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【発明の名称】 リニア空燃比センサの劣化診断装置
【発明者】 【氏名】竹林 広行

【氏名】宮本 浩二

【氏名】寺田 浩市

【氏名】宮腰 穂

【要約】 【課題】リニア空燃比センサの片側劣化をも確実に検出すること。

【解決手段】所定の診断条件が成立したときに前記フィードバック制御系にインパルス状の外乱をリーン側とリッチ側とへ交互に所定回数出力し、リニア空燃比センサの出力の微分値に基づいて、劣化判定の判定パラメータTLR、TRLを演算する。ついで、リッチ側の判定パラメータTLR、TRLとリーン側の判定パラメータTRLの差DFTと和ADTとに基づいて、リニア空燃比センサの劣化を判定する。差DFTと和ADTには、それぞれ対応する重み係数α、βが乗ぜられ、評価値ESが演算される。この評価値ESに基づいて、リニア空燃比センサの劣化判定を実行することにより、いわゆる片側劣化をも検出できるようにする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気ガス中の酸素濃度に基づいて、空燃比のフィードバック制御を実行するフィードバック制御系と、
このフィードバック制御系に設けられ、前記排気ガス中の酸素濃度に比例する値を出力するリニア空燃比センサと、
所定の診断条件が成立したときに前記フィードバック制御系にインパルス状の外乱をリーン側とリッチ側とへ交互に所定回数出力する外乱発生手段と、
外乱発生手段による外乱出力後にリニア空燃比センサの出力の微分値を出力する微分手段と、
微分手段が出力した微分値に基づいてリニア空燃比センサのむだ時間と時定数のうち少なくとも一方を劣化判定の判定パラメータとして、リッチ側、リーン側毎に演算する判定パラメータ演算手段と、
演算されたリッチ側の判定パラメータとリーン側の判定パラメータの差と和とに基づいて、リニア空燃比センサの劣化に伴うエミッション悪化を推定するエミッション悪化推定手段と
を備えていることを特徴とするリニア空燃比センサの劣化診断装置。
【請求項2】
請求項1記載のリニア空燃比センサの劣化診断装置において、
前記エミッション悪化推定手段は、前記差と和とに対し、それぞれ所定の重み係数を乗じて補正パラメータを得る補正ステップと、
前記補正パラメータの和を演算して評価値を得る評価値演算ステップと、
演算された評価値をしきい値と比較して良否を判定する判定ステップと
を実行するものであることを特徴とするリニア空燃比センサの劣化診断装置。
【請求項3】
請求項2記載のリニア空燃比センサの劣化診断装置において、
前記エミッション悪化推定手段は、前記フィードバック制御系のゲインが小さい程、エミッション悪化の基準が下がるように前記和の重み係数を変更するものである
ことを特徴とするリニア空燃比センサの劣化診断装置。
【請求項4】
請求項2または3記載のリニア空燃比センサの劣化診断装置において、
前記リニア空燃比センサは、当該エンジンの排気ガスを浄化する触媒の上流側に配置されており、
前記フィードバック制御系は、前記リニア空燃比センサの出力が入力されるとともに、この出力と目標値との差に基づいて操作量を出力する主制御要素と、前記主制御要素に設けられ、目標空燃比と実空燃比との定常的なずれを補正するための学習を実行する主学習手段とを有し、
前記エミッション悪化推定手段は、主学習手段の学習度合が進むに連れてエミッション悪化の基準が下がるように前記補正パラメータにおける差の重み係数を変更するものである
ことを特徴とするリニア空燃比センサの劣化診断装置。
【請求項5】
請求項2から3の何れか1項に記載のリニア空燃比センサの劣化診断装置において、
前記リニア空燃比センサは、当該エンジンの排気ガスを浄化する触媒の上流側に配置されており、
前記フィードバック制御系は、前記触媒の下流側に配置され、当該触媒に浄化された排気ガス中の酸素濃度を検出値として出力する酸素濃度センサと、前記酸素濃度センサからの検出値が入力されるとともに、この検出値に基づく副補正量に基づき目標値を補正する副制御要素と、前記副制御要素に設けられ、目標空燃比と実空燃比との定常的なずれを補正するための学習を実行する副学習手段とを有し、
前記エミッション悪化推定手段は、副学習手段の学習度合が進むに連れてエミッション悪化の基準が下がるように前記補正パラメータにおける差の重み係数を変更するものである
ことを特徴とするリニア空燃比センサの劣化診断装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明はリニア空燃比センサの劣化診断装置に関し、より詳細には、エンジンの排気系に設けられ、排気ガス中の酸素濃度に比例する値を出力するリニア空燃比センサの劣化を検出するリニア空燃比センサの劣化診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のリニア空燃比センサの劣化診断装置としては、例えば特許文献1に開示されている技術がある。この特許文献1に開示されている技術では、通常運転時では、PID動作によって空燃比のフィードバック制御を実行するとともに、診断時には、フィードバック制御系のD動作を禁止してPI動作に切り換えることにより、リニア空燃比センサの出力変動を拡大し、センサ劣化度合いが大きい程、応答周期が長くなることに基づいて、リニア空燃比センサの応答劣化を拡大して検出するようにしている。
