【発明の名称】 |
リニア空燃比センサの劣化診断装置 |
【発明者】 |
【氏名】寺田 浩市
【氏名】宮本 浩二
【氏名】宮腰 穂
【氏名】竹林 広行
|
【要約】 |
【課題】劣化態様をも詳細に分析すること。
【解決手段】リニア空燃比センサは、排気ガス中の酸素濃度に比例する出力PFをフィードバック制御系にフィードバックし、フィードバック制御が実行される。所定の診断条件が成立したときにこのフィードバック制御系にインパルス状の外乱を出力する。外乱出力後にリニア空燃比センサSW4の出力PFの微分値DO2を演算し、リニア空燃比センサのむだ時間と時定数とのうち少なくとも一方を劣化判定の判定パラメータとして演算する。前記診断条件の成立時に前記主制御要素のゲインを小さくする。これにより、劣化態様を詳細に分析することも可能になる。しかも、外乱を出力しているにも拘わらずフィードバック制御系の発散を防止することができ、安定度を維持することが可能になる。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 エンジンの目標空燃比を制御するフィードバック制御系と、 このフィードバック制御系に設けられ、排気ガス中の酸素濃度に比例する値を出力するリニア空燃比センサと、 前記フィードバック制御系に設けられ、前記リニア空燃比センサの出力が入力されるとともに、この出力と目標値との差に基づいて操作量を出力する主制御要素と、 所定の診断条件が成立したときに前記フィードバック制御系にインパルス状の外乱を出力する外乱発生手段と、 外乱発生手段による外乱出力後にリニア空燃比センサの出力の微分値を出力する微分手段と、 微分手段が出力した微分値に基づいてリニア空燃比センサのむだ時間と時定数とのうち少なくとも一方を劣化判定の判定パラメータとして演算する判定パラメータ演算手段と、 前記診断条件の成立時に前記主制御要素のゲインを小さくするゲイン切換手段と を備えていることを特徴とするリニア空燃比センサの劣化診断装置。 【請求項2】 請求項1記載のリニア空燃比センサの劣化診断装置において、 前記フィードバック制御系は、前記エンジンの排気ガスを浄化する触媒の下流側に配置され、当該触媒に浄化された排気ガス中の酸素濃度を検出値として出力する酸素濃度センサと、 前記酸素濃度センサからの検出値が入力されるとともに、この検出値に基づく副補正量に基づき目標値を補正する副制御要素と を備え、 前記ゲイン切換手段は、前記診断条件の成立時に前記副制御要素のゲインを小さくするものである ことを特徴とするリニア空燃比センサの劣化診断装置。 【請求項3】 請求項1または2記載のリニア空燃比センサの劣化診断装置において、 前記ゲイン切換手段は、診断終了後において目標空燃比とリニア空燃比センサの検出に基づく実空燃比との差が所定の条件を満たす場合に前記ゲインを通常値に戻すものであることを特徴とするリニア空燃比センサの劣化診断装置。 【請求項4】 請求項1から3記載のリニア空燃比センサの劣化診断装置において、 前記外乱発生手段は、むだ時間の演算を終了した時点で外乱の生成をリセットするものであるとともに、外乱のリセット後に収束判定手段がリニア空燃比センサの出力の収束を判定した場合に次回の外乱を生成するものであることを特徴とするリニア空燃比センサの劣化診断装置。
|
【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】 本発明はリニア空燃比センサの劣化診断装置に関し、より詳細には、エンジンの排気系に設けられ、排気ガス中の酸素濃度に比例する値を出力するリニア空燃比センサの劣化を検出するリニア空燃比センサの劣化診断装置に関する。 【背景技術】 【0002】 従来、この種のリニア空燃比センサの劣化診断装置としては、例えば特許文献1に開示されている技術がある。この特許文献1に開示されている技術では、通常運転時では、PID動作によって空燃比のフィードバック制御を実行するとともに、診断時には、フィードバック制御系のD動作を禁止してPI動作に切り換えることによりリニア空燃比センサの出力変動を拡大し、センサ劣化度合いが大きい程、応答周期が長くなることに基づいて、リニア空燃比センサの応答劣化を拡大して検出するようにしている。 