【発明の名称】 |
リニア空燃比センサの劣化検出装置 |
【発明者】 |
【氏名】寺田 浩市 【住所又は居所】広島県安芸郡府中町新地3番1号 マツダ株式会社内
【氏名】宮腰 穂 【住所又は居所】広島県安芸郡府中町新地3番1号 マツダ株式会社内
【氏名】宮本 浩二 【住所又は居所】広島県安芸郡府中町新地3番1号 マツダ株式会社内
【氏名】竹林 広行 【住所又は居所】広島県安芸郡府中町新地3番1号 マツダ株式会社内
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【要約】 |
【課題】劣化検出時に空燃比に外乱を与えて、劣化検出精度の向上を図ることができるリニア空燃比センサの劣化検出装置を提供する。
【解決手段】A/Fを強制的に変更するA/F変更手段S2と、A/F変更後におけるリニアA/Fセンサの出力値を微分する微分手段S4と、微分手段S4により得られた出力のピーク値を検出するピーク値検出手段S15と、ピーク値を基準にしきい値を設定するしきい値設定手段S8と、A/F変更手段S2によるA/F変更後にリニアA/Fセンサの出力の微分値が上記しきい値を超えるまでの時間(むだ時間)を計測するむだ時間計測手段S11と、むだ時間に基づいてA/Fセンサのむだ時間遅れ劣化を判定する劣化判定手段S18とを備えたことを特徴とする。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 エンジンの排気系に設けられ排気ガス中の酸素濃度に比例する値を出力するリニア空燃比センサと、 上記リニア空燃比センサの検出値に基づいてエンジンに供給される混合気の空燃比を目標空燃比にフィードバックする空燃比制御手段とを備えたものであって、 空燃比を強制的に変更する空燃比変更手段と、 空燃比変更後におけるリニア空燃比センサの出力値を微分する微分手段と、 上記微分手段により得られた出力のピーク値を検出するピーク値検出手段と、 上記ピーク値を基準にしきい値を設定するしきい値設定手段と、 空燃比変更手段による空燃比変更後にリニア空燃比センサの出力の微分値が上記しきい値を超えるまでの時間を計測するむだ時間計測手段と、 上記むだ時間計測手段により計測されたむだ時間に基づいてリニア空燃比センサのむだ時間遅れ劣化を判定する劣化判定手段とを備えた リニア空燃比センサの劣化検出装置。 【請求項2】 上記劣化判定手段は複数回劣化判定を行ない、 上記しきい値設定手段は前回のピーク値を基準にしきい値を設定する 請求項1記載のリニア空燃比センサの劣化検出装置。 【請求項3】 上記ピーク値検出手段により検出された前回のピーク値がそれ以前に検出されたピーク値と大きくかけ離れた時、前回のピーク値に基づくしきい値の設定を制限する 請求項2記載のリニア空燃比センサの劣化検出装置。 【請求項4】 上記空燃比変更手段は空燃比の変更をリッチからリーンと、リーンからリッチとに切換えるように構成され、 上記劣化判定手段はむだ時間計測手段により得られたむだ時間に基づいてリニア空燃比センサの片側むだ時間劣化を検出するように構成された 請求項1〜3の何れか1に記載のリニア空燃比センサの劣化検出装置。
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【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】 この発明は、エンジンの排気系に設けられ排気ガス中の酸素濃度に比例する値を出力するところのリニア空燃比センサの劣化を検出するリニア空燃比センサの劣化検出装置に関する。 【背景技術】 【0002】 従来、エンジンの排気系に、排気ガス中の酸素濃度に比例する値を出力するリニア空燃比センサを設け、このリニア空燃比センサで検出した実際の空燃比(実空燃比)が目標空燃比(例えば、A/F=14.7またはリーンバーンエンジンの場合にはリーン側の所定値)になるように、両空燃比の差を把握して、燃料噴射量を制御して、目標空燃比が得られるようにフィードバック制御する空燃比フィードバック制御が知られている。 【0003】 ところで、上述のリニア空燃比センサが経年変化、経時劣化すると、該リニア空燃比センサの応答性が悪化するので、空燃比制御がずれて、エンジンの排気系に介設した触媒コンバータによる排気浄化性能が悪化する。このため上述のリニア空燃比センサの劣化を検出する必要がある。 【0004】 リニア空燃比センサの劣化を検出する装置としては例えば特許文献1に記載の装置がある。 