【特許文献1】特許第3377336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、リニア空燃比センサの応答劣化には、両側劣化と片側劣化の2つの態様がある。両側劣化とは、リッチ側、リーン側への変動に対するセンサ出力変化の応答性が何れも悪化する応答劣化をいい、片側劣化とは、リーン側からリッチ側、或いはリッチ側からリーン側に空燃比が変動した際、何れか一方のみについて、センサ出力変化の応答性が悪化する応答劣化をいう。
【0004】
両側劣化においては、リーン側へもリッチ側へもリニア空燃比センサの出力変化の応答性が悪化するので、フィードバック全体の応答性は遅れるものの、平均空燃比が目標空燃比からずれることはない。これに対して、片側劣化を来しているリニア空燃比センサの出力に基づいて、空燃比をフィードバック制御を実行した場合、平均空燃比が目標空燃比からずれてしまうという問題がある。
【0005】
この点に関し、特許文献1に開示されている装置では、リニア空燃比センサの出力変動を拡大しているので、両側劣化についてはリニア空燃比センサの劣化判定が容易になる。しかしながら、単に出力変動を拡大しているだけでは、リニア空燃比センサが片側劣化を来しているか否かを判定することはできなかった。そのため、特許文献1の劣化診断に基づいて、空燃比のフィードバック制御を続けると、平均空燃比が本来の目標空燃比(中心空燃比)からずれるという不具合を回避することができなかった。
【0006】
本発明は上記不具合に鑑みてなされたものであり、リニア空燃比センサの片側劣化をも確実に検出することのできるリニア空燃比センサの劣化診断装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、エンジンの排気ガス中の酸素濃度に基づいて、空燃比のフィードバック制御を実行するフィードバック制御系と、このフィードバック制御系に設けられ、前記排気ガス中の酸素濃度に比例する値を出力するリニア空燃比センサと、所定の診断条件が成立したときに前記フィードバック制御系にインパルス状の外乱をリーン側とリッチ側とへ交互に所定回数出力する外乱発生手段と、外乱発生手段による外乱出力後にリニア空燃比センサの出力の微分値を出力する微分手段と、微分手段が出力した微分値に基づいてリニア空燃比センサのむだ時間と時定数のうち少なくとも一方を劣化判定の判定パラメータとして、リッチ側、リーン側毎に演算する判定パラメータ演算手段と、演算されたリッチ側の判定パラメータとリーン側の判定パラメータの差と和とに基づいて、リニア空燃比センサの劣化に伴うエミッション悪化を推定するエミッション悪化推定手段とを備えていることを特徴とするリニア空燃比センサの劣化診断装置である。この態様では、所定の診断条件が成立したときに、外乱発生手段がインパルス状の外乱をフィードバック制御系に出力することにより、外乱に対応した実空燃比がリニア空燃比センサからフィードバックされる結果、このリニア空燃比センサの出力の微分値からむだ時間または時定数の少なくとも一方を検出し、リニア空燃比センサの過渡的な特性(むだ時間や一次遅れ)の変化を検出して劣化診断を実行することが可能になる。このため、リニア空燃比センサの劣化そのものばかりでなく、劣化態様を詳細に分析することも可能になる。しかも、リッチ側の判定パラメータとリーン側の判定パラメータの差と和とに基づいて、リニア空燃比センサの劣化を判定しているので、両側劣化のみならず、リニア空燃比センサが片側劣化を来しているか否かをも判定することが可能になる結果、平均空燃比が目標空燃比からずれることはない。すなわち、リニア空燃比センサの片側劣化の場合には、リッチ側の判定パラメータとリーン側の判定パラメータとの差が大きくなる。従って、この差が大きいと、中心空燃比がリーン側或いはリッチ側にずれが発生したということであって、そのずれに伴い、エミッションが悪化していることを推定することができる。他方、リニア空燃比センサの両側悪化の場合には、両判定パラメータの和が大きくなる。従って、この和が大きいと、フィードバック制御系の周期が延びることに伴うフィードバック制御系の発散に伴う空燃比ずれが発生したということであって、そのずれに伴い、エミッションが悪化していることを推定することができる。
【0008】
好ましい態様において、前記エミッション悪化推定手段は、前記差と和とに対し、それぞれ所定の重み係数を乗じて補正パラメータを得る補正ステップと、前記補正パラメータの和を演算して評価値を得る評価値演算ステップと、演算された評価値をしきい値と比較して良否を判定する判定ステップとを実行するものである。通常、フィードバック制御系のゲインは、運転状態に応じて変更されることがあるが、フィードバックゲインが変更されると、フィードバック制御系の周期に影響を及ぼす。例えば、フィードバックゲインが小さくされると、フィードバックの応答性が低下し、リニア空燃比センサが正常であってもフィードバック制御系の周期は延びるため、このフィードバックゲインの大きさを考慮しないと、エミッション悪化を誤って推定することになる。しかしながらこの態様では、リニア空燃比センサの片側劣化による中心空燃比ずれと、両側劣化に伴うフィードバック制御の発散によるエミッション悪化とを総合的に勘案した劣化評価を容易に実行することが可能になる。
【0009】
好ましい態様において、前記エミッション悪化推定手段は、前記フィードバック制御系のゲインが小さい程、エミッション悪化の基準が下がるように前記和の重み係数を変更するものである。この態様では、フィードバックゲインの違いに応じて適切な重み係数を設定し、劣化診断に基づくエミッションを評価することが可能になる。
【0010】
