夢のある展示  楽しみを膨らますIT

 かのエリザベス女王も体験し、絶賛したという。
 昨年夏、イギリスのロンドン科学博物館内に設置された火星探検シミュレーター(模擬装置)。最新のデジタル技術を駆使した迫真の映像と音響による宇宙の疑似体験は、テーマパークのアトラクションのようだ。
 だが同博物館は一九〇九年にできた伝統ある施設。疑似体験を終えたときには、宇宙や自然科学に関する知識を身につけている点が、テーマパークとは一線を画する。
 「欧米の博物館は次々と楽しい展示を導入しています」。このシミュレーターを開発したシメックス社の木寺守敏・シメックスジャパン営業部長が指摘する。
 戦艦上で海の歴史ショーを繰り広げるバルセロナ海事博物館(スペイン)、恐竜の動きが3D映像で見られるサイエンス・ノース(カナダ)―。すべて最新の情報技術(IT)を盛り込んだ「楽しい展示」だ。そこに「古くさい」「刺激がない」といった、博物館につきまとうイメージはない。

 世界を検索
 博物館ファンが望む「夢の博物館」とは、全世界の博物館のすべての収蔵品が集まった「ワールドミュージアム」だろう。現実の世界では実現は不可能だが、仮想の世界では夢に向けた取り組みが進む。
 コンピューター画面に「メキシコ、衣装」と入力して検索キーをクリックする。ほどなくアステカの紋様のレリーフと、衣装が現れる。レリーフはロンドンの大英博物館のもの、衣装は大阪の国立民族学博物館の収蔵品だ。これは日本IBMが両博物館などと進めるプロジェクト「グローバル・デジタル・ミュージアム(GDM)」の一こま。見たい展示物を複数の博物館からピックアップして、鮮やかな映像で観賞するシステムで、一部実用化されている。
 「利用者が個々の博物館を訪れるのでなく、博物館が収蔵品を持ってやってくるイメージです」。同社で情報事業開発を担当する洪政国さんが説明する。仮に全博物館の収蔵品がデジタル化されれば、ネット上で「ワールドミュージアム」は実現する。情報技術を生かした、新世紀の「博物館」といえるだろう。

 至上は実物
 「研究成果のデータベース化、所蔵資料のデジタル化」を基本計画に掲げ、情報技術の活用を検討する九州国立博物館(仮称)。洪さんは「最新の情報技術を導入することで、九州国博はハブ(中心)博物館となる可能性がある」と語る。
 例えば九州国博で、アジアを往来した船の展示に興味を持てば、GDMにアクセスして世界の船の歴史や研究について学ぶ。その操作が古代船を模したシミュレーターで行えるのなら、楽しい。
 洪さんは、こうつけ加える。「ただし、仮想世界は実物の美しさには勝てない。情報技術の活用と、素晴らしい実物の展示を兼ね備えることが、九州国博をより輝かせるはずです」

西日本新聞トップページへ

九州国立博物館トップページへ