【特許文献1】特許第3377336号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 特許文献1に開示されている装置では、リニア空燃比センサの出力変動を拡大しているのでリニア空燃比センサの劣化判定が容易になる反面、診断時には、専らD動作を禁止してPI動作に切り換えているに過ぎないので、リニア空燃比センサの過渡的な特性(むだ時間や一次遅れ)の変化を検出することができなかった。そのため、リニア空燃比センサの劣化そのものを検出することはできるものの、劣化態様を詳細に分析することはできなかった。 【0004】 本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、劣化態様をも詳細に分析することのできるリニア空燃比センサの劣化診断装置を提供することを課題としている。 【課題を解決するための手段】 【0005】 上記課題を解決するために本発明は、エンジンの目標空燃比を制御するフィードバック制御系と、このフィードバック制御系に設けられ、排気ガス中の酸素濃度に比例する値を出力するリニア空燃比センサと、前記フィードバック制御系に設けられ、前記リニア空燃比センサの出力が入力されるとともに、この出力と目標値との差に基づいて操作量を出力する主制御要素と、所定の診断条件が成立したときに前記フィードバック制御系にインパルス状の外乱を出力する外乱発生手段と、外乱発生手段による外乱出力後にリニア空燃比センサの出力の微分値を出力する微分手段と、微分手段が出力した微分値に基づいてリニア空燃比センサのむだ時間と時定数とのうち少なくとも一方を劣化判定の判定パラメータとして演算する判定パラメータ演算手段と、前記診断条件の成立時に前記主制御要素のゲインを小さくするゲイン切換手段とを備えていることを特徴とするリニア空燃比センサの劣化診断装置である。この態様では、所定の診断条件が成立したときに、外乱発生手段がインパルス状の外乱をフィードバック制御系に出力することにより、外乱に対応した実空燃比がリニア空燃比センサから出力される結果、このリニア空燃比センサの出力の微分値からむだ時間または時定数の少なくとも一方を検出し、リニア空燃比センサの過渡的な特性(むだ時間や時定数)の変化を検出して劣化診断を実行することが可能になる。このため、リニア空燃比センサの劣化そのものばかりでなく、劣化態様を詳細に分析することも可能になる。しかも、劣化診断時にフィードバック制御系の主制御要素のゲインを小さくする制御を実行しているので、外乱を出力しているにも拘わらずフィードバック制御系の発散を防止することができ、フィードバック制御系の安定度を維持することが可能になる。この発明において、エンジンの目標空燃比は、原則として理論空燃比(λ=1)に設定される。さらに、外乱発生手段が生成する「外乱」とは、空燃比のフィードバック制御系の状態を一時的に乱す外的作用をいい、具体的な例としては、燃料噴射量を意図的にリッチ側またはリーン側に変動させることにより、空燃比のフィードバック制御系に付加されるものである。 【0006】 好ましい態様において、前記フィードバック制御系は、前記エンジンの排気ガスを浄化する触媒の下流側に配置され、当該触媒に浄化された排気ガス中の酸素濃度を検出値として出力する酸素濃度センサと、前記酸素濃度センサからの検出値が入力されるとともに、この検出値に基づく副補正量に基づき目標値を補正する副制御要素とを備え、前記ゲイン切換手段は、前記診断条件の成立時に前記副制御要素のゲインを小さくするものである。この態様では、リニア空燃比センサによるフィードバックのみならず、酸素濃度センサも制御要素として機能し、基準入力を修正することになる。そして、この態様においては、劣化診断時に副制御要素の伝達関数のゲインもゲイン切換手段によって制御されることになるので、外乱を出力しているにも拘わらずフィードバック制御系の発散を防止することができ、フィードバック制御系の安定度を維持することが可能になる。 【0007】 好ましい態様において、前記ゲイン切換手段は、診断終了後において目標空燃比とリニア空燃比センサの検出に基づく実空燃比との差が所定の条件を満たす場合に前記ゲインを通常値に戻すものである。