すなわち、エンジンの排気系に設けられたリニア空燃比センサの応答周期の全体を検出するものであって、応答劣化を拡大して検出するために、リニア空燃比センサの出力に対して2つのしきい値を設け、このしきい値を用いてリニア空燃比センサの出力を「H」記号(Hはhighの略)と「L」記号(Lはlowの略)とに変換して、センサ出力の変動を拡大し、センサ劣化度合いが大きい程、応答周期が長くなることに基づいて、リニア空燃比センサの応答劣化を検出するものである。 【0005】 この従来装置においては、リニア空燃比センサの劣化を検出することができる利点がある反面、むだ時間と一次遅れ時間とに分けて検出していない関係上、劣化要因を検知することができない問題点があった。 【特許文献1】特許第3377336号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 そこで、この発明は、劣化検出時に空燃比に外乱を与え、空燃比の強制変更後においてリニア空燃比センサの出力値を微分し、この微分値のピーク値に基づいてしきい値を設定し、空燃比の強制変更後にリニア空燃比センサ出力の微分値が上記しきい値を超えるまでの時間(むだ時間)を計測することにより、リニア空燃比センサのむだ時間遅れ劣化を検出し、これにより、劣化検出精度の向上を図ることができるリニア空燃比センサの劣化検出装置の提供を目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 この発明によるリニア空燃比センサの劣化検出装置は、エンジンの排気系に設けられ排気ガス中の酸素濃度に比例する値を出力するリニア空燃比センサと、上記リニア空燃比センサの検出値に基づいてエンジンに供給される混合気の空燃比を目標空燃比にフィードバックする空燃比制御手段とを備えたものであって、空燃比を強制的に変更する空燃比変更手段と、空燃比変更後におけるリニア空燃比センサの出力値を微分する微分手段と、上記微分手段により得られた出力のピーク値を検出するピーク値検出手段と、上記ピーク値を基準にしきい値を設定するしきい値設定手段と、空燃比変更手段による空燃比変更後にリニア空燃比センサの出力の微分値が上記しきい値を超えるまでの時間を計測するむだ時間計測手段と、上記むだ時間計測手段により計測されたむだ時間に基づいてリニア空燃比センサのむだ時間遅れ劣化を判定する劣化判定手段とを備えたものである。 【0008】 上述のリニア空燃比センサの出力の微分値が上記しきい値を越えるまでの時間は、むだ時間に相当する。 上記構成によれば、空燃比変更手段は、リニア空燃比センサの劣化判定に際して、エンジンに供給される空燃比を強制的に変更し、微分手段は、空燃比変更後(つまり空燃比に外乱を与えた後)におけるリニア空燃比センサの出力値を微分し、ピーク値検出手段は、上記微分手段により得られた出力(微分値)のピーク値を検出し、しきい値設定手段は、上記ピーク値を基準にしきい値を設定し、むだ時間計測手段は、空燃比変更手段による空燃比変更後にリニア空燃比センサの出力の微分値が上記しきい値を超えるまでの時間(むだ時間)を計測し、劣化判定手段は、上記むだ時間計測手段により計測されたむだ時間に基づいてリニア空燃比センサのむだ時間遅れ劣化を判定する。 【0009】 ここで、リニア空燃比センサの劣化度合が大きい程、むだ時間は長くなる。 このように、比較的安定した値を示す微分値のピーク値に基づいて、リニア空燃比センサのむだ時間遅れ劣化が検出されるので、劣化検出精度の向上を図ることができる。 【0010】 詳しくは、緩加速時や定常時の空燃比のうねり(比較的周期が大きい空燃比変動)のように、空燃比それ自体は変化しているが、その変化率が小さいような条件下では微分値はほとんど変化しない、 このため、微分値のピーク値を求め、求められたピーク値からしきい値を設定して劣化判定を実行することにより、空燃比変化の影響を排除して、劣化検出精度の向上を図ることができる。 【0011】 この発明の一実施態様においては、上記劣化判定手段は複数回劣化判定を行ない、上記しきい値設定手段は前回のピーク値を基準にしきい値を設定するものである。 上記構成によれば、直近の運転条件で計測したピーク値(前回のピーク値)を基準として、しきい値を設定するので、負荷変動などにより変化するリニア空燃比センサ出力の応答性に対応して、最適なしきい値を設定することができる。 この結果、検出精度のさらなる向上を図ることができる。 【0012】 この点について更に詳述すると、リニア空燃比センサの出力は該センサの劣化でも変化する一方で、排気ガスの流量によっても出力波形の傾きが変化する。 つまり、高負荷で排気ガス流量が多い場合には同じリニア空燃比センサであっても、該センサを構成する素子の中のガス交換が急速に行われて、反応が速くなるため、センサ出力は急変し、逆に低負荷で排気ガス流量が少ない場合には同じリニア空燃比センサであっても、該センサを構成する素子の中のガス交換が遅いので、反応がにぶくなり、センサ出力は緩変する。