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【国際】

比で初 自衛隊災害演習 太平洋戦争の激戦地

2009年5月20日 朝刊

山中の村で医療活動を行う自衛隊員

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 太平洋戦争の激戦地フィリピンに、日本の自衛隊が初めて本格的に上陸し、他国軍とともに災害救援演習を実施した。山中の村で医療活動や給水活動を行い、実力をアピール。本来任務に格上げされた海外活動の展開に、大きな一歩をしるした。(フィリピン北部サンバレス州で、吉枝道生)

 「僕の父は元ゲリラ兵で、日本軍に捕まって殺されそうになったことがある。恐ろしかったと聞いた。でも、今来ている彼らは違うね。親切だし、素晴らしい技術を持っている」。グレッグ・カタパンさん(59)はそう言って、演習にいそしむ自衛隊員を見つめた。

 東南アジア諸国連合地域フォーラム(ARF)による、大型台風被害を想定した初めての合同演習が今月フィリピン北部で行われ、十三カ国が参加。日本は参加国中最大規模の約八十人を派遣。うち約七十人が陸海空の自衛隊員だった。

 サンバレス州の山中にあるイラム地区では、米軍、オーストラリア軍と合同で医療活動などに取り組み、周辺の集落からも大勢の住民が集まった。診療場所の配置や診療手順などは自衛隊が決め、米豪両軍がサポートする形となった。

 「最初は他国との連携が難しいと思ったが、医療という共通の目的があるから思ったよりスムーズです」。衛生隊の菊地誠二・二曹(31)は話す。言葉の壁はあるが「地元のボランティアがとてもよく助けてくれる。日本にいいイメージを持って協力してくれます」と笑顔をみせた。

 太平洋戦争で百六十万人以上の命が奪われた国だけに、練習艦隊寄港などを除く初の自衛隊上陸への反応を気にする声もあった。だが、比国内では拒否反応は聞かれなかった。

 診療を受けたマリネス・トルバさん(46)は「時代は変わった。もっとアジアの他の国へ助けに来てほしい」と訴える。汚れた川の水を飲料水に変える浄水装置といった高度な技術、高価な装備も注目の的だった。

 自衛隊の海外活動は二〇〇七年から本来任務とされ、ソマリア沖の海賊対策などで議論が続くが、軍事行動と直接結び付きにくい災害救援は他国から期待を寄せられる分野だ。

 高橋秀雄・在フィリピン防衛駐在官は「この演習で、災害救援は日本がリーダーシップを取って協力していける重要な分野だと再認識した。自衛隊を受け入れる土壌があることも感じた。自衛隊の任務が多様化する中、災害救援の位置付けをさらに考えていく必要がある」と話す。

 ARFは、合同演習を毎年行う方向で検討を進めており、東南アジアでの自衛隊の海外活動の足掛かりとなっていきそうだ。

 

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