好ましい態様において、前記リニア空燃比センサは、当該エンジンの排気ガスを浄化する触媒の上流側に配置されており、前記フィードバック制御系は、前記リニア空燃比センサの出力が入力されるとともに、この出力と目標値との差に基づいて操作量を出力する主制御要素と、前記主制御要素に設けられ、目標空燃比と実空燃比との定常的なずれを補正するための学習を実行する主学習手段とを有し、前記エミッション悪化推定手段は、主学習手段の学習度合が進むに連れてエミッション悪化の基準が下がるように前記補正パラメータにおける差の重み係数を変更するものである。通常、空燃比のフィードバック制御系においては、燃料系部品のばらつきや経年変化に伴う中心空燃比ずれを補正するため、リニア空燃比センサの出力に基づき、主制御要素が演算したフィードバック補正量に基づいて学習係数(学習値)を演算し、中心空燃比のずれを補正するようにしている。そして、この学習係数の更新は、誤学習防止の観点から徐々に行うようになっており、この学習の更新度合の違いが、中心空燃比ずれに影響を及ぼす。例えば、学習の更新度合が低いときは、中心空燃比のずれを充分に補正できず、リニア空燃比センサが正常であっても中心空燃比のずれが大きくなるため、この学習の更新度合を考慮しないと、エミッション悪化を誤って推定することになる。しかしながらこの態様では、フィードバック制御系に設けた主学習手段による学習度合に応じて、適切な重み係数を設定し、劣化診断に基づくエミッションを評価することが可能になる。
【0011】
好ましい態様において、前記リニア空燃比センサは、当該エンジンの排気ガスを浄化する触媒の上流側に配置されており、前記フィードバック制御系は、前記触媒の下流側に配置され、当該触媒に浄化された排気ガス中の酸素濃度を検出値として出力する酸素濃度センサと、前記酸素濃度センサからの検出値が入力されるとともに、この検出値に基づく副補正量に基づき目標値を補正する副制御要素と、前記副制御要素に設けられ、目標空燃比と実空燃比との定常的なずれを補正するための学習を実行する副学習手段とを有し、前記エミッション悪化推定手段は、副学習手段の学習度合が進むに連れてエミッション悪化の基準が下がるように前記補正パラメータにおける差の重み係数を変更するものである。通常、空燃比のフィードバック制御系においては、燃料系部品のばらつきや経年変化に伴う中心空燃比ずれを補正するため、触媒の下流側に設けられた酸素濃度センサの出力に基づき、副制御要素が演算したフィードバック補正量に基づいて学習係数(学習値)を演算し、中心空燃比のずれを補正するようにしている。そして、この学習係数の更新は、誤学習防止の観点から徐々に行うようになっており、この学習の更新度合の違いが、中心空燃比ずれに影響を及ぼす。例えば、学習の更新度合が低いときは、中心空燃比のずれを充分に補正できず、リニア空燃比センサが正常であっても中心空燃比のずれが大きくなるため、この学習の更新度合を考慮しないと、エミッション悪化を誤って推定することになる。しかしながらこの態様においても、フィードバック制御系の副制御要素に設けた副学習手段による学習度合に応じて、適切な重み係数を設定し、劣化診断に基づくエミッションを評価することが可能になる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明においては、リッチ側の判定パラメータとリーン側の判定パラメータの差と和とに基づいて、リニア空燃比センサの劣化を判定しているので、両側劣化のみならず、リニア空燃比センサが片側劣化を来しているか否かをも判定することが可能になる結果、平均空燃比の目標空燃比からのずれを防止することが可能になるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0014】
図1は本発明の実施の一形態に係るエンジン10の系統図である。
【0015】
図1を参照して、本実施形態の劣化判定装置1に係るエンジン10には、複数の気筒11が設けられるとともに、各気筒11の内部には、図略のクランクシャフトに連結されたピストン12が嵌挿されることにより、その上方に燃焼室14が形成されている。エンジン10には、前記クランクシャフトのエンジン回転速度Neを検出する回転角度センサSW1が設けられている。
【0016】
エンジン10のシリンダヘッドには、前記気筒11毎に燃焼室14に向かって開口する吸気ポート15、排気ポート16がそれぞれ形成されているとともに、これらのポート15、16には、吸気弁17および排気弁18がそれぞれ装備されている。
【0017】
吸気ポート15には、吸気システム20が、排気ポート16には排気システム30がそれぞれ設けられている。
【0018】
吸気システム20は、吸入空気を浄化するエアクリーナ21を上流端に備えている。エアクリーナ21には、エレメント22が内蔵されている。エアクリーナ21の下流側には、スロットルボディ23が設けられている。スロットルボディ23には、吸気システム20内を流通する吸入空気量Qaを調整するスロットルバルブ24が設けられている。そして、スロットルボディ23の下流側には、インテークマニホールド25が設けられ、このインテークマニホールド25の下流端に設けられた分岐吸気通路26が対応する気筒11の吸気ポート15に接続されている。図示の例では、分岐吸気通路26に燃料噴射弁27が設けられている。この吸気システム20には、エアクリーナ21とスロットルボディ23の間にエアフローセンサSW2が配置されている。エアフローセンサSW2は、エレメント22に濾過された吸入空気の吸入空気量Qaを出力するものである。さらに、スロットルボディ23には、当該スロットルバルブ24のスロットル開度TVOを検出するスロットルセンサSW3が設けられている。
【0019】