すなわち、運転条件によってリニア空燃比センサの出力が変化するので、最適なしきい値も変化することになる。 【0013】 したがって、直近の運転条件で計測したピーク値(前回のピーク値)を基準として、しきい値を設定することにより、負荷変動などにより変化するリニア空燃比センサ出力の応答性に対応して、最適なしきい値を設定することができる。 【0014】 要するに、運転条件などにより変化するリニア空燃比センサの応答特性に応じて、しきい値を可変と成すことができるので、常に最適なしきい値の設定ができ、劣化検出精度をより一層向上させることができる。 【0015】 この発明の一実施態様においては、上記ピーク値検出手段により検出された前回のピーク値がそれ以前に検出されたピーク値と大きくかけ離れた時、前回のピーク値に基づくしきい値の設定を制限するものである。 上記構成によれば、リニア空燃比センサのむだ時間遅れ劣化の検出精度を維持することができる。 【0016】 つまり、緩加速のような場合には、リニア空燃比センサの劣化診断が実行されるが、この診断実行条件内で運転状態の変化等が起こると(例えば、診断実行条件内でのアクセルの踏込み等による空燃比外乱が入ったような場合)、ピーク値が一時的に1つだけ大きくなるので、このようなピーク値を用いることを防止して、リニア空燃比センサの劣化検出精度を維持することができる。 【0017】 この発明の一実施態様においては、上記空燃比変更手段は空燃比の変更をリッチからリーンと、リーンからリッチとに切換えるように構成され、上記劣化判定手段はむだ時間計測手段により得られたむだ時間に基づいてリニア空燃比センサの片側むだ時間劣化を検出するように構成されたものである。 上述の片側とは、リッチ側またはリーン側を意味する。 上記構成によれば、リニア空燃比センサの片側むだ時間劣化を検出することができる。 【発明の効果】 【0018】 この発明によれば、劣化検出時に空燃比に外乱を与え、空燃比の強制変更後においてリニア空燃比センサの出力値を微分し、この微分値のピーク値に基づいてしきい値を設定し、空燃比の強制変更後にリニア空燃比センサ出力の微分値が上記しきい値を超えるまでの時間(むだ時間)を計測することにより、リニア空燃比センサのむだ時間遅れ劣化を検出するので、劣化検出精度の向上を図ることができる効果がある。 【発明を実施するための最良の形態】 【0019】 空燃比のうねりのような空燃比変化の影響を受けることなく、リニア空燃比センサのむだ時間遅れ劣化を検出して、その劣化検出精度の向上を図るという目的を、空燃比を強制的に変更する手段と、空燃比変更後のリニア空燃比センサの出力値を微分する手段と、微分値のピーク値を検出する手段と、ピーク値を基準にしきい値を設定する手段と、空燃比変更後にリニア空燃比センサの出力の微分値がしきい値を超えるまでの時間(むだ時間)を計測する手段と、計測されたむだ時間に基づいてリニア空燃比センサのむだ時間遅れ劣化を判定する手段とを備えるという構成にて実現した。 【実施例】 【0020】 この発明の、一実施例を以下図面に基づいて詳述する。 図面はリニア空燃比センサの劣化検出装置を示すが、まず図1を参照してエンジンの吸排気系について説明する。 【0021】 図1はリニア空燃比センサを有するエンジンの系統図であって、吸入空気を浄化するエアクリーナ1のエレメント2後位にエアフローセンサ3を接続して、このエアフローセンサ3で吸入空気量Qaを検出すべく構成している。 【0022】 上述のエアフローセンサ3の後位にはスロットルボディ4を接続し、このスロットルボディ4内のスロットルチャンバ5には、吸入空気量を制御するスロットル弁6を配設している。そして、このスロットル弁6の下流の吸気通路には、所定容量を有する拡大室としてのサージタンク7を接続し、このサージタンク7下流に吸気ポート8と連通する吸気マニホルド9を接続すると共に、この吸気マニホルド9にはインジェクタ10(燃料噴射弁)を配設している。 【0023】 一方、エンジン11の燃焼室12と適宜連通する上述の吸気ポート8および排気ポート13には、動弁機構(図示せず)により開閉操作される吸気弁14と排気弁15とをそれぞれ取付け、またシリンダヘッド16にはスパークギャップを上述の燃焼室12に臨ませた点火プラグ(図示せず)を取付けている。 【0024】 上述の排気ポート13と連通する排気通路17には、排気ガス中の酸素濃度に比例する値を出力するリニア空燃比センサ18(以下、単にリニアO2センサと略記する)を配設すると共に、この排気通路17の後位には排気ガスを浄化する触媒コンバータ19いわゆるキャタリストを接続している。 