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新型インフルエンザ:首都圏で感染確認 「生徒のため思い…」渡米許可悔いる校長

 首都圏で初めて新型インフルエンザ感染が確認された。一緒に米国でのイベントに自費参加した私立洗足学園高校(川崎市)2年の女子生徒(いずれも16歳)2人だった。「子供たちが得るものは何物にも代え難いと思った」。20日深夜、マスク姿の報道陣に対し校長は、渡米を中止しなかった理由を苦渋の表情で説明。2人が住む東京都八王子市と川崎市の担当者は、対応に追われた。

 午後10時45分ごろから校内で会見した前田隆芳校長は当初、「はっきり連絡がない」と困惑した様子だったが、女子生徒の日程を説明した後、いったん退席。数分後に戻ると、やや大きな声で、「八王子(の女子生徒)については親から、川崎市(の女子生徒)は市から連絡がありました。2年生2人です」とやや紅潮した表情で説明した。

 前田校長によると、生徒は各国の高校生が集まる「模擬国連」というイベントに参加するため、同行の女性教諭1人と2年生2人、3年生4人の計7人で11日、ニューヨークに向かった。14~16日の本番を終え、19日午後、成田空港に到着した。検疫では、発症した女子生徒2人がサーモグラフィーで熱っぽかったため、簡易検査を受けたが、いずれも陰性だったという。

 神奈川県の学事振興課などとの協議で、出発前から自宅待機を決めており、帰国後、感染の可能性もあるため、20日から28日までを自宅待機としていた。教諭を含む7人が他の生徒と接触している可能性はないが、21日に登校させるかは、同日朝までに結論を出す。

 前田校長は「行かせないという判断もあったが、弱毒性ということも総合的に考えて、子供たちが得るものは何物にも代え難いという思いがあった。ただ、行ったことに関しては学校の責任だと思っている」と話した。

 一方、八王子市役所には、テレビでニュースが流れた午後9時過ぎから問い合わせが殺到した。「学校は休校になるのか」「病気を抱えているが大丈夫か」といった電話が相次ぎ、職員が対応に追われた。

 その後、21日午前0時から幹部級の緊急会議を開き、黒須隆一市長が「冷静に対応することが大事だ。市民に安心を与えられるよう行動しよう」と呼び掛けた。

 一方、川崎市では、阿部孝夫市長が会見し「今の段階では接触は限定的。市民は冷静な判断でパニックにならないようにしてほしい」と話した。【川端智子、笈田直樹、池田知広、山本将克】

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 ■解説

 ◇想定内、冷静な対応必要

 新型インフルエンザの感染者が検疫での発見例を除き、関西以外で初めて確認された。複数の専門家が国内で感染が拡大している可能性を指摘しており、新たに感染者が見つかるのは驚くべきことではない。新型インフルの多くは症状は軽い。事態を冷静に受け止めたい。

 今回感染確認されたのは、米ニューヨークを訪れた高校生2人。成田空港到着時に38度を超す熱があったが、いずれも検疫で簡易検査の結果は陰性だった。簡易検査の信用性は7~9割程度で遺伝子検査に比べて低く、今回のようなすり抜けも予想されていた。

 ニューヨークで新型への感染が広がっていることを考えると、当地で感染した可能性は高く、同行した生徒らの感染の有無と帰国後に接触した人の把握を急ぐ必要がある。

 高校生が渡航中に感染したとすれば、国内で人から人への感染が始まる前に発見されたと考えられ、そもそもの感染原因が不明で感染者が拡大し続けていている関西の状況とは異なる。

 新型インフルの多くは症状は軽いが、持病を持った人が感染した場合に重症化する恐れが指摘されている。感染拡大を防止することは、それらの人の命を守ることでもあり、個々人が感染を避ける努力が必要だ。

 今回感染が確認された東京都は渡航歴などの症例定義にかかわらず、インフルエンザ患者の新型への感染を調べる遺伝子検査を実施し始めている。行政も感染者の早期発見に向けた積極的な対応が求められる。【関東晋慈】

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 ◇新型インフル感染者の年齢層◇

 (20日午後11時現在、毎日新聞社調べ)

幼稚園以下   2人

小学生    12人

中学生    12人

高校生   200人

高専生     6人

専門学校生   1人

大学生     5人

成人     23人

不明      6人

計     267人

毎日新聞 2009年5月21日 東京朝刊

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