ミャンマー軍事政権が民主化勢力の指導者アウン・サン・スー・チー氏(63)を、無許可で外国人に面会した罪で起訴した。軍事政権が1年前に延長したスー・チー氏の軟禁期限は今月末で切れるはずだったが、解放はまたもや遠のいた。
米国人旅行者が昨年11月と今年5月にスー・チー氏の自宅を訪れたことが起訴につながったが、経緯には疑問がある。なぜ一介の外国人旅行者が当局の厳重な警備をかいくぐり二度も訪問できたのか。当局は旅行者とスー・チー氏、その世話役の親子を起訴したが、なぜ警備担当者の責任を問わないのか。
軟禁期限が切れる直前というタイミングもあり、民主化勢力や一部メディアの「当局がしくんだ陰謀」との指摘には説得力がある。
軍事政権は来年、新憲法下で初の総選挙を実施する計画だ。起訴の狙いは総選挙に向けて民主化勢力を抑え込むことだろう。有罪判決が出ればスー・チー氏は最大5年の禁固に服すことになる。スー・チー氏は健康状態の悪化が伝えられており、人道的にも許しがたい醜行である。
残念なことに国際社会の反応は割れている。米欧諸国は制裁の継続や強化に動いた。東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国のタイや日本は「深い懸念」を表明したが、新たな制裁には慎重だ。ミャンマーに隣接するアジアの二大国、中国とインドは事実上沈黙している。
かつて中国共産党の支援を受けたビルマ共産党と戦った経験から、軍事政権中枢には対中警戒感がある。だが米欧などの制裁に押される形で中国に接近してきた。今年3月には中国内陸部とインド洋をつなぐ石油パイプラインの建設が決まった。
制裁は中国を利する結果となっており、ここに日本や米欧諸国の外交が直面するジレンマがある。
イランとの対話路線を打ち出したオバマ米政権には対ミャンマー政策でも柔軟な政策を模索する声があった。日本政府内にも総選挙を民主化の進展ととらえ制裁の緩和を探る向きがある。だがスー・チー氏の起訴で具体化は難しくなった。
中印を巻き込んで軍事政権に働きかける――。一見遠回りで地道な努力こそ日米欧は求められている。