【0025】 上述の触媒コンバータ19としては、例えば、HC,CO,NOXの3成分を同時に浄化し得る三元触媒(いわゆるTWC)を用いることができる。 また、前述のスロットルボディ4にはスロットル開度TVOを検出するスロットルセンサ20を取付けている。 【0026】 図2はリニアO2センサ18の劣化検出装置を示す制御回路ブロック図であって、制御手段としてのCPU30は、エアフローセンサ3からの吸入空気量Qaと、スロットルセンサ20からのスロットル開度TVOと、エンジン回転数を検出する回転センサ21からのエンジン回転数Neと、リニアO2センサ18からの酸素濃度に比例する値などの必要な各種入力に基づいて、ROM22に格納されたプログラムに従って、燃料噴射手段としてのインジェクタ10を駆動し、また記憶手段としてのRAM23は演算されたピーク値および求められたしきい値やサンプル数の所定値に相当するデータ、並びに、むだ時間判定用の所定値に相当するデータなどを記憶する。 【0027】 ここで、上述のCPU30は、リニアO2センサ18の検出値に基づいてエンジン11に供給される混合気の空燃比を目標空燃比にフィードバックする空燃比フィードバック制御手段(CPU30それ自体参照)と、リニアO2センサ18の劣化検出時にのみ、エンジン11に供給される空燃比を強制的に変更させる手段つまり図5に示す燃料噴射料aを加減算することで空燃比にリッチ側またはリーン側の外乱を与える空燃比強制変更手段(図3に示すフローチャートのステップS2参照)と、空燃比強制変更後におけるリニアO2センサ18の出力値b(図5参照)を微分して、微分値c(図5参照)を求める微分手段(図3に示すフローチャートのステップS4参照)と、上述の微分手段(ステップS4参照)により得られた出力(微分値c)のピーク値を検出するピーク値検出手段(図3に示すフローチャートのステップS15参照)と、上述のピーク値を基準に次回、むだ時間Xの劣化判定に用いるしきい値thを設定するしきい値設定手段(図3に示すフローチャートのステップS8参照)と、空燃比強制変更手段(ステップS2参照)による空燃比強制変更後に、リニアO2センサ18の出力bの微分値cが上記しきい値thを超えるまでの時間(むだ時間X)を計測するむだ時間計測手段(図3に示すフローチャートのステップS11参照)と、このむだ時間計測手段(ステップS11参照)により計測されたむだ時間Xに基づいてリニアO2センサ18のむだ時間遅れ劣化を判定する劣化判定手段(図3に示すフローチャートのステップS18参照)と、を兼ねるものである。 【0028】 また、上述のしきい値設定手段(ステップS8参照)は前回のピーク値(直近の運転条件で計測したピーク値)を基準にして、しきい値thを設定するように構成している。 【0029】 さらにCPU30は、上述のピーク値検出手段(ステップS15参照)により検出された前回のピーク値がそれ以前に検出されたピーク値と大きくかけ離れた時(ステップS16のYES判定手段)、前回のピーク値に基づくしきい値thの設定を制限する制限手段(図3に示すフローチャートのステップS17参照)をも兼ねるものである。 【0030】 加えて、上述の空燃比強制変更手段(ステップS2参照)はインジェクタ10からの噴射される燃焼噴射量の変更により、エンジン11に供給される混合気の空燃比をリッチからリーンに変更(図5の減算参照)する態様と、リーンからリッチに変更(図5の加算参照)する態様とに切換えるように構成されている。 【0031】 さらに、上述の劣化判定手段(ステップS18参照)は複数回の劣化判定(詳しくはむだ時間Xを複数サンプリングして劣化判定)を行なうと共に、むだ時間計測手段(ステップS11参照)により得られたむだ時間Xに基づいてリニアO2センサ18の片側つまりリッチ側またはリーン側のむだ時間劣化を検出するように構成されている(上記ステップS18のサブルーチンを示す図4参照)。 【0032】 このように構成したリニアO2センサ18の劣化検出装置の作用を、図3に示すメインルーチンおよび図4に示すサブルーチンを参照して以下に詳述する。 【0033】 図3に示すフローチャートのステップS1で、CPU30はリニアO2センサ18の劣化を検出する診断実行条件が成立したか否かを判定する。すなわち、スロットルセンサ20で検出するスロットル開度TVOの変化量が所定変化量以下で、かつ回転センサ21で検出するエンジン回転数Neの変化量が所定変化量以下で、さらにCE=Qa/Neで求められる充填効率CEの変化量が所定変化量以下の所謂定常時を含むほぼ定常時(YES判定時)にのみ次のステップS2に移行し、加減速時などの非定常時(NO判定時)にはリターンする。 【0034】 また、診断の検出頻度の低下を防止するために、上述の診断実行条件にはある程度の許容幅をもたせており、例えば、緩加速時においては診断実行条件が成立するように構成されている。 