この態様では、診断終了後直ちにゲインを戻すのではなく、目標空燃比とリニア空燃比センサの検出に基づく実空燃比との差が所定の条件を満たす場合にゲインを戻しているので、ゲインの変更後に大きなフィードバック補正が作用して発散が生じるのを防止し、制御の乱れによるエミッションの低下を抑制することが可能になる。 【0008】 好ましい態様において、前記外乱発生手段は、むだ時間の演算を終了した時点で外乱の生成をリセットするものであるとともに、外乱のリセット後に収束判定手段がリニア空燃比センサの出力の収束を判定した場合に次回の外乱を生成するものである。この態様では、リニア空燃比センサの劣化状態に応じて必要最小限の期間だけ外乱を出力させることが可能になる。従って、診断時間を可及的に短縮化できるとともに、むだ時間に基づく正確な劣化診断を実行することが可能になる。また、このように外乱の出力時間を可変長とした場合であっても、ゲイン切換手段によって、開ループ伝達関数のゲインが小さくされるので、外乱の出力態様に対応して、制御の発散を防止し、エミッションの低下を防止することが可能になる。 【発明の効果】 【0009】 以上説明したように、本発明によれば、外乱をインパルス状に出力してリニア空燃比センサのむだ時間や時定数を判定パラメータとして利用し、劣化態様を詳細に分析することが可能になるとともに、そのような外乱を利用しているにも拘わらず、フィードバック制御系の発散を可及的に防止することができるという顕著な効果を奏する。 【発明を実施するための最良の形態】 【0010】 以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について詳述する。 【0011】 図1は本発明の実施の一形態に係るエンジン10の系統図である。 【0012】 図1を参照して、本実施形態の劣化判定装置1に係るエンジン10には、複数の気筒11が設けられるとともに、各気筒11の内部には、図略のクランクシャフトに連結されたピストン12が嵌挿されることにより、その上方に燃焼室14が形成されている。エンジン10には、前記クランクシャフトのエンジン回転速度Neを検出する回転角度センサSW1が設けられている。 【0013】 エンジン10のシリンダヘッドには、前記気筒11毎に燃焼室14に向かって開口する吸気ポート15、排気ポート16がそれぞれ形成されているとともに、これらのポート15、16には、吸気弁17および排気弁18がそれぞれ装備されている。 【0014】 吸気ポート15には、吸気システム20が、排気ポート16には排気システム30がそれぞれ設けられている。 【0015】 吸気システム20は、吸入空気を浄化するエアクリーナ21を上流端に備えている。エアクリーナ21には、エレメント22が内蔵されている。エアクリーナ21の下流側には、スロットルボディ23が設けられている。スロットルボディ23には、吸気システム20内を流通する吸入空気量Qaを調整するスロットルバルブ24が設けられている。そして、スロットルボディ23の下流側には、インテークマニホールド25が設けられ、このインテークマニホールド25の下流端に設けられた分岐吸気通路26が対応する気筒11の吸気ポート15に接続されている。図示の例では、分岐吸気通路26に燃料噴射弁27が設けられている。この吸気システム20には、エアクリーナ21とスロットルボディ23の間にエアフローセンサSW2が配置されている。エアフローセンサSW2は、エレメント22に浄化された吸入空気の吸入空気量Qaを出力するものである。さらに、スロットルボディ23には、当該スロットルバルブ24のスロットル開度TVOを検出するスロットルセンサSW3が設けられている。 【0016】 排気システム30は、排気ポート16に接続されるエキゾーストマニホールド31と、このエキゾーストマニホールド31の下流側に配置され、当該エキゾーストマニホールド31内に排出された既燃ガスを浄化する三元触媒32とが設けられている。そして、この排気システム30には、三元触媒32の上流側に配置されたリニア空燃比センサSW4と、下流側に配置された酸素濃度センサSW5とが設けられている。リニア空燃比センサSW4は、既燃ガスから酸素濃度に概ね比例する信号を出力するためのものである。