排気システム30は、排気ポート16に接続されるエキゾーストマニホールド31と、このエキゾーストマニホールド31の下流側に配置され、当該エキゾーストマニホールド31内に排出された既燃ガスを浄化する三元触媒32とが設けられている。そして、この排気システム30には、三元触媒32の上流側に配置されたリニア空燃比センサSW4と、下流側に配置された酸素濃度センサSW5とが設けられている。リニア空燃比センサSW4は、既燃ガスから酸素濃度に概ね比例する信号を出力するためのものである。酸素濃度センサSW5は、理論空燃比に相当する酸素濃度で出力電圧が急変するように構成されており、理論空燃比に対し酸素濃度が多いか少ないかをオンオフ的に検出することにより、空燃比のフィードバック制御を実行するためのものである。リニア空燃比センサSW4は、フィードバック制御の実空燃比に相当する出力を演算するものであるのに対し、酸素濃度センサSW5は、浄化後の既燃ガスの酸素濃度に相当する検出値を演算するものである。本実施形態において、エンジンの目標空燃比は、原則として理論空燃比(λ=1)に設定される。
【0020】
上述した各センサSW1〜SW5並びに燃料噴射弁27は、コントロールユニット100に接続されることにより、空燃比のフィードバック制御系を構成している。
【0021】
図2は本実施形態に係る劣化判定装置1の制御回路ブロック図であり、図3は図2の制御回路によって実現される劣化判定装置1のブロック線図である。
【0022】
まず、図2を参照して、コントロールユニット100は、CPU101、ROMで具体化される補助記憶装置102、RAMで具体化される主記憶装置103を含んでいる。上述した各センサSW1〜SW5は、CPU101に接続されており、それぞれ対応する信号Ne、Qa、TVO、PF、SFをCPU101に出力するように構成されている。
【0023】
CPU101は、補助記憶装置102に記憶されているプログラムに基づいて、各センサSW1〜SW5の出力した信号Ne、Qa、TVO、PF、SFを処理し、燃料噴射弁27を制御して空燃比をフィードバック制御するように構成されている。
【0024】
補助記憶装置102には、詳しくは後述する劣化診断プログラムが記憶されている。
【0025】
主記憶装置103は、補助記憶装置102に記憶されたプログラムを実行する過程で、各センサSW1〜SW5が出力した信号Ne、Qa、TVO、PF、SFやこれに基づいて演算された演算値を記憶するように構成されている。
【0026】
図3を参照して、コントロールユニット100は、同図に示すフィードバック制御系110を構成している。このフィードバック制御系110は、目標空燃比(λ=1)を目標値DVとする基準入力要素111と、基準入力要素111の出力した基準入力IPに補正をかけるBIAS補正要素112と、BIAS補正要素112に補正された動作信号ASに基づいて、エンジン10(より詳細には燃料噴射弁27)への操作量OVを決定する主制御要素114とを含んでいる。
【0027】
BIAS補正要素112と主制御要素114との間には、リニア空燃比センサSW4により検出された実空燃比に相当する出力PFが入力されるようになっており、主制御要素114は、基準入力要素111の基準入力IPからBIAS補正要素112の補正量SSを差し引き、さらにリニア空燃比センサSW4の出力PFを差し引いた動作信号ASを受けて、ゲインKPを含む所定の伝達関数GP(S)に基づき、操作量OVを出力するように構成されている。本実施形態において、主制御要素114の制御動作は、少なくともPI動作となるように伝達関数GP(S)が決定されている。
【0028】
次に、基準入力要素111とBIAS補正要素112との間には、副制御要素115が接続されている。この副制御要素115は、酸素濃度センサSW5からの検出値SFを受けて、ゲインKSを含む所定の伝達関数GS(S)に基づき、副補正量SbSを出力するように構成されている。従って、主制御要素114には、この副補正量SbSが差し引かれた動作信号ASが入力されることになっている。本実施形態において、副制御要素115の制御動作は、少なくともPI動作となるように伝達関数GS(S)が決定されている。
【0029】
各制御要素114、115には、それぞれ主学習手段114aおよび副学習手段115aが設けられている。
【0030】
主学習手段114aは、動作信号ASと主制御要素の出力した操作量OVとをローパスフィルタで受けて、動作信号ASに基づくベース燃料量と操作量OVに基づく補正燃料量との比を学習値として演算し、この学習値に基づく学習係数StPを基準入力要素111と主制御要素114との間に出力するように構成されている。主学習手段114aには、所定のタイミング(例えば所定の燃料噴射回数)で出力した学習係数StPを記憶する図略のSRAMが設けられており、本実施形態では、SRAMが学習係数StPを取り込んだ際、ローパスフィルタの状態量がクリアされるとともに、クリアされたローパスフィルタの状態量に応じて主制御要素114のI項が補正されるようになっている。この結果、主制御要素114の操作量OVが出力されるたびに主学習手段114aは、動作信号ASと操作量OVとの定常的なずれを学習し、学習係数StPによって主制御要素114に反映するように構成されている。
【0031】
また、副学習手段115aは、副制御要素115の副補正量SbSを取り込んでローパスフィルタで高周波成分をカットし、さらにSRAM等の積分要素を用いて積算した副学習量を基準入力要素111と主制御要素114との間に出力するように構成されている。その際、本実施形態では、ローパスフィルタから積分要素に副補正量SbSが取り込まれたときに、ローパスフィルタの状態量がクリアされるとともに、クリアされたローパスフィルタの状態量に応じて副制御要素115のI項が補正されるようになっている。この結果、副制御要素115の副補正量SbSが出力されるたびに副学習手段115aは、動作信号ASと副補正量SbSとの定常的なずれを学習し、学習係数StSによって副制御要素115に反映するように構成されている。
