日本漢字能力検定協会(京都市)の大久保昇・前理事長と長男の浩・前副理事長が背任の疑いで京都地検に逮捕された。年間280万人が受検する「漢検」にとって大きな汚点になった。文化事業を担う財団に対し、検察が強制捜査に入るのは異例のことである。公益法人を隠れみのにした私的な利益追求を、長年にわたり放置してきた文部科学省の責任も重大だ。不明朗な運営の実態解明が求められる。
2人が役員を務める広告会社に架空の業務委託を行い、協会に約2億6000万円の損害を与えたのが逮捕容疑とされる。協会は前理事長親子から被った損害があれば早急に取り戻し、受検者や社会に還元することで信頼回復を図るべきだ。
不正発覚の発端は、協会が毎年数億円以上の利益を上げていたことだった。税制上、優遇措置を受けている公益法人なのに不適切だ。弁護士らに依頼した協会の内部調査などを通じ、前理事長一族が経営するファミリー企業との不透明な取引が明らかになった。
内部調査などによると、今回問題となった広告会社を含めファミリー企業は4社あり、協会からの業務委託などで流れた資金はこれまでに総額約250億円にのぼる。しかし、業務の多くは別会社に丸投げされていたという。「利益を吸い上げるトンネル会社」と言われても仕方あるまい。2人が得ていた報酬は広告会社からだけでも、この5年間に約1億8000万円あった。捜査が他の関連企業にも広がれば、損害はもっと膨らむ可能性がある。
前理事長らは引責辞任に追い込まれ、新しく理事長に就任した鬼追明夫・元日弁連会長は「新生漢検100日プロジェクト」をスタート。こうした関連企業との取引や、運営実態の洗い直しを進めている。
その上で、一連の不透明な取引については損害賠償を求める方針だ。捜査とは別に、協会は民事上の責任追及を加速しなければならない。
実施が危ぶまれていた今年の「漢検」は予定通り6月に行われる。しかし、受検者は大幅に減少する見通しだ。受検料を今回100~500円引き下げたが、もうけ過ぎが批判されたことを考慮すれば、更なる引き下げを検討すべきだ。
累計で2600万人を超すという過去の受検者も被害者だ。損害賠償を通じて回復した利益を、社会貢献に使うことで過去の受検者にも償うべきだ。協会は従来も漢字や日本語についての研究や教育活動への助成を行ってきたが、より幅広い分野への貢献を考えてもよい。そうした実績を積み重ねることで初めて、「漢検」への信頼が取り戻せる。
毎日新聞 2009年5月21日 東京朝刊