酸素濃度センサSW5は、理論空燃比に相当する酸素濃度で出力電圧が急変するように構成されており、理論空燃比に対し酸素濃度が多いか少ないかをオンオフ的に検出することにより、空燃比のフィードバック制御を実行するためのものである。リニア空燃比センサSW4は、フィードバック制御の実空燃比に相当する出力を演算するものであるのに対し、酸素濃度センサSW5は、浄化後の既燃ガスの酸素濃度に相当する検出値を演算するものである。本実施形態において、エンジン10の目標空燃比は、原則として理論空燃比(λ=1)に設定される。 【0017】 上述した各センサSW1〜SW5並びに燃料噴射弁27は、コントロールユニット100に接続されることにより、空燃比のフィードバック制御系を構成している。 【0018】 図2は本実施形態に係る劣化判定装置1の制御回路ブロック図であり、図3は図2の制御回路によって実現される劣化判定装置1のブロック線図である。 【0019】 まず、図2を参照して、コントロールユニット100は、CPU101、ROMで具体化される補助記憶装置102、RAMで具体化される主記憶装置103を含んでいる。上述した各センサSW1〜SW5は、CPU101に接続されており、それぞれ対応する信号Ne、Qa、TVO、PF、SFをCPU101に出力するように構成されている。 【0020】 CPU101は、補助記憶装置102に記憶されているプログラムに基づいて、各センサSW1〜SW5の出力した信号Ne、Qa、TVO、PF、SFを処理し、燃料噴射弁27を制御して空燃比をフィードバック制御するように構成されている。 【0021】 補助記憶装置102には、詳しくは後述する劣化診断プログラムが記憶されている。 【0022】 主記憶装置103は、補助記憶装置102に記憶されたプログラムを実行する過程で、各センサSW1〜SW5が出力した信号Ne、Qa、TVO、PF、SFやこれに基づいて演算された演算値を記憶するように構成されている。 【0023】 図3を参照して、コントロールユニット100は、同図に示すフィードバック制御系110を構成している。このフィードバック制御系110は、目標空燃比(λ=1)を目標値DVとする基準入力要素111と、基準入力要素111の出力した基準入力IPに補正をかけるBIAS補正要素112と、BIAS補正要素112に補正された動作信号ASに基づいて、エンジン10(より詳細には燃料噴射弁27)への操作量OVを決定する主制御要素114とを含んでいる。 【0024】 BIAS補正要素112は、基準入力要素111の出力する基準入力IPを補正するものであり、初期値は、0となるように設定されている。 【0025】 BIAS補正要素112と主制御要素114との間には、リニア空燃比センサSW4により検出された実空燃比に相当する出力PFが入力されるようになっており、主制御要素114は、基準入力要素111の基準入力IPからBIAS補正要素112の補正量SSを差し引き、さらにリニア空燃比センサSW4の出力PFを差し引いた動作信号ASを受けて、ゲインKPPを含む所定の伝達関数 GP(S)=KPP{1+(1/TI)+TD} (1) 但し、KPP:比例ゲイン、TI:積分時間、TD:微分時間 に基づき、操作量OVを出力するように構成されている。(1)式から明らかなように、本実施形態において、主制御要素114は、PID動作の伝達関数GP(S)に設定されている。図3では簡略化されているが、主制御要素114の出力した操作量OVに基づき、エンジン10の燃料噴射弁27は、所定のタイミングと噴射量で燃料を噴射し、その混合気がエンジン10で燃焼される。そして、その既燃ガスがエンジン10から排気システム30に排出されると、リニア空燃比センサSW4が、三元触媒32の上流側で当該既燃ガスの酸素濃度を検出し、実空燃比に相当する出力PFをフィードバックするとともに、酸素濃度センサSW5が、三元触媒32の下流側で浄化された排気ガスの酸素濃度を検出し、検出値SFを出力する。 【0026】 次に、基準入力要素111とBIAS補正要素112との間には、副制御要素115が接続されている。