【0035】 次にステップS2で、CPU30は空燃比強制変更開始時点t0(図5のタイムチャート参照)において、インジェクタ10による燃料噴射量に外乱を加減算する。 この場合、図5に示すように前回の外乱がリッチであるならば今回は燃料噴射量aにリーン外乱を加算(燃料噴射量を減算)する一方、前回の外乱がリーンであるならば今回は燃料噴射量aにリッチ外乱を加算(燃料噴射量を加算)する。 【0036】 次にステップS3で、CPU30は排気ガス中の酸素濃度に比例する値を出力するところのリニアO2センサ18の出力bの読込みを実行する。リニアO2センサ18が正常または略正常な場合にはその出力bは図5の実線のようになり、リニアO2センサ18の劣化度合が大きくなる程、その出力bは図5に仮想線で示す方向にずれることになる。 【0037】 次にステップS4で、CPU30はリニアO2センサ18の出力bを微分した値つまり微分値c(図5参照)を演算により求める。 【0038】 次にステップS5で、CPU30は前回設定されたしきい値(前回しきい値)がRAM23の所定エリア内にデータとして記憶されているか否かを判定するが、診断実行条件が成立した初回においては前回しきい値はRAM23の所定エリアに記憶されていないので、NO判定されて次のステップS6に移行する一方、フローチャートの繰返しにより前回しきい値がRAM23の所定エリアに記憶されている場合には、YES判定されて別のステップS10に移行する。 【0039】 上述のステップS6で、CPU30は初回に対応して空燃比強制変更開始時点t0から適切な所定時間T(図5参照)が経過した後に外乱(この場合は燃料噴射量の減算)をリセットする。 【0040】 つまり、初回においては、しきい値が設定されておらず、診断ができないため適切な時間Tの経過後に外乱を止める。 【0041】 次にステップS7で、CPU30はリニアO2センサ18出力の微分値cのピーク値P1を演算により求める。つまり、しきい値が存在していなくてもピーク値P1は求めることができるので、しきい値を設定する前段階の処理として、まず、ピーク値P1を求める。 【0042】 次にステップS8に移行し、このステップS8で、CPU30はステップS7で求めたピーク値P1にゲインを乗じてしきい値th(図5参照)を設定(例えばピーク値P1×0.5に設定)し、設定したしきい値thをRAM23の所定エリアに読出し可能に記憶する。 【0043】 次にステップS9で、CPU30はリッチ外乱を与えた場合のむだ時間Xのサンプル数、並びにリーン外乱を与えた場合のむだ時間Xのサンプル数が所定値(例えば5〜10回)よりも大か否かを判定するが、この場合にはむだ時間Xが1回もサンプリングされていないので、NO判定されて、ステップS1にリターンする。 【0044】 フローチャートの繰返しにより上述の各ステップS1,S2,S3,S4での処理を経てステップS5に至ると、このステップS5で、CPU30は前回設定されたしきい値(前回しきい値)thがRAM23の所定エリア内にデータとして記憶されているか否かを判定するが、初回以降にあってはフローチャートの繰返しにより前回しきい値thがRAM23の所定エリアに記憶されているので、このステップS5がYES判定されて、次のステップS10に移行する。 【0045】 このステップS10で、CPU30は微分値cとRAM23から読出した前回しきい値thとの大小関係を比較し、微分値≧しきい値の時、つまり図5において時点t2にて微分値cがしきい値thに達した時または微分値cがしきい値thを超えた時にはYES判定されて、次のステップS11に移行する一方、微分値cがしきい値th未満の時にはNO判定されて別のステップS12に移行する。 【0046】 このステップS12で、CPU30は外乱を与えた時点t1からの経過時間が所定値(所定時間)を超えたか否かを判定し、時点t2に至っていない場合(NO判定時)にはステップS10にリターンする一方、外乱を与えた時点t1からの経過時間が所定値を超え、かつしきい値thが高くて所定時間内に微分値cがしきい値thに到達しない場合には次のステップS13に移行して、このステップS13で、CPU30はインジェクタ10による燃料噴射量aの外乱(図5の実施例では燃料噴射量の減算)をリセットする。 【0047】 上述のステップS11では、微分値≧しきい値に対応して、CPU30は空燃比強制変更開始時点t1からリニアO2センサ18の出力bの微分値cがしきい値thを超えるまでの時間、つまり、図5に示す時点t1,t2間の時間としてのむだ時間Xを計測する。 【0048】 次にステップS14で、CPU30は燃料噴射量aの外乱をリセットする。