高下時▽単身赴任者=帰省予定日前後--などのケースを挙げている。

 一方、思想信条を理由に辞退はできず「制度に反対だ」「人を裁きたくない」というだけでは辞退は認められない。ただし、政令には「精神上の重大な不利益が生ずる」場合に辞退が認められる規定があり「宗教上の理由で死刑を言い渡せない」などの理由を挙げた場合は、担当裁判官が「精神上の重大な不利益」に当たるかどうかを対象者ごとに判断する。

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 ■裁判員を辞退できるケース

 <法律や政令で辞退できる>

▽70歳以上▽学生▽過去5年以内に検察審査員を務めた▽重い病気やけが▽会期中の地方議員▽妊娠中や出産後8週間以内▽重い病気やけが、出産の親族の付き添い▽同居親族の介護や育児▽父母の葬式▽親族の結婚式

 <裁判官の判断で辞退できる>

▽棚卸し時の個人経営小売業者

▽卒業・入学式シーズンの美容師

▽大会直前のアマチュアスポーツ選手

▽代わる人がいない海外出張や接待

▽インフルエンザ流行時の医師

▽仕込み時期の杜氏(とうじ)

▽アルバイトで対応できない専門職

▽入試指導や指導計画をつくる教師

▽子供が受験直前の主婦

▽積雪により移動が困難

▽人を裁くことが心のバランスを崩す

 ■法律で裁判員になれないケース

▽国会議員▽裁判官▽検察官▽弁護士▽警察官▽法律学の教授▽知事と市区町村長▽自衛官--など一定の職業

▽禁固以上の刑に処せられた人

▽被告や被害者の親族

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 ■裁判員制度対象事件数と裁判員に選ばれる確率■

     事件数    確率

北海道   81  7136

青森    21  6976

秋田     9 13066

岩手    11 12701

宮城    39  6110

山形     7 17426

福島    43  4853

茨城    60  5048

栃木    50  4079

群馬    27  7557

埼玉   110  6559

千葉   172  3640

東京   259  5092

神奈川  120  7545

新潟    20 12355

富山     7 16241

石川     8 14807

福井     9  9117

山梨    26  3393

長野    20 11046

岐阜    40  5298

静岡    51  7543

愛知   156  4644

三重    32  5891

滋賀    18  7622

京都    51  5158

大阪   250  3545

兵庫    86  6596

奈良    28  5164

和歌山   20  5350

島根     8  9351

鳥取    11  5563

岡山    36  5492

広島    29 10038

山口    14 10892

徳島    14  5931

香川    21  4962

愛媛    31  4862

高知    26  3119

福岡   156  3280

佐賀    20  4319

長崎    22  6746

熊本    32  5836

大分    22  5660

宮崎    22  5328

鹿児島   16 11007

沖縄    13 10186

全国  2324  5593

 ※事件数は08年。確率は何人に1人選ばれるか。08年9月2日現在の有権者数で試算。裁判員は1事件につき補充裁判員2人を含む8人

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 ■起訴罪名別の裁判員制度対象事件数■

起訴罪名         04年  05年  06年  07年  08年

強盗致傷        1146 1111  939  695  590

殺人           761  690  642  557  543

現住建造物等放火     357  322  331  287  234

強姦(ごうかん)致死傷  316  274  240  218  189

傷害致死         229  205  181  171  173

強制わいせつ致死傷    167  132  161  168  136

強盗強姦         197  165  153  129  125

覚せい剤取締法違反    145  118  125   94  106

強盗致死(強盗殺人)   136  123   72   66   86

偽造通貨行使       151  244   40   62   36

通貨偽造          53   76   30   17   23

集団強姦致死傷        -   14   16   23   18

危険運転致死        38   43   56   51   17

麻薬特例法違反       20   19   14   13   10

保護責任者遺棄致死      8    8   14   10    8

爆発物取締罰則違反      6    3    1    4    8

銃刀法違反         23   37   40   29    6

その他           47   49   56   51   16

総数          3800 3633 3111 2645 2324

毎日新聞 2009年5月21日 東京朝刊

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