この副制御要素115は、酸素濃度センサSW5からの検出値SFを受けて、ゲインKSPを含む所定の伝達関数 GS(S)=KSP{1+(1/TI)+TD} (2) 但し、KSP:比例ゲイン、TI:積分時間、TD:微分時間 に基づき、副補正量SbSを出力するように構成されている。従って、主制御要素114には、この副補正量SbSが差し引かれた動作信号ASが入力されることになっている。(2)式から明らかなように、本実施形態において、副制御要素115は、PID動作の伝達関数GS(S)に設定されている。 【0027】 次に、本実施形態に係るフィードバック制御系110には、外乱LR、RLを交互に発生させる外乱発生手段116が機能的に構成されている。この外乱発生手段116は、補助記憶装置102に記憶されたプログラムが実行されることにより、次に説明するリニア空燃比センサSW4の劣化診断時において、動作するものである。外乱発生手段116は、燃料噴射量にインパルス状の外乱を与えることによって、過渡的に空燃比をリッチ側またはリーン側に変更するように構成されている。以下の説明では、リッチ側に空燃比を変化させるときの外乱はLRと表記し、リーン側に空燃比を変化させるときの外乱はRLと表記する。外乱発生手段116が出力した外乱LR、RLの発生回数NLR、NRLは、それぞれ主記憶装置103に記憶されるようになっている。そして、予め劣化診断プログラムに設定されている出力回数NENDだけ外乱LR、RLを交互に同数出力するように設定されている。これにより、診断によって意図的に変更された空燃比が中和され、主制御要素114によって制御されている空燃比が必要以上に乱されないようにして、エミッションの低下を阻止するようにしている。 【0028】 さらに、本実施形態に係るフィードバック制御系110には、後述する劣化診断時において、各制御要素114、115のゲインKPP、KSPを変更可能なゲイン切換手段118が機能的に構成されている。 【0029】 図4および図5は本実施形態における劣化診断プログラムのフローチャートである。また図6は図4および図5のフローチャートを実行することによって得られた信号のタイミングチャートである。 【0030】 まず、図4および図6を参照して、劣化診断プログラムが実行されると、CPU101は診断条件が成立するのを待機する(ステップS1)。ここで診断条件とは、 (1) 回転角度センサSW1で検出されるエンジン回転速度Neの変化量が所定変化量以下であり、 (2) スロットルセンサSW3によって検出されるスロットル開度TVOの変化量が所定変化量以下であり、且つ (3) CE=Qa/Neで演算される充填効率CEの変化量が所定変化量以下である という条件を全て満たすいわゆる定常運転時であることをいう。 【0031】 仮に加速時等、診断条件を満たさない場合には、診断条件を満たすまで待機し、診断条件が成立している場合には、ゲイン切換手段118が両制御要素114、115のゲインKPP、KSPを小さく変更する(ステップS2)。 【0032】 この制御により、リニア空燃比センサSW4の主フィードバック量に対する主制御要素114の応答は緩やかになるとともに、副制御要素115は、診断時に外乱LR、RLが出力された場合でも、比較的小さな副補正量SbSを出力することになる。 【0033】 次いで、収束判定しきい値設定副ルーチンに移行し、収束判定しきい値ThC、dThCが設定される(ステップS3)。 【0034】 収束判定しきい値ThC、dThCが設定されると、今度はこの収束判定しきい値ThC、dThCに基づいて、収束判定が実行される(ステップS4)。この収束判定では、外乱発生手段116による外乱LR、RLがリセットされている状態において、図6に示すように、リニア空燃比センサSW4の出力PFの変動幅OPとしきい値ThCとが比較されるとともに、微分値DO2の変動幅dOPとしきい値dThCとが比較され、各変動幅OP、dOPが何れも対応するしきい値ThC、dThC未満である場合に空燃比が収束したと判定する。このステップS4を実行することにより、CPU101は、収束判定手段を機能的に構成している。 【0035】 空燃比が収束したと判定されると、CPU101は、タイマをスタートし(ステップS5)、タイマのカウントダウンにより、そのタイマ時間が0になるのを待機する(ステップS6)。