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小川浩のモバイル・インターネット最前線 Volume1
[2009-01-05 15:58:06]
スマートフォンとネットブックが世界に与える影響とは
スマートフォンは携帯電話の形をしたPC
2008年のIT業界は、豊かな拡張性と多機能を誇る携帯情報端末であるスマートフォンと、5万円を切る低価格で一気に普及し始めた低価格ノートパソコンであるネットブックが大きくシェアを伸ばし、業界全体の注目の的となった。この2つの新しいガジェット(デスクトップに置くツール)がもたらす変革について分析していこう。
iPhone 3Gは日本では苦戦している、と報道する向きが多いが、08年11月時点では全携帯電話端末の中で、実は売り上げ2位につけている。また、米国でも08年第3四半期において、最も売れたケータイはiPhone 3Gだ。iPhone 3Gは、一般消費者も好んで購入する世界で初めてのスマートフォンなのだ。
スマートフォンとは、主にスケジュール管理(PIM)やウェブ閲覧などの機能を搭載した携帯電話であり、ユーザーが利用開始後に自らの意思で、外部のソフトウェアをインストールしたりすることで機能や画面上の外観、操作感をカスタマイズすることができるものを指す。
ドコモやau(KDDI)などの日本の主要キャリア自身、従来のケータイはスマートフォンではないというスタンスをとっており、商品ラインナップの中に「スマートフォン」のカテゴリを別に設けたうえで、主に海外からのOEM(相手先ブランド製造)製品を置いている。例えばドコモはRIM(Research In Motion)のブラックベリーや、ノキア、台湾のHTC社製のスマートフォンを販売しているし、KDDIもまた同社初めてのスマートフォンとして、HTCのTouchPro(KDDIではE30HT)の取り扱いを開始すると発表した。
米国でのスマートフォンの市場規模は、08年の2Q(4│6月)で3220万台となっている。これは携帯電話全体の約11%だ。例えば昨今のPCは、1000ドル(10万円)を境としてローエンド(低価格低性能)PC市場とハイエンド(高価格高性能)PC市場に二分されている。アップルはローエンドPC市場は事実上切り捨てており、Mac miniを除くすべてのモデルをハイエンドPC市場に投入した結果、米国市場では実に66%の圧倒的なシェアを獲得している。アップルの米国内での全PC市場シェアは14%だというから、ハイエンドPC市場はざっとPC市場の約20%ほどの規模ということになる。
スマートフォンは現時点では市場全体の11%という段階だが、数年以内にモバイル機器需要のハイエンド市場として成熟してくるのは間違いない。そのスマートフォン市場の注目するべき点は、ハイエンドモバイル市場としての成熟もさることながら、実はローエンドPC市場の中の、ポータブルコンピュータのシェアを奪うというパワーシフトにある。
スマートフォンは基本的にはそもそもビジネスユースを想定して作られた分野であり、アメリカではPalmなどのPDA(携帯情報端末)に電話機能を加えることによって生まれたハイブリッドガジェットである。つまり、携帯電話の形をしたPCといえる。
この結果、欧米のケータイは通話機能とSMS(ショートメッセージ)を中心とした比較的単純な機能を装備したローエンド機種と、PC環境をできるだけ小型化したハイエンド機種であるスマートフォンに分化して成長してきた。ローエンド機種はWebブラウジングやビジネスに必要なさまざまな機能は原則として切り捨てて、単純な機能をより使いやすくしつつ、どんどん低価格化することで普及した。ハイエンド機種であるスマートフォンは、使いやすさを犠牲にしても高機能化して、法人需要にフォーカスをしてきた。この状況の中である意味真っ当な進化をして大きなシェアを得たスマートフォンがブラックベリーである。
ところが、これまで高機能の陰で犠牲にされてきた使い勝手や、操作をする楽しさや美しさの復権に着目して登場した新しいスマートフォンが市場を席巻し始めたことで世界が変わった。いうまでもなく、iPhone 3Gが巻き起こした変化である。
ユーザーの奪い合いが激化する
これに対して日本においては、スマートフォンの代わりに、ウルトラモバイルと呼ばれる、1kgを切る超軽量ノートブックが台頭してきたという違いがある。同時に日本ではケータイが、メール機能やPIM、キャリア依存の特殊なネットワーク(iモードなど)とはいえウェブ閲覧機能をサポートしているうえ、ワンセグ対応や電子マネー機能など、日本市場に特化したさまざまな独自進化を遂げてきた。これが日本のケータイ市場がガラパゴス(外の世界と断絶された環境)と称されるゆえんである。
ところがいまや日米の市場に同時に大きな変化が生まれている。
まず言えるのは、ウルトラモバイル市場にローエンド機種が登場したことだ。いわゆるネットブックと呼ばれる、10インチ以下の小さな液晶とウェブ閲覧やメール機能に特化し、余分な機能を削り落とした低価格ノートパソコンが台湾メーカーであるアスースらから発売され、話題を呼んでいるのである。アスースのEeePCは5万円以下という低価格を武器にヒットし、さらにイー・モバイルの通信データカードとのセット販売で100円から数千円で購入できるという戦略が功を奏して市場を席巻し始めている。国内メーカーも、ネットブックの売り上げがPC市場全体の2割に達する状況をみて、次々とネットブック市場への参入を検討し始めているのである。
さらに、先述の通り、iPhone3Gの成功に触発された各国の携帯端末メーカーがこぞって豊かな操作性とエンターテインメント性を備えたスマートフォンをリリースし始めている。例えばサムスン電子のOMNIAや、グーグルの無料モバイルOSであるアンドロイドを搭載したT│mobileG1などがそれだ。
ネットブックとスマートフォン、そしてそれらの影響を受けつつ変化していくであろう日本のケータイ。日本においてはこれらの3つの市場は相当分重なっている。特に、今後のスマートフォン市場の拡大は、ネットブックとのユーザーの奪い合い、特に法人ユーザーのモバイルコンピューティングのガジェットとして、どちらがより受け入れられるかにかかっているといえるだろう。
小川 浩
株式会社モディファイのCEO兼クリエイティブディレクター。東南アジアで商社マンとして活躍したのち、マレーシアのクアラルンプールでネットベンチャーを起業。マレーシア、香港、シンガポールに拠点を広げる。日本に帰国後、株式会社日立製作所、サイボウズ株式会社を経たのち、ITベンチャーのフィードパス株式会社のCOOを務める。06年12月に同社を退任、サンブリッジのEIR(客員起業家制度)を利用し、08年1月株式会社モディファイを設立。CEOに就任。現在はチームコラボレーション事業を展開。早稲田大学オープンカレッジでの講義、Web2.0Expoなど、講演多数。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Book』(インプレスジャパン)、「アップルとグーグル」(インプレスR&D)などがある。
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