次にステップS15で、CPU30はリニアO2センサ18の出力bを微分した微分値cのピーク値P2を演算する。 【0049】 次にステップS16で、CPU30は上述のピーク値P2と前述のピーク値P1との偏差が所定値よりも大か否かを判定する。すなわちピーク値P2がそれ以前に検出されたピーク値P1と大きくかけ離れているか否かを判定し、偏差>所定値の時(YES判定時)にはステップS17に移行する一方、偏差<所定値の時(NO判定時)にはステップS8に移行する。 【0050】 上述のステップS17で、CPU30は偏差>所定時に対応して、前回のピーク値に基づくしきい値の設定を制限する目的で、しきい値thとして前前回のしきい値を設定し、ステップS8では、CPU30は偏差<所定値に対応して、しきい値thとして前回のしきい値を設定する。なお、これらの設定されたしきい値thはRAM23の所定エリアに読出し可能に記憶されて、次回のむだ時間劣化検出に用いられる。 【0051】 次にステップS9で、CPU30はリッチ外乱(燃料噴射量の加算参照)を与えた場合のむだ時間Xのサンプル数、並びにリーン外乱(燃料噴射量の減算参照)を与えた場合のむだ時間Xのサンプル数が所定値(例えば5〜10回)よりも大か否かを判定し、NO判定時にはステップS1にリターンしてフローチャートの繰返しにより以上の処理を再実行する一方、YES判定時にはステップS18で劣化判定を実行する。 【0052】 図5に示すタイムチャートにおいてはリーン外乱(燃料噴射量の減算参照)を与えた場合の微分値cのプラス側のピーク値P1,P2およびプラス側のしきい値thをそれぞれ示したが、リッチ外乱(燃料噴射量の加算参照)を与えた場合には、微分値cのマイナス側のピーク値およびマイナス側のしきい値を用いて、むだ時間Xを上述同様に計測することができる。 【0053】 上述のステップS18(劣化判定手段)の詳細は図4にサブルーチンで示すので、次に図4に示すサブルーチンを参照して、劣化判定処理について説明する。 ステップU1で、CPU30は所定サンプル数に達した複数のリッチ側のむだ時間Xの平均値(平均むだ時間)を演算すると共に、所定サンプル数に達した複数のリーン側のむだ時間Xの平均値(平均むだ時間)を演算する。 【0054】 次にステップU2で、CPU30はリッチ側むだ時間(詳しくはリッチ側の平均むだ時間)からリーン側むだ時間(詳しくはリーン側の平均むだ時間)を減算した値の絶対値が所定値より大か否かを判定し、NO判定時にはステップU3に移行し、YES判定時には別のステップU4に移行する。 【0055】 このステップU4で、CPU30はリッチ側むだ時間が所定値より大か否かを判定し、YES判定時にはステップU5に移行する一方、NO判定時には別のステップU6に移行する。 【0056】 上述のステップU5で、CPU30はリッチ側むだ時間>所定値に対応して、リッチ側むだ時間が劣化であると判定する。 一方、ステップU6で、CPU30はリーン側むだ時間が所定値より大か否かを判定し、YES判定時にはステップU7に移行する一方、NO判定時には別のステップU8に移行する。 【0057】 上述のステップU7で、CPU30はリーンむだ時間>所定値に対応してリーン側むだ時間が劣化であると判定する。 また、上述のステップU8では、CPU30はリッチ側むだ時間およびリーン側むだ時間の何れもが正常であると判定する。 【0058】 一方、上述のステップU3で、CPU30はリッチ側むだ時間(詳しくはリッチ側の平均むだ時間)とリーン側むだ時間(詳しくはリーン側の平均むだ時間)とを加算した値が所定値より大か否かを判定し、NO判定時にはステップU8に移行する一方、YES判定時には別のステップU9に移行する。 【0059】 上述のステップU8で、CPU30はリッチ側むだ時間およびリーン側むだ時間の何れもが正常であると判定し、上述のステップU9では、CPU30はリッチ側むだ時間およびリーン側むだ時間の何れもが劣化であると判定する。 【0060】 なお、図3で示したメインルーチンに代えて、図6に示すメインルーチンを採用してもよい。この図6の示すメインルーチンは、ステップS7で微分値cのピーク値P1を演算した後に、ステップS8に移行し、このステップS8で、初回に対応して上述のピーク値P1にゲインを乗じて、しきい値thを求めるものである。 【0061】 またステップS8では、偏差<所定値に対応してピーク値P1にゲインを乗じてしきい値thに設定し、ステップS17では、偏差>所定値に対応して前前回しきい値をしきい値thに設定するものである。 【0062】 図6で示す、フローチャートにおいても、その他のステップでの処理内容は図3と同一であるから、図6において図3と同一のステップには同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。 