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中国・北朝鮮:ピリピリ中朝国境 ミサイル発射で友好に傷、両岸住民感情にも溝

 国交樹立60周年を迎えた中国と北朝鮮の間に重苦しい空気が漂っている。中国の忠告を無視し、北朝鮮が人工衛星打ち上げ名目で長距離弾道ミサイルを発射してから既に1カ月余りが過ぎた。中朝貿易の大動脈、中国遼寧省丹東で市民の声を拾ってみると、両国民の意識のずれが、はっきりと感じ取れる。【丹東で西岡省二】

 ■鴨緑江

 国境の川、鴨緑江を隔てて北朝鮮平安北道(ピョンアンプクド)新義州(シンウィジュ)に隣接する丹東。小型ボートに乗って対岸に近づけば、新義州住民の生活ぶりに触れることができる。ボートツアーは観光客に人気で、川岸は乗客を募る船主の声で活気づいていた。

 ところが4月下旬、丹東を訪れた際には、その声はほとんど聞かれなかった。「ボートを対岸に近づかせないよう、中国側の役所が指示を出した。客が集まらないんだよ」。ボート客をあっせんする張晶さん(40)が嘆いた。「指示」は、北朝鮮が衛星打ち上げ準備を表明した2月下旬ごろ出されたそうだ。

 以前は、対岸にボートから客がカメラを向けると、北朝鮮住民は笑顔で撮影に応じていた。だが、今は遠巻きに写そうとしただけで怒鳴られる。「この付近は明らかに緊張しているよ」。張さんは13年のあっせん経験を振り返り、現状を憂えた。

 ■貿易

 中国商務省の統計によると、08年の中朝貿易額は前年比41%増の約27億ドル(約2600億円)。うち丹東経由が3分の2とされる。数字上では、つながりは密接だ。当事者の意識はどうか。地元の貿易関係者は「丹東に進出している北朝鮮企業は大部分が食糧関連で、しかも多くが北朝鮮の軍を背景にしている」と証言する。

 核問題などで情勢が緊迫すれば、北朝鮮側は直ちに態度を硬化させる。「午前に正常だったものが、午後に突然悪くなる。中朝間の往来が遮断され、代金も払われなくなる」(同関係者)。北朝鮮相手の商取引は国際情勢に敏感で、長期展望を打ち出せない。これは地元の共通認識という。

 ■丹東駅

 平壌行きの国際列車は、丹東駅で出国手続きを終えた後、中朝友誼(ゆうぎ)橋を渡って北朝鮮側に入る。

 平壌行き列車が出発を待つ間、丹東駅のホームには現地在住の北朝鮮住民が集まっている様子が確認されていた。入場券だけ買ってホームに入り、列車乗務員らに荷物や郵便物を預けて平壌まで届けてもらうためだ。

 だが、年明けごろから、駅側がこれを許可しなくなったという。昨年の北京五輪を契機に、中国当局はテロ防止の観点から全国的に安全検査を実施。丹東駅でも検査体制を強化し、乗客以外のホームへの立ち入りを厳しく制限したためだ。

 しかし、北朝鮮住民の見方は違う。丹東在住の北朝鮮貿易関係者は「中国が嫌がらせをしている」と、中国側の措置に感情をむき出しにして反論した。

 ■新大橋

 中朝友誼橋は鉄道・車道併用。だが、鉄道は単線、車道は幅3メートルの片側通行となっており、橋の上ですれ違いはできない。中国側は01年、橋の新設を提案。既に設計を完了し、北朝鮮側の最終決裁を待っている状態だ。

 中国側では既に、新たな橋の建設予定地である丹東市浪頭地区で新都市開発が始まり、土地の売買が活発化している。開発への期待感から、時々、韓国メディアを中心に「北朝鮮が新義州付近に新たな特区を設置する」といったニュースも打ち上げられる。だが、内実は「確定した話は一切ない」(姜勲烈(カンフンヨル)丹東韓国人会会長)という。

 北朝鮮がいつ「新・中朝友誼橋」設置に向けて動き出すのか、めどは一向に立たない。

 ◇「忠告」無視され中国硬化

 ミサイル発射は中朝間の友好関係に深い傷跡を残した。特に中国側は態度を硬化させ、国内では北朝鮮との関係見直しを求める声も出ている。

 6カ国協議で議長を務める武大偉中国外務次官が今年2月中旬、秘密裏に訪朝した。北朝鮮側にミサイル発射の自制を促すためだった。しかし、武次官の勧告に北朝鮮側は「敢行する」と答えた。それでも中国は一部の関係国に対し、武次官訪朝を「国交60周年記念行事の話し合いのため」と説明し、調整が不調に終わったことを伏せた。

 中国はなぜ北朝鮮に配慮するのか。「朝鮮半島の現状維持こそ、中国の国益だからだ。北朝鮮を刺激しても何の利益にもならない」(中国外務省関係者)というのが一貫した立場だ。

 だが、北朝鮮が発射を断行したことで中国側の空気は変わった。

 中国は、発射を強く非難する国連安全保障理事会の議長声明(4月13日)を受け入れた。「よくぞ中国は譲歩してくれた」(日本政府高官)と言われるほど、中国としては予想外の厳しい態度に転じた。中国共産党機関紙・人民日報傘下の国際情報紙「環球時報」は同日の社説で「北朝鮮が周囲の忠告を聞かず、核問題の安全限界ラインに繰り返し足を踏み入れるなら、大きな代価を払うことになる」と警告した。

 今年は国交樹立60周年の節目の年だ。しかし、記念行事にもひずみが表れている。北京の外交関係者によると、ある記念映画の製作担当者が試作品を中国当局に提出したところ、映画で強調されていた「中朝は血盟関係」「血でつながった兄弟」の表現を変更するよう求められた。

 「中国の上層部はもはや問題の多い国と特別に親しくしているという印象を外部に与えたくないと考えている」。外交関係者はこう分析している。

毎日新聞 2009年5月14日 東京朝刊

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