【0032】
従って、フィードバック制御系110を構成するCPU101は、各学習手段114a、115aが出力する学習係数StP、StSによって、対応する制御要素114、115の学習度合を検出することが可能になっている。
【0033】
なお、各学習手段114a、115aのローパスフィルタの伝達関数としては、例えば、一次遅れ要素であってもよく、むだ時間+一次遅れ要素であってもよい。
【0034】
さらに、本実施形態に係るフィードバック制御系110には、外乱LR、RLを交互に発生させる外乱発生手段116が機能的に構成されている。この外乱発生手段116は、補助記憶装置102に記憶されたプログラムが実行されることにより、次に説明するリニア空燃比センサSW4の劣化診断時において、動作するものである。外乱発生手段116は、燃料噴射量にインパルス状の外乱を与えることによって、過渡的に空燃比をリッチ側またはリーン側に変更するように構成されている。以下の説明では、リッチ側に空燃比を変化させるときの外乱はLRと表記し、リーン側に空燃比を変化させるときの外乱はRLと表記する。外乱発生手段116が出力した外乱LR、RLの発生回数NLR、NRLは、それぞれ主記憶装置103に記憶されるようになっている。そして、予め劣化診断プログラムに設定されている出力回数NENDだけ外乱LR、RLを交互に同数出力するように設定されている。これにより、診断によって意図的に変更された空燃比が中和され、主制御要素114によって制御されている空燃比が必要以上に乱されないようにして、エミッションの低下を阻止するようにしている。
【0035】
図4および図5は本実施形態における劣化診断プログラムのフローチャートである。また図6は図4および図5のフローチャートを実行することによって得られた信号のタイミングチャートである。
【0036】
まず、図4および図6を参照して、劣化診断プログラムが実行されると、CPU101は診断条件が成立するのを待機する(ステップS1)。ここで診断条件とは、
(1) 回転角度センサSW1で検出されるエンジン回転速度Neの変化量が所定変化量以下であり、
(2) スロットルセンサSW3によって検出されるスロットル開度TVOの変化量が所定変化量以下であり、且つ
(3) CE=Qa/Neで演算される充填効率CEの変化量が所定変化量以下である
という条件を全て満たすいわゆる定常運転時であることをいう。
【0037】
仮に加速時等、診断条件を満たさない場合には、診断条件を満たすまで待機し、診断条件が成立している場合には、次に収束判定しきい値設定サブルーチンに移行し、収束判定しきい値ThC、dThCが設定される(ステップS2)。
【0038】
収束判定しきい値ThC、dThCが設定されると、今度はこの収束判定しきい値ThC、dThCに基づいて、収束判定が実行される(ステップS3)。この収束判定では、外乱発生手段116による外乱RL、LRがリセットされている状態において、図6に示すように、リニア空燃比センサSW4の出力PFの変動幅OPとしきい値ThCとが比較されるとともに、微分値DO2の変動幅dOPとしきい値dThCとが比較され、各変動幅OP、dOPが何れも対応するしきい値ThC、dThC未満である場合に空燃比が収束したと判定する。このステップS3を実行することにより、CPU101は、収束判定手段を機能的に構成している。
【0039】
空燃比が収束したと判定されると、CPU101は、タイマをスタートし(ステップS4)、タイマのカウントダウンにより、そのタイマ時間が0になるのを待機する(ステップS5)。そして、タイマ時間が0になった後、診断を開始してから外乱LR、RLの発生回数NLR、NRLが比較され(ステップS6)、NRL>NLRが成立する場合には外乱LRがフィードバック制御系110に出力されるとともに(ステップS7)、不成立の場合には、外乱RLがフィードバック制御系110に出力される(ステップS8)。これにより、例えば、図6に示すように、まず、外乱LRが出力され、これによってリニア空燃比センサSW4の出力が変化することになる。
【0040】
外乱発生手段116が外乱LR(またはRL)を出力すると、CPU101は、リニア空燃比センサSW4の出力PFの微分値DO2を演算する(ステップS9)。これにより、リニア空燃比センサSW4の出力PFが外乱LR(またはRL)によってどのように変化するか把握することが可能になる。このように本実施形態のCPU101は、外乱発生手段116による外乱出力後にリニア空燃比センサSW4の出力PFを微分した微分値DO2を出力する微分手段を機能的に構成している。
【0041】
ここで、リニア空燃比センサSW4の検出値は、通常、所定のむだ時間Lと時定数τを伴うものである。
【0042】
図7はリニア空燃比センサSW4のステップ応答特性を示すグラフである。
【0043】
図7を参照して、リニア空燃比センサSW4の入力x(t)と出力y(t)との間には
y(t)=x(t−L) (L≧0) (1)
という関係が成立し、むだ時間要素としてのリニア空燃比センサSW4は、次式の伝達関数に従う。
【0044】
G(s)=Y(s)/X(s)=e-LS (2)
但し、Y(s):出力の複素関数、X(s):入力の複素関数
従って、むだ時間要素としてのリニア空燃比センサSW4のステップ応答h(t)は、逆ラプラス変換により、次式の通りとなり、図7のように決まる。
【0045】
h(t)=u(t−L) (3)
但し、u(t):単位ステップ関数(1(t≧0)且つ0(t<0))