【0063】 このように上記実施例のリニアO2センサ18の劣化検出装置は、エンジン11の排気系に設けられ排気ガス中の酸素濃度に比例する値を出力するリニアO2センサ18と、上記リニアO2センサ18の検出値に基づいてエンジン11に供給される混合気の空燃比を目標空燃比にフィードバックする空燃比フィードバック制御手段(CPU30参照)とを備えたものであって、空燃比を強制的に変更する空燃比強制変更手段(ステップS2参照)と、空燃比強制変更後におけるリニアO2センサ18の出力値bを微分する微分手段(ステップS4参照)と、上記微分手段(ステップS4参照)により得られた出力(微分値c参照)のピーク値P1,P2を検出するピーク値検出手段(ステップS15参照)と、上記ピーク値P1,P2を基準にしきい値thを設定するしきい値設定手段(ステップS8参照)と、空燃比強制変更手段(ステップS2参照)による空燃比強制変更後にリニアO2センサ18の出力bの微分値cが上記しきい値thを超えるまでの時間(むだ時間X)を計測するむだ時間計測手段(ステップS11参照)と、上記むだ時間計測手段(ステップS11参照)により計測されたむだ時間Xに基づいてリニアO2センサ18のむだ時間遅れ劣化を判定する劣化判定手段(ステップS18または図4のサブルーチン参照)とを備えたものである。 【0064】 ここに、リニアO2センサ18の出力bの微分値cが上記しきい値thを超えるまでの時間は、むだ時間Xに相当する。 この構成によれば、空燃比強制変更手段(ステップS2参照)は、リニアO2センサ18の劣化判定に際して、エンジン11に供給される空燃比を強制的に変更し、微分手段(ステップS4参照)は、空燃比強制変更後(つまり空燃比に外乱を与えた後)におけるリニアO2センサ18の出力値bを微分し、ピーク値検出手段(ステップS15参照)は、上記微分手段(ステップS4参照)により得られた出力(微分値c)のピーク値P1,P2を検出し、しきい値設定手段(ステップS8参照)は、上記ピーク値P1を基準にしきい値thを設定し、むだ時間計測手段(ステップS11参照)は、空燃比強制変更手段(ステップS2参照)による空燃比強制変更後にリニアO2センサ18の出力bの微分値cが上記しきい値thを超えるまでの時間(むだ時間X)を計測し、劣化判定手段(ステップS18参照)は、上記むだ時間計測手段(ステップS11参照)により計測されたむだ時間Xに基づいてリリニアO2センサ18のむだ時間遅れ劣化を判定する。 ここで、リニアO2センサ18の劣化度合が大きい程、むだ時間Xは長くなる。 【0065】 このように、比較的安定した値を示す微分値cのピーク値P1,P2に基づいて、リニアO2センサ18のむだ時間遅れ劣化が検出されるので、劣化検出精度の向上を図ることができる。 【0066】 詳しくは、緩加速時や定常時の空燃比のうねり(比較的周期が大きい空燃比変動)のように、空燃比それ自体は変化しているが、その変化率が小さいような条件下では微分値cはほとんど変化しない、 このため、微分値cのピーク値P1,P2を求め、求められたピーク値P1,P2からしきい値thを設定して劣化判定を実行することにより、空燃比変化の影響を排除して、劣化検出精度の向上を図ることができる。 【0067】 また、上記劣化判定手段(ステップS18参照)は複数回(ステップS9のサンプル数参照)劣化判定を行ない、上記しきい値判定手段(ステップS8参照)は前回のピーク値を基準にしきい値thを設定するものである。 この構成によれば、直近の運転条件で計測したピーク値(前回のピーク値)を基準として、しきい値thを設定するので、負荷変動などにより変化するリニアO2センサ18の出力bの応答性に対応して、最適なしきい値thを設定することができる。 この結果、劣化検出精度のさらなる向上を図ることができる。 【0068】 この点について更に詳述すると、リニアO2センサ18の出力bは該センサ18の劣化でも変化する一方で、排気ガスの流量によっても出力波形の傾きが変化する。 つまり、高負荷で排気ガス流量が多い場合には同じリニアO2センサ18であっても、該センサ18を構成する素子の中のガス交換が急速に行われて、反応が早くなるため、センサ出力bは急変し、逆に低負荷で排気ガス流量が少ない場合には同じリニアO2センサ18であっても、該センサ18を構成する素子の中のガス交換が遅いので、反応がにぶくなり、センサ出力bは緩変する。 すなわち、運転条件によってリニアO2センサ18の出力bが変化するので、最適なしきい値も変化することになる。 