正しいマスクの使い方: 咳やくしゃみの人にそれを譲ってあげること
公衆衛生に関わる問題について権威のない立場から不確かな情報を発信すべきではないので、ごく普通の市民であるブロガーとしてできることは、確かな情報源を引用するくらいのことだろう。マスクについて、典拠明記の上、気になったことをまとめておきたい。
この問題で一番参考になったのは、ニューヨークタイムズのコンサルタント・ブログに掲載された"Is It Safe to Fly During the Swine Flu Outbreak?"(参照)、という、専門家マーク・ジェンドルー(Mark Gendreau M.D.)による質疑応答だった。"Q. Are there ways to protect oneself against the spread of swine flu when flying?"(旅行中、豚インフルエンザの拡散に対して個人できる防御策はありますか?)という問いで、マスクについてはこう答えている。
Consider a face mask. Face masks may help but only need to be used when outbreaks become widespread and are declared a pandemic.
マスクについて考慮すべきこと。マスクは役立つかもしれませんが、必要になるのはアウトブレイクが拡散した状態であり、パンデミックの宣言が出てからのことです。The most commonly used simple face masks only filter about 62 percent of very small particles, compared to about 98 percent for professional-grade face masks (these are typically designated N-95).
通常のマスクの微細物へのフィルター率は62%ですが、これ比して専用のもはは98%です。これらはN-95と明記されています。Simple face masks are designed to prevent large droplets that are coughed or sneezed from contaminating the environment rather than protecting the wearer.
通常のマスクはそれを付けている人を保護するというより、咳や鼻水などで汚染された環境における大きめな飛沫への防御用です。Bring an extra mask along, and kindly offer it to anyone coughing or sneezing who looks sick. This will keep any droplets from landing on you.
余分のマスクがあるなら、具合が悪そうで咳や鼻水の人に提供してください。そうすることで、飛沫があなたに届かなくなります。
専門家の示唆によれば、マスクの正しい使いかたは、咳やくしゃみの人にそれを譲ってあげることだ。
世界保健機関(WHO)はマスクについてどのような指針を出しているだろうか。これは国立感染症研究所 感染症情報センターの「インフルンエザA(H1N1)アウトブレイクにおける市中でのマスク使用に関する助言 暫定的な手引き」(参照)として掲載されている。原文は"Advice on the use of masks in the community setting in Influenza A(H1N1) outbreaks"(参照PDF)にある。
呼吸器ウイルスの感染拡大予防の評価をした研究によると、医療機関においては、マスクの使用がインフルエンザの感染の伝播を減少させる可能性が示されている。医療機関におけるマスク使用の助言は、正しいマスクの使用のトレーニングや定期的な供給、及び適正な廃棄施設といったマスク使用の有効性に影響する可能性がある補足的な対策情報と一緒に提供されている。
「医療機関」において正しいマスク使用がなされるなら、あくまで「補足的な対策」として考慮されるものとしている。だが、一般的には次のように指針を出している。
しかしながら、特に開かれた空間において、インフルエンザ様症状のある人と閉鎖空間で濃厚接触した場合と比較した、マスク着用の有効性は確立されていない。
マスクの効果は科学的にはわかっていない。マスクの効果がないとも言えないが、あるとはいえないというのが科学的な立場だ。
WHOはもう少し一般の人の心理に配慮し、指針を出している。強調は原文のままである。
それでもなお、多くの人がインフルエンザ様症状のある人と濃厚接触した場合、例えば家族に対するケアを行う時のような場合に、家庭内または市中でマスクを着用することを望むかもしれない。さらに、インフルエンザ様症状のある人がマスクを使用すると、口および鼻を覆うのに役立ち、呼吸飛沫を覆うという咳エチケットの1つを行うのに役立つ。しかしながら、マスクを正しく使用しないことは、感染リスクを低下させるよりはむしろ、感染リスクの増加につながるかもしれない。もし、マスクを使用するならば、他のインフルエンザのヒト-ヒト感染を予防する一般的な対策も同時に行い、マスクの正しい使用の訓練を行い、文化や個人の価値観を考慮すべきである。
つまり、マスクの使用によって感染リスクが増加することに懸念している。
日本での新型インフルエンザ専門家会議による「新型インフルエンザ流行時の日常生活におけるマスク使用の考え方」(参照PDF)ではこう検討されている。不織布製マスクはN-95ではない通常のマスクを指している。
不織布(ふしょくふ)製マスクのフィルターに環境中のウイルスを含んだ飛沫がある程度は捕捉されるが、感染していない健康な人が、不織布製マスクを着用することで飛沫を完全に吸い込まないようにすることは出来ない。
米国疾病対策センター(CDC)も同様の見解を"CDC H1N1 Flu | Interim Recommendations for Facemask and Respirator Use in Certain Community Settings Where H1N1 Influenza Virus Transmission Has Been Detected"(参照)で出している
Based on currently available information, for non-healthcare settings where frequent exposures to persons with novel influenza A (H1N1) are unlikely, masks and respirators are not recommended.現時点で可能な情報に基づけば、新型インフルエンザA(H1N1)に人が頻繁に晒される医療機関外の状況は想定しがたく、マスクや呼吸制御器は推奨されない。
以上の情報元をまとめると、(1)通常のマスクはインフルエンザにかかっている人がウイルスを撒き散らすことを控える効果はあるが、健康者ウイルスから防御する役には立たない、(2) N-95など専用のマスクはウイルスを遮断する、という二点が言えるだろう。
すると、N-95なら防御効果があるのだろうか。
この点、NaturalNews.comという科学系啓蒙サイトに掲載されたマイク・アダムス(Mike Adams)による記事"Myth Busted: N95 Masks Are Useless at Protecting Wearers from Swine Flu by Mike Adams the Health Ranger"(参照)が、誇張過ぎるとも言えるが、ユーモラスに指摘している。
N95 masks have virtually no ability to protect the wearer from other people's airborne germs.