そして、タイマ時間が0になった後、診断を開始してから外乱LR、RLの発生回数NLR、NRLが比較され(ステップS7)、NRL>NLRが成立する場合には外乱LRがフィードバック制御系110に出力されるとともに(ステップS8)、不成立の場合には、外乱RLがフィードバック制御系110に出力される(ステップS9)。これにより、例えば、図6に示すように、まず、外乱LRが出力され、これによってリニア空燃比センサSW4の出力が変化することになる。 【0036】 外乱発生手段116が外乱LR(またはRL)を出力すると、CPU101は、入力されたリニア空燃比センサSW4の出力PFの微分値DO2を演算する(ステップS10)。これにより、リニア空燃比センサSW4の出力PFが外乱LR(またはRL)によってどのように変化するか把握することが可能になる。このように本実施形態のCPU101は、外乱発生手段116による外乱出力後にリニア空燃比センサSW4の出力PFを微分した微分値DO2を出力する微分手段を機能的に構成している。 【0037】 ここで、リニア空燃比センサSW4の検出値は、通常、所定のむだ時間Lと時定数τを伴うものである。 【0038】 図7はリニア空燃比センサSW4のステップ応答特性を示すグラフである。 【0039】 図7を参照して、リニア空燃比センサSW4の入力x(t)と出力y(t)との間には y(t)=x(t−L) (L≧0) (3) という関係が成立し、むだ時間要素としてのリニア空燃比センサSW4は、次式の伝達関数に従う。 【0040】 G(s)=Y(s)/X(s)=e-Ls (4) 但し、Y(s):出力の複素関数、X(s):入力の複素関数 従って、むだ時間要素としてのリニア空燃比センサSW4のステップ応答h(t)は、逆ラプラス変換により、次式の通りとなり、図7のように決まる。 【0041】 h(t)=u(t−L) (5) 但し、u(t):単位ステップ関数(1(t≧0)且つ0(t<0)) そこで、本実施形態では、むだ時間Lが経過するのを待機し、むだ時間Lの終了を検出して外乱LR、RLをリセットするようにしている。かかる制御を実行するために、CPU101は、図4に示すように、演算された微分値±DO2と所定のしきい値±ThDとを比較し、+DO2>+ThDまたは−DO2<−ThDが成立するのを待機し(ステップS11)、成立した場合には、リニア空燃比センサSW4のむだ時間Lを演算し(ステップS12)、外乱発生手段116による外乱をリセットする(ステップS14)。 【0042】 次に、時定数τは、一次遅れ要素の伝達関数 G(s)=Y(s)/X(s)=K/(1−τ) (6) の定数である。 【0043】 この式(6)から逆ラプラス変換によって得られるステップ応答h(t) h(t)=K(1−e-t/M) (7) 但し、K、M:定数 から、 h(t)|τ=M =0.632K (8) が得られることから、これにむだ時間Lの特性を加えると、時定数τとリニア空燃比センサSW4のステップ応答h(t)とは図7で示す関係になる。 【0044】 図7から明らかなように、時定数τが大きい程、ステップ応答波形の立ち上がりが遅くなり、最終値に達するまでの時間がかかる。そして、リニア空燃比センサSW4の劣化が進む程、時定数τは長くなる。 【0045】 図5を参照して、そこで本実施形態では、時定数τを劣化診断の要素として取り入れるために、リニア空燃比センサSW4の出力の微分ピーク値(CPU101が出力した微分値±DO2のピーク値)DO2PKを演算し(ステップS15)、この微分ピーク値DO2PKからリニア空燃比センサSW4の時定数τを演算するようにしている(ステップS16)。 【0046】 時定数τの演算が終了すると、CPU101は、外乱発生手段116が生成した外乱が、燃料を減量するものであったか、増量するものであったかを判定し(ステップS17)、減量の場合はRLとして、増量の場合はLRとして、それぞれ判定パラメータ(演算されたむだ時間L、時定数τ)を主記憶装置103に保存し(ステップS18、S19)、主記憶装置103に記憶されている発生回数NLR、NRLをインクリメントする(ステップS20、S21)。 