そこで、本実施形態では、むだ時間Lが経過するのを待機し、むだ時間Lの終了を検出して外乱LR、RLをリセットするようにしている。かかる制御を実行するために、CPU101は、図4に示すように、演算された微分値±DO2と所定のリセットしきい値±ThDとを比較し、+DO2>+ThDまたは−DO2<−ThDが成立するのを待機し(ステップS10)、成立した場合には、リニア空燃比センサSW4のむだ時間Lを演算し(ステップS11)、外乱発生手段116による外乱をリセットする(ステップS12)。
【0046】
次に、時定数τは、一次遅れ要素の伝達関数
G(s)=Y(s)/X(s)=K/(1−τ) (4)
の定数である。
【0047】
この式(4)から逆ラプラス変換によって得られるステップ応答h(t)
h(t)=K(1−e-T/M) (5)
但し、K、M:定数
から、
h(t)|τ=M =0.632K (6)
が得られることから、これにむだ時間Lの特性を加えると、時定数τとリニア空燃比センサSW4のステップ応答h(t)とは図7で示す関係になる。
【0048】
図7から明らかなように、時定数τが大きい程、ステップ応答波形の立ち上がりが遅くなり、最終値に達するまでの時間がかかる。そして、リニア空燃比センサSW4の劣化が進む程、時定数τは長くなる。
【0049】
図5を参照して、そこで本実施形態では、時定数τを劣化診断の要素として取り入れるために、リニア空燃比センサSW4の出力の微分ピーク値(CPU101が出力した微分値±DO2のピーク値)DO2PKを演算し(ステップS14)、この微分ピーク値DO2PKからリニア空燃比センサSW4の時定数τを演算するようにしている(ステップS15)。
【0050】
時定数τの演算が終了すると、CPU101は、外乱発生手段116が生成した外乱が、燃料を減量するものであったか、増量するものであったかを判定し(ステップS16)、減量の場合はRLとして、増量の場合はLRとして、それぞれ判定パラメータ(演算されたむだ時間L、時定数τ)を主記憶装置103に保存し(ステップS17、S18)、主記憶装置103に記憶されている発生回数NLR、NRLをインクリメントする(ステップS19、S20)。
【0051】
その後、各外乱LR、RLについて、所要の回数NENDを終了したか否かが判定され(ステップS21、S22)、何れかの発生回数NLR、NRLが所要の回数NENDに満たない場合には、ステップS1に戻って処理を繰り返し、双方の発生回数NLR、NRLが終了している場合には、劣化判定処理に移行する。
【0052】
図8は劣化判定処理の詳細を示すフローチャートである。
【0053】
図8を参照して、本実施形態においては、ここでは、劣化判定を行うために、むだ時間Lと時定数τの和を過渡時間Tとして定義し、ステップS22までの処理が終了すると、CPU101は、リッチ側の外乱LRとリーン側の外乱RLに係る平均過渡時間TLR、TRLの差DFTを演算する(ステップS211)。ここで本実施形態においては、演算された差DFTとエミッションの悪化度合との関係において、各制御要素114、115の学習度合に応じて所定の相関関係があることに着目し、各学習手段114a、115aの出力した学習係数StP、StSに基づき、主、副制御要素114、115の学習状態を検出し(ステップS212)、さらに学習状態からリニア空燃比センサSW4の劣化判定を決定するパラメータとなる重み係数αを補正するように構成されている(ステップS213)。
【0054】
図9は、平均過渡時間TLR、TRLの差DFTとエミッションの悪化度合との関係を示すグラフである。
【0055】
図9を参照して、各制御要素114、115の学習度合が低い場合、差DFTが比較的小さい値からエミッションの悪化度合が比例的に増加するのに対し、学習度合が高い場合には、差DFTが相当大きくならなければエミッションの悪化度合は増加しなくなる。そこで、本実施形態では、ステップS212において、主、副制御要素114、115の学習状態を検出し、その学習度合に応じて重み係数αをステップS213において演算するようにしている。具体的には、学習度合が高くなるに連れてリニア空燃比センサSW4の劣化判定が緩くなるように重み係数αが設定されるようになっている。この結果、本実施形態では、フィードバック制御系110に設けた学習手段114a、115aによる学習度合に応じて、劣化診断に基づくエミッションを評価することが可能になる。
【0056】
次に、CPU101は、平均過渡時間TLR、TRLの和ADTを演算する(ステップS214)。ここで本実施形態においては、演算された和ADTとエミッションの悪化度合との関係において、各制御要素114、115のゲインKP、KSに応じて所定の相関関係があることに着目し、各制御要素114、115のゲインKP、KSを取得し(ステップS215)、ゲインKP、KSに応じてリニア空燃比センサSW4の劣化判定を決定するパラメータとなる重み係数βを補正するように構成されている(ステップS216)。
【0057】
図10は、平均過渡時間TLR、TRLの和ADTとエミッションの悪化度合との関係を示すグラフである。
【0058】
図10を参照して、各制御要素114、115のゲインKP、KSが大きい場合、和ADTが比較的小さい値からエミッションの悪化度合が増加するのに対し、ゲインKP、KSが小さい場合には、和ADTが相当大きくならなければエミッションの悪化度合は増加しなくなる。そこで、本実施形態では、ステップS215において、主、副制御要素114、115のゲインKP、KSを取得し、その値に応じて重み係数βをステップS216において演算するようにしている。具体的には、ゲインKP、KSが小さくなるに連れてリニア空燃比センサの劣化判定が緩くなるように重み係数βが設定されるようになっている。この結果、本実施形態では、フィードバックゲインKP、KSの違いに応じて、劣化診断に基づくエミッションを評価することが可能になる。
