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社説

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最悪GDP―怖いデフレと失業の連鎖

 戦後最悪の景気失速が数字で裏付けられた。今年1〜3月期の国内総生産(GDP)の実質成長率は年率換算でマイナス15.2%。昨年10〜12月期分も同14.4%に下方修正された。ともに第1次石油危機当時の同13.1%(74年1〜3月期)を上回り、戦後最大の落ち込みを更新した。2四半期連続の2けた減少も初めてだ。

 今年1〜3月期は、米国が同6.1%、欧州ユーロ圏16カ国が同10%程度だった。日本の落ち込みが深いのは、輸出依存が裏目に出たためだ。世界中の需要消滅にひとたまりもなく、急激で大幅な減産が、設備投資の抑制と消費の冷え込みに波及した。

 ただし、鉱工業生産指数の動きを見ると減産は2月に一段落しており、3月以降は半年ぶりの回復基調となっている。昨年秋からの歴史的な経済収縮は1〜3月を当面の底にして、横ばいないし若干の持ち直し局面に入った可能性がある。民間エコノミストらの予測では、4〜6月期のGDPはプラス1%強の成長が見込まれる。

 日本の状況は、世界経済の落ち着きの反映でもある。米国では、金融当局による大手銀行への特別検査が終わり、金融危機の再燃に対する警戒感は和らいでいる。金融危機の病根である住宅・不動産市場は一進一退だが、ひところの悲観論一色ではなくなった。欧州は中東欧に火種を抱えるものの、金融は小康状態を維持している。

 ただ、景気が「V字」形の急回復の道をたどるという期待感はない。年内は「L字」形の横ばいが続き、経済対策の効果も出てくる年末には徐々に回復軌道に乗る、というのが国際機関などの楽観的な見通しだ。だが、世界金融不安が再燃すれば、あっけなく「二番底」に落ちる危険もある。

 当面警戒すべきは、デフレと雇用の悪化だ。国内の消費者物価は石油製品などの値下がりで3月はマイナスに転じた。これが消費不振によって加速するようだと企業経営をさらに圧迫し、失業の増加に拍車がかかりかねない。3月の失業率は4.8%だったが、いずれ5%を突破するだろう。雇用悪化→消費減→デフレという悪循環を避けるべく、細心の配慮が求められる。

 同様の危険は米国にもある。4月の消費者物価は54年ぶりの下げ幅を記録した。雇用も、ゼネラル・モーターズ問題の行方次第では一段と深刻化しよう。失業などで家計が悪化すればカードローンなどの不良債権が急拡大し、銀行の経営不安につながる。

 日本銀行の白川方明総裁は4月に米国で行った講演で「90年代の日本経済は何回か一時的な回復を経験したが、『偽りの夜明け』だった」との警句を発している。段階的な回復か、デフレ下でのさらに長い低迷か。世界と日本の景気は大きな分かれ道にある。

日本郵便事件―無責任体質にあきれる

 障害者団体が定期刊行物を郵送するときには格安の料金が適用される。団体の活動を支えるためだ。その制度を悪用した事件で、郵便事業会社(JP日本郵便)の支店長ら2人が大阪地検特捜部に逮捕された。

 制度の要件を満たさないダイレクトメール(DM)広告と知りながら承認し、広告主の企業が本来支払うべき料金との差額3億円余を免れさせたという郵便法違反の容疑だ。

 制度が適用されると、通常なら1通120円の郵便料金が8円にまで割り引かれる。発行部数の8割以上が有償の購読者で、広告の印刷部分が50%を超えないことなどが要件だ。

 日本郵便はそうした要件を定期調査などで検査することになっている。ところが捜査から浮かび上がったのは、まるでチェックが機能していなかった実態である。

 一見してわかるDM広告が審査を素通りしていた。大量の刊行物の購読者が有償かどうかも調べられなかった。こともあろうに日本郵便の方からトラックを出して集荷までしていた。

 不正を見過ごしたのは逮捕された2人だけではない。特捜部の事情聴取に対し、両支店で審査にかかわった社員らの大半が違法性を認識していたと話している。支店長らが不当な利益を得ていたわけではないとみられ、漫然と不正を見逃す体質が染みついていたとしか思えない。

 制度の悪用は郵政民営化の前からだった。日本郵便の調査では07年4月から1年7カ月間で、制度を利用した1億8800万通のうち8割が違法なDM広告だった。正規料金との差額はこれだけでも160億円になる計算だ。

 昨秋の不正発覚後、日本郵便は被害者の立場を強調していた。しかし、違法なDM広告の発送窓口となったのは全国で20支店を超えることもわかっている。組織全体の規律にゆるみがあったといわれても仕方ないだろう。

 福祉を目的に割引された料金は、一般の郵便利用料から補填(ほ・てん)されていることになる。国民に広く負担を強いているという認識が、日本郵便には決定的に欠けている。

 年金のずさんな管理や改ざんで、解体に追い込まれた社会保険庁にも比すべきいい加減さだ。

 公社時代からの法令順守に甘い体質は、きっぱり断ち切らねばならない。民間企業で経験を積んだ経営陣は、思い切った手立てをとるべきだろう。第三者を入れた委員会で事件の背景事情を調べるなど、徹底してウミを出さねばならない。

 疑惑はまだ残っている。活動実態がない障害者団体が認定されたのはなぜか。政治家の介入はなかったか。そもそも割引制度の悪用はだれが始めたのか。特捜部に解明を期待したい。

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