【0047】 その後、各外乱LR、RLについて、所要の回数NENDを終了したか否かが判定され(ステップS22、S23)、何れかの発生回数NLR、NRLが所要の回数NENDに満たない場合には、ステップS1に戻って処理を繰り返す。 【0048】 他方、ステップS22、S23において、何れの発生回数NLR、NRLも所要の回数NENDに達している場合には、目標空燃比から実空燃比を差し引いた値が所定のしきい値ThAF未満になる、すなわち、制御が充分に収束するのを待機する(ステップS24)。出力が収束した場合には、各制御要素115のゲインKPP、KSPを元の値に戻す(ステップS25)。これにより、出力が発散するのを抑制し、診断状態からエミッションの低下を来すことなく、通常のフィードバック制御に戻すことができる。そして、その後、制御は、劣化判定処理に移行する。 【0049】 このように本実施形態では、CPU101が図4のステップS12並びに図5のステップS16を実行することにより、判定パラメータ演算手段を機能的に構成している。 【0050】 図8は劣化判定処理の詳細を示すフローチャートである。 【0051】 図8を参照して、ここでは、劣化判定を行うために、むだ時間Lと時定数τの和を過渡時間Tとして定義し、ステップS25までの処理が終了すると、CPU101は、リッチ側の外乱LRとリーン側の外乱RLに係る平均過渡時間TLR、TRLをそれぞれ演算する(ステップS211)。次いで、両平均過渡時間TLR、TRLの絶対値の差を演算し、その値が所定のしきい値ThBを越えていないかどうか判定する(ステップS212)。各平均過渡時間TLR、TRLにおいて、絶対値の差が大きい場合には、主制御要素114による空燃比制御がリッチ側またはリーン側にずれてしまうので、そのようなずれを防止するために、両平均過渡時間TLR、TRLの絶対値の差が演算されている。 【0052】 仮に両平均過渡時間TLR、TRLの絶対値の差がしきい値ThB以下の場合、今度は、両平均過渡時間TLR、TRLの絶対値の和がしきい値ThAを越えているか否かが判定される(ステップS213)。両平均過渡時間TLR、TRLの絶対値の和が大きい場合には、酸素濃度センサSW5で副フィードバック制御を実行していることもあり、フィードバック制御が過補正になり、制御が緩慢になって発散しやすくなるからである。 【0053】 仮に、両平均過渡時間TLR、TRLの絶対値の和がしきい値ThA以下の場合には、過渡時間について正常と判定される(ステップS214)。他方、両平均過渡時間TLR、TRLの絶対値の和がしきい値ThAを越えている場合には、リニア空燃比センサSW4の劣化がリッチ側でもリーン側でも起きていると判定される(ステップS215)。 【0054】 他方、ステップS212において、両平均過渡時間TLR、TRLの絶対値の差がしきい値ThBを越えている場合、リッチ側の平均過渡時間TLRとリッチ側のしきい値ThRとが比較されてリッチ側で過渡時間劣化が生じているか否かが判定され(ステップS216)、しきい値ThRを越えている場合には、リッチ側過渡時間TLR劣化が生じていると判定される(ステップS217)。他方、平均過渡時間TLRがしきい値ThR以下の場合には、さらにリーン側の平均過渡時間TRLとリーン側のしきい値ThLとが比較され、リーン側で過渡時間劣化が生じているか否かが判定される(ステップS218)。リーン側の平均過渡時間TRLがしきい値ThLを越えている場合には、リーン側過渡時間TRL劣化が生じていると判定され(ステップS219)、しきい値ThL以内である場合には、正常判定がなされる。なおしきい値ThB、ThAの設定によっては、ステップS218を省略し、ステップS216でNOと判定された場合には、そのままステップS219の判定を実行するようにしてもよい。 【0055】 そして、ステップS214、S215、S217、S219の何れかが終了すると、処理が終了する。これらの判定により、本実施形態においては、表1に示すようにリニア空燃比センサSW4の劣化により、どのようなエミッション低下が生じているかを分析することが可能になる。 【0056】 【表1】