【0059】
平均過渡時間TLR、TRLの差DFTおよび和ADTを上述のように決定した後、CPU101は、評価値ESの演算を次式により実行する(ステップS217)。
【0060】
ES=DFT*α+AFT*β (7)
次いで、評価値ESを所定のしきい値ThESと比較し(ステップS218)、評価値ESがしきい値ThES以下であれば、正常判定(ステップS219)、しきい値ThESを越えていれば、リニア空燃比センサSWの劣化判定、すなわちエミッション悪化判定(ステップS220)を下すように構成されている。
【0061】
図11は図4における収束判定しきい値設定サブルーチン(ステップS2)の一例を示すフローチャートである。
【0062】
図11を参照して、この例では、この例では、予め、吸入空気量Qaからしきい値ThC、dThCを求めるマップ220を主記憶装置103内に記憶させておき、エアフローセンサSW2から検出された吸入空気量Qaからしきい値ThC、dThCを索引して(ステップS230)、収束判定しきい値ThC、dThCを設定するようにしている(ステップS231)。この形態では、吸入空気量Qaが少なくなるに連れて収束判定しきい値ThC、dThCの値を小さく設定し、収束判定を厳格にすることが可能になる。このように図11の実施形態では、エンジン10の吸入空気量Qaを検出するエアフローセンサSW2を設け、CPU101が機能的に構成する収束判定手段は、吸入空気量Qaが少ないほど収束条件を厳しくし、吸入空気量Qaの変化に伴う時定数τの判定基準を補正することができる結果、誤判定を回避することが可能になる。
【0063】
以上説明したように本実施形態では、所定の診断条件が成立したときに、外乱発生手段116がインパルス状の外乱LR、RLをフィードバック制御系110に出力することにより、外乱LR、RLに対応した実空燃比がリニア空燃比センサSW4からフィードバックされる結果、このリニア空燃比センサSW4の出力PFの微分値DO2からむだ時間Lまたは時定数τの少なくとも一方を検出し、リニア空燃比センサSW4の過渡的な特性(むだ時間Lや一次遅れ)の変化を検出して劣化診断を実行することが可能になる。このため、リニア空燃比センサSW4の劣化そのものばかりでなく、劣化態様を詳細に分析することも可能になる。しかも、リッチ側の判定パラメータ(本実施形態では、平均過渡時間TLR)とリーン側の判定パラメータ(本実施形態では、平均過渡時間TRL)の差DFTと和ADTとに基づいて、リニア空燃比センサSW4の劣化を判定しているので、両側劣化のみならず、リニア空燃比センサSW4が片側劣化を来しているか否かをも判定することが可能になる結果、平均空燃比が目標空燃比からずれることはない。すなわち、リニア空燃比センサSW4の片側劣化の場合には、リッチ側の判定パラメータとリーン側の判定パラメータとの差が大きくなる。従って、この差が大きいと、中心空燃比がリーン側或いはリッチ側にずれが発生したということであって、そのずれに伴い、エミッションが悪化していることを推定することができる。他方、リニア空燃比センサSW4の両側悪化の場合には、両判定パラメータの和が大きくなる。従って、この和が大きいと、フィードバック制御系110の周期が延びることに伴うフィードバック制御系110の発散に伴う空燃比ずれが発生したということであって、そのずれに伴い、エミッションが悪化していることを推定することができる。
【0064】
また本実施形態では、前記差DFTと和ADTに対し、それぞれ所定の重み係数α、βを乗じて補正パラメータを得る補正ステップと、前記補正パラメータの和を演算して評価値ESを得る評価値演算ステップと、演算された評価値ESをしきい値ThESと比較して良否を判定する判定ステップとを実行するものである(ステップS217〜S220)。このため本実施形態では、リニア空燃比センサSW4の片側劣化による中心空燃比ずれと、両側劣化に伴うフィードバック制御の発散によるエミッション悪化とを総合的に勘案した劣化評価を容易に実行することが可能になる。
【0065】
また本実施形態では、前記リニア空燃比センサSW4は、前記三元触媒32の上流側に配置されており、前記フィードバック制御系110は、前記三元触媒32の下流側に配置され、当該三元触媒32に浄化された排気ガス中の酸素濃度を検出値SFとして出力する酸素濃度センサSW5と、前記リニア空燃比センサSW4の出力PFが入力されるとともに、この出力PFと目標値DVとの差に基づいて操作量OVを出力する主制御要素114と、前記酸素濃度センサSW5からの検出値SFが入力されるとともに、この検出値SFに基づく副補正量SbSに基づき目標値DVを補正する副制御要素115と、前記主制御要素114および副制御要素115にそれぞれ設けられ、目標空燃比と実空燃比との定常的なずれを補正するための学習を実行する主学習手段114aおよび副学習手段115aとを有し、前記エミッション悪化推定手段としてのCPU101は、各学習手段114a、115aの学習度合が進むに連れてエミッション悪化の基準が下がるように前記差DFTの重み係数αを変更するものである。
【0066】
上述した主学習手段114aや副学習手段114bの学習係数StP、StSの更新は、誤学習防止の観点から徐々に行うようになっており、この学習の更新度合の違いが、中心空燃比ずれに影響を及ぼす。例えば、学習の更新度合が低いときは、中心空燃比のずれを充分に補正できず、リニア空燃比センサSW4が正常であっても中心空燃比のずれが大きくなるため、この学習の更新度合を考慮しないと、エミッション悪化を誤って推定することになる。