N-95規格のマスクの装着は、実際には、他者による空気感染ウイルスから防御する能力はありません。If it's not air-tight, it's not right!
息が苦しくないと、正しくはないThis should be obvious by simply noticing that N95 masks are not air-tight! When you inhale while wearing such a face mask, the air you're inhaling enters through the gaps on the sides of the mask, completely bypassing the mask filtration system.
ちょっと観察した程度だと、N-95マスクが息苦しいわけではないと思うでしょう。通常マスクのように装着して息を吸っても、空気はマスクの横から入ってきます。つまり、フィルターの役割をまったく無視した状態になっているわけです。This is why -- duh! -- level 4 biohazard scientists don't waltz into their labs wearing N95 face masks. If they did, they would die. Since they don't want to die, they don't depend on N95 respirators.
だから、いいかい、レベル4の生物学的危機状況に置かれた科学者は、N-95マスクをした状態で研究室へワルツのステップで入ることはできません。そんなことをすれば死んでしますよ。死になくないので、N-95に頼りません。So all those people planning on wearing N95 face masks are kidding themselves. That's what I mean about ill-informed preparedness. It's almost worse than no preparedness at all because it gives people a false sense of security.
だから、N95を装着しようというのは思い違いです。私が言いたいのは、こういうのが間違った情報による準備だということです。人々に間違った安心感を与えるというのは、準備がないよりひどいということなのです。
というわけで、典拠のわからない新型インフルエンザ完全対策マニュアルといった情報に踊らされるのは、準備を何にもしないよりましではなく、もっとひどいことになりかねない。
ところで、このマイク・アダムスの記事は本当だろうか。先の新型インフルエンザ専門家会議による「新型インフルエンザ流行時の日常生活におけるマスク使用の考え方」にも呼応する指摘がある。
日常生活においてマスクのフィルターで捕捉したい粒子としては、花粉や、咳やくしゃみにより飛散するウイルスを含んだ可能性のある飛沫がある。花粉の粒子の大きさは、20 から30μmである。また、インフルエンザウイルス等のウイルス自体は、0.1μm程度の大きさであるが、非常に微細で軽いためウイルス単独では外に飛ぶことができない。通常ウイルスが外に出る際には唾液等の飛沫と呼ばれる液体とともに飛散する。飛沫の大きさは5μm程度である。花粉や飛沫を捕捉することがマスクのフィルターの性能として求められ、それは材質等によって決まる。
しかしながら、吸い込む空気の全てがマスクのフィルターを通して吸い込まれるわけではなく、通常は顔とマスクの間からフィルターを通過していない空気が多く流入する。これらの空気には、花粉や飛沫等が含まれている可能性がある。使用する際にはマスクをなるべく顔に密着させることが求められるが、それでも空気が顔とマスクの間からある程度は流入する。それゆえ、これらの空気とともにウイルスが含まれた飛沫が流入すると感染する可能性がある。また、より密閉性が高いマスクを使用すると、呼吸することが難しくなる。
N-95規格のマウスは日常生活においては呼吸困難に陥ると理解してよいだろう。
なお、ここでの指摘にはもう一つ興味深いことがある。ウイルスは空気感染するとはいうけど、0.1μm程度のサイズのインフルエンザは単体では飛翔できないということだ。
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