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新型インフル 感染拡大 各国憂慮、揺れるWHO

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 ◇政府への信頼が…薬品のストックが…

 新型インフルエンザの警戒度をめぐり、世界保健機関(WHO)が揺れている。WHO総会の関連会合では18日、英日中などが公然と警戒度引き上げに反対を表明。WHO側も引き上げ基準の見直しを示唆するなど、混乱は隠し切れない。引き上げ反対の背景には、世界的大流行(パンデミック)を意味する「フェーズ6」移行によるパニックを避けたい各国の政治的思惑も透けて見える。

 ◇警戒度、基準見直し示唆

 「チャン事務局長に提案したい」。新型インフルエンザに関する会合で、アラン・ジョンソン英保健相は「機械的判断で、警戒度を『6』に上げることはできない。もっと柔軟性を持つべきだ」と、引き上げに反旗を翻した。英国は感染者が100人を超えている。そうした状況が、「パンデミック直前」を意味する現在の警戒度「5」から「6」に引き上げる際の判断材料とみられている。

 その後、渡辺孝男副厚生労働相も「英国の発言を支持する」と追随。ニュージーランドや中国なども相次いで日英支持を表明した。

 新型インフルエンザ対策を担当するWHO当局者は「英国の要求は要するに警戒度を上げるなということ。公の場で発言をしたのは初めてだ」と語る。

 チャン事務局長は「『6』への引き上げに別の判断要素を加えるべきだという各国の提案を理解する」と引き上げ基準の見直しの用意も表明。譲歩の姿勢を見せた。

 英国が引き上げに反対した背景には「6」になれば「人々を混乱させ(当局への)信頼を失わせる可能性がある」(ジョンソン保健相)との憂慮がある。

 英保健省の声明によると「6」になった場合、世界中で、警戒態勢の強化や計画の発動につながる。

 さらに、製薬会社が新型インフルエンザワクチン生産に重点を置き、「一部地域で季節性インフルエンザに対する薬品のストック不足を招く」(英保健省)ことも、反対の理由だ。英国では市民の日常生活は通常と変わりない。平穏な社会に無用な混乱を招きたくないという英政府の意図もうかがえる。

   ×  ×

 日本政府も「パンデミック」というイメージが風評被害を生み、国民生活や企業活動の混乱に拍車がかかることを懸念している。現時点では、新型ウイルスは弱毒性と言われている。現在の行動計画は強毒性の鳥インフルを前提に作られており、政府は柔軟運用を強調している。それでも企業は出張規制や営業の縮小などを余儀なくされ、感染の広がりが発覚した18日は東京株式市場の株価が一時9000円を割った。

 舛添要一厚労相は19日の記者会見で、対応のポイントとして「国民の生命と健康を守るということと、社会生活、経済活動とのバランスを取るということ」と述べた。政府は、国民に冷静な対応を呼びかける意味でも引き上げに慎重になっているようだ。

 警戒度引き上げを協議するWHO緊急委員会委員で、国立感染症研究所の田代真人・インフルエンザウイルス研究センター長は19日、英国などの主張を「まっとうな考え方」と評価。「6」引き上げが「感染が広がっていない国に、かえってマイナスの影響を与えることも考えられる」と話した。【鈴木直、ジュネーブ澤田克己、ロンドン笠原敏彦】

 ◇国内では対策変わらず

 警戒度が「6」に上がっても、日本の国内対策は基本的に変わらない。関係省庁が05年12月、最初に取りまとめた新型インフルエンザ対策行動計画は、WHOの警戒度をそのまま使い、対策を分類していた。しかし、専門家から「国内状況に限定して分類した方が対策が取りやすい」との声が高まり、今年2月に国内患者数に応じて4段階に整理した計画に改められた。

 「6」になれば、感染が認定された国への対応が必要になるため、帰国者の健康観察や、到着便の機内検疫の対象が増えることになる。ただ、政府はこうした水際対策を段階的に縮小していく方針で、厚労省の担当者は「引き上げの影響はほとんどない」と話す。

 なお、WHOの定義では「世界の2地域以上での持続的な地域社会レベルでの感染拡大」があれば、「6」への引き上げ条件が整う。英国やスペインでは、人から人への感染も起こっているが、WHOは日本も含めた米州以外の感染を「地域社会レベルとまでは言えない」としている。

 また、今回のウイルスは「弱毒性」とされ、感染しても軽症の場合が多いため、「重症度を考慮すべきだ」と引き上げ基準の見直しを求める声もあるが、WHOは否定してきた。【清水健二】

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 ■視点・新型インフル

 ◇早期治療こそ公の責任--元仙台検疫所長の岩崎恵美子・仙台市副市長の話

 感染症の専門家として「水際対策に期待するのは間違い」と言わざるを得ない。ウイルスは人について動くのだから、鎖国しない限り、完全には防げないからだ。

 今回はゴールデンウイークの人が動く時期に海外から入ってきたと推測される。症状の出なかった人もいれば、従来型のインフルエンザと診断されて治療を受けた人もいるはずで、実際の患者数は現状の数倍はいるだろう。

 より本質的な問題は、症状が出た場合にいかに早期に治療するかという医療体制整備だ。仙台市は、水際では防げず、流行は起きるのだという前提で現実的な対策を練ってきた。流行発生時には患者が殺到するため、発熱外来は機能しない。だから通常のインフルエンザと同様に開業医らに治療を担当してもらう。2年をかけて医師会の理解と協力を得てきた。

 流行は防ぎきれないが、きちんと治療をすれば治るのだから過度に心配することはない。かかってしまったらすぐに治療を受け、会社や学校を休んで治すこと。「人にうつさないことは公の責任である」という意識を育てなければならない。【聞き手・高橋宗男】

毎日新聞 2009年5月20日 大阪朝刊

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