【0069】 したがって、直近の運転条件で計測したピーク値(前回のピーク値)を基準として、しきい値thを設定することにより、負荷変動などにより変化するリニアO2センサ18の出力bの応答性に対応して、最適なしきい値thを設定することができる。 【0070】 要するに、運転条件などにより変化するリニアO2センサ18の応答特性に応じて、しきい値thを可変と成すことができるので、常に最適なしきい値thの設定ができ、むだ時間遅れ劣化の検出精度をより一層向上させることができる。 【0071】 さらに、上記ピーク値検出手段(ステップS15参照)により検出された前回のピーク値がそれ以前に検出されたピーク値と大きくかけ離れた時、前回のピーク値に基づくしきい値の設定を制限するものである。 この構成によれば、リニアO2センサ18のむだ時間遅れ劣化の検出精度を維持することができる。 【0072】 つまり、緩加速のような場合には、リニアO2センサ18の劣化診断が実行されるが、この診断実行条件内で運転状態の変化等が起こると(例えば、診断実行条件内でのアクセルの踏込み等による空燃比外乱が入ったような場合)、ピーク値が一時的に1つだけ大きくなるので、このようなピーク値を用いることを防止して、リニアO2センサ18の劣化検出精度を維持することができる。 【0073】 加えて、上記空燃比強制変更手段(ステップS2参照)は空燃比の変更をリッチからリーンと、リーンからリッチとに切換えるように構成され、上記劣化判定手段(ステップS18参照)はむだ時間計測手段(ステップS11参照)により得られたむだ時間Xに基づいてリニアO2センサ18の片側むだ時間劣化を検出するように構成されたものである(図4のサブルーチン参照)。 上述の片側とは、リッチ側またはリーン側を意味する。 この構成によれば、リニアO2センサ18の片側むだ時間劣化を適切に検出することができる。 【0074】 この発明の構成と、上述の実施例との対応において、 この発明のリニア空燃比センサは、実施例のリニアO2センサ18に対応し、 以下同様に、 空燃比制御手段は、空燃比フィードバック制御手段(CPU30それ自体参照)に対応し、 空燃比変更手段は、空燃比強制変更手段(ステップS2参照)に対応し、 微分手段は、ステップS4に対応し、 ピーク値検出手段は、ステップS15に対応し、 しきい値設定手段は、ステップS8,S19に対応し、 むだ時間計測手段は、ステップS11に対応し、 劣化判定手段は、ステップS18に対応するも、 この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。 【0075】 なお、図6のステップS17では、偏差>所定値の時、前前回しきい値をしきい値thに設定する例を示したが、その他前前回しきい値よりも前のしきい値や前回よりも前のしきい値の平均値をしきい値thとして設定してもよい。 【図面の簡単な説明】 【0076】 【図1】リニア空燃比センサを備えたエンジンの系統図。 【図2】リニア空燃比センサの劣化検出装置を示す制御回路ブロック図。 【図3】劣化検出処理を示すフローチャート。 【図4】劣化判定のサブルーチンを示すフローチャート。 【図5】劣化検出処理を示すタイムチャート。 【図6】劣化検出処理の他の実施例を示すフローチャート。 【符号の説明】 【0077】 11…エンジン 18…リニアO2センサ(リニア空燃比センサ) 30…空燃比フィードバック制御手段(空燃比制御手段) S2…空燃比強制変更手段(空燃比変更手段) S4…微分手段 S8,S19…しきい値設定手段 S11…むだ時間計測手段 S15…ピーク値検出手段 S18…劣化判定手段 P1,P2…ピーク値 th…しきい値 X…むだ時間
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【出願人】 |
【識別番号】000003137 【氏名又は名称】マツダ株式会社 【住所又は居所】広島県安芸郡府中町新地3番1号
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【出願日】 |
平成16年8月26日(2004.8.26) |
【代理人】 |
【識別番号】100067747 【弁理士】 【氏名又は名称】永田 良昭
【識別番号】100121603 【弁理士】 【氏名又は名称】永田 元昭
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【公開番号】 |
特開2006−63853(P2006−63853A) |
【公開日】 |
平成18年3月9日(2006.3.9) |
【出願番号】 |
特願2004−246152(P2004−246152) |
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