【0067】
しかるに本実施形態では、フィードバック制御系110に設けた学習手段114a、115aによる学習度合に応じて、適切な重み係数αを設定し、劣化診断に基づくエミッションを評価することが可能になる。
【0068】
また本実施形態では、前記エミッション悪化推定手段としてのCPU101は、前記フィードバック制御系110のゲインKP、KSが小さい程、エミッション悪化の基準が下がるように和ADTの重み係数βを変更するものである。
【0069】
通常、フィードバック制御系110のゲインは、運転状態に応じて変更されることがあるが、フィードバックゲインが変更されると、フィードバック制御系110の周期に影響を及ぼす。例えば、フィードバックゲインが小さくされると、フィードバックの応答性が低下し、リニア空燃比センサSW4が正常であってもフィードバック制御系110の周期は延びるため、このフィードバックゲインの大きさを考慮しないと、エミッション悪化を誤って推定することになる。
【0070】
しかるに本実施形態では、フィードバックゲインKP、KSの違いに応じて適切な重み係数βを設定し、劣化診断に基づくエミッションを評価することが可能になる。
【0071】
このように本実施形態においては、リッチ側の判定パラメータ(平均過渡時間TLR)とリーン側の判定パラメータ(平均過渡時間TRL)の差DFTと和ADTとに基づいて、リニア空燃比センサSW4の劣化を判定しているので、両側劣化のみならず、リニア空燃比センサSW4が片側劣化を来しているか否かをも判定することが可能になる結果、平均空燃比の目標空燃比からのずれを防止することが可能になるという顕著な効果を奏する。
【0072】
上述した実施形態は本発明の好ましい具体例を説明したものに過ぎず、本発明は上述した実施形態に限定されない。例えば、劣化診断を具体化するに当たり、図8で示した過渡時間Tに代えて、むだ時間L、または時定数τについて実行し、劣化状態を判定するようにしてもよい。
【0073】
さらに本発明は、主制御要素114にのみ、或いは副制御要素115にのみ、学習機能を持たせたフィードバック制御系に適用することも可能である。その場合には、主制御要素114の学習度合(または副制御要素115の学習度合)に応じて重み係数αが変更される。
【0074】
また、図8で示したステップS215、S216を具体化するに当たり、フィードバック制御系110全体の伝達関数を求めてそのゲインを決定し、全体のゲインに応じて重み係数βを変更するようにしてもよい。
【0075】
その他、本発明の特許請求の範囲内で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施の一形態に係るエンジンの系統図である。
【図2】本実施形態に係る劣化判定装置の制御回路ブロック図である。
【図3】図2の制御回路によって実現される劣化判定装置のブロック線図である。
【図4】本実施形態における劣化診断プログラムのフローチャートである。
【図5】本実施形態における劣化診断プログラムのフローチャートである。
【図6】図4および図5のフローチャートを実行することによって得られた信号のタイミングチャートである。
【図7】リニア空燃比センサのステップ応答特性を示すグラフである。
【図8】劣化判定処理の詳細を示すフローチャートである。
【図9】平均過渡時間の差とエミッションの悪化度合との関係を示すグラフである。
【図10】平均過渡時間の和とエミッションの悪化度合との関係を示すグラフである。
【図11】図4における収束判定しきい値設定サブルーチンの一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0077】
1 劣化判定装置
10 エンジン
32 三元触媒
100 コントロールユニット
102 補助記憶装置
103 主記憶装置
110 フィードバック制御系
111 基準入力要素
112 BIAS補正要素
114 主制御要素
114a 主学習手段
115 副制御要素
115a 副学習手段
116 外乱発生手段
220 マップ
101 CPU
DFT
O2 微分値
O2PK 微分ピーク値
dOP 変動幅
dThC しきい値
DV 目標値
ES 評価値
P 伝達関数
S 伝達関数
h ステップ応答
IP 基準入力
P、KS ゲイン
Ne エンジン回転速度
OP 変動幅
OV 操作量
PF 実空燃比に相当するリニア空燃比センサの出力
Qa 吸入空気量
LR、RL 外乱
SbS 副補正量
SF 検出値
SS 補正量
StP、StS 学習係数
SW4 リニア空燃比センサ
SW5 酸素濃度センサ
ThC、ThES しきい値
LR、TRL 平均過渡時間(評価パラメータの一例)
TVO スロットル開度
α、β 重み係数
τ 時定数
【出願人】 【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
【出願日】 平成17年6月28日(2005.6.28)
【代理人】 【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司

【識別番号】100096150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 孝夫

【識別番号】100099955
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 次郎


【公開番号】 特開2007−9710(P2007−9710A)
【公開日】 平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願番号】 特願2005−187899(P2005−187899)