【0057】 図9は図4における収束判定しきい値設定副ルーチン(ステップS3)の一例を示すフローチャートである。 【0058】 図9を参照して、この例では、予め、吸入空気量Qaからしきい値ThC、dThCを求めるマップ220を主記憶装置103内に記憶させておき、エアフローセンサSW2から検出された吸入空気量Qaからしきい値ThC、dThCを索引して(ステップS305)、収束判定しきい値ThC、dThCを設定するようにしている(ステップS306)。この形態では、吸入空気量Qaが少なくなるに連れて収束判定しきい値ThC、dThCの値を小さく設定し、収束判定を厳格にすることが可能になる。このように図9の実施形態では、エンジン10の吸入空気量Qaを検出するエアフローセンサSW2を設け、CPU101が機能的に構成する収束判定手段は、吸入空気量Qaが少ないほど収束条件を厳しくするものである。これにより、吸入空気量Qaの変化に伴う時定数τの判定基準を補正することができ、誤判定を回避することが可能になる。 【0059】 以上説明したように本実施形態では、所定の診断条件が成立したときに、外乱発生手段116がインパルス状の外乱LR、RLをフィードバック制御系110に出力することにより、外乱LR、RLを受けた実空燃比に対応する出力PFがリニア空燃比センサSW4から主制御要素114に入力される結果、このリニア空燃比センサSW4の出力PFの微分値DO2からむだ時間Lまたは時定数τの少なくとも一方を検出し、リニア空燃比センサSW4の過渡的な特性(むだ時間Lや時定数τ)の変化を検出して劣化診断を実行することが可能になる。このため、リニア空燃比センサSW4の劣化そのものばかりでなく、劣化態様を詳細に分析することも可能になる。しかも、劣化診断時にフィードバック制御系110の開ループ伝達関数GP(S)、GS(S)のゲインKPP、KSPを小さくする制御を実行しているので、外乱LR、RLを出力しているにも拘わらずフィードバック制御系110の発散を防止することができ、フィードバック制御系110の安定度を維持することが可能になる。 【0060】 また、本実施形態では、前記フィードバック制御系110は、エンジン10の排気ガスを浄化する触媒32の下流側に配置され、当該触媒に浄化された排気ガス中の酸素濃度を検出値SFとして出力する酸素濃度センサSW5と、前記酸素濃度センサSW5からの検出値SFが入力されるとともに、この検出値SFに基づく副補正量を基準入力IPに加える副制御要素115とを備え、前記ゲイン切換手段は、前記診断条件の成立時に副制御要素115のゲインを小さくするものである。このため本実施形態では、リニア空燃比センサSW4によるフィードバックのみならず、酸素濃度センサSW5も制御要素として機能し、基準入力IPを修正することになる。そして、この態様においては、劣化診断時に副制御要素115の伝達関数のゲインKSPもゲイン切換手段118によって制御されることになるので、外乱LR、RLを出力しているにも拘わらずフィードバック制御系110の発散を防止することができ、フィードバック制御系110の安定度を維持することが可能になる。 【0061】 また、本実施形態では、前記ゲイン切換手段118は、診断終了後において目標空燃比とリニア空燃比センサSW4の検出に基づく実空燃比との差が所定の条件を満たす場合に各制御要素114、115のゲインKPP、KSPを通常値に戻すものである。このため本実施形態では、各制御要素114、115のゲインKPP、KSPの変更後に大きなフィードバック補正が作用して発散が生じるのを防止し、制御の乱れによるエミッションの低下を抑制することが可能になる。 【0062】 また、本実施形態では、外乱発生手段116は、むだ時間Lの演算を終了した時点で外乱LR、RLの生成をリセットするものであるとともに、外乱LR、RLのリセット後にCPU101がリニア空燃比センサSW4の出力PFの収束を判定した場合に次回の外乱LR、RLを生成するものである。このため本実施形態では、リニア空燃比センサSW4の劣化状態に応じて必要最小限の期間だけ外乱LR、RLを出力させることが可能になる。従って、診断時間を可及的に短縮化できるとともに、むだ時間Lに基づく正確な劣化診断を実行することが可能になる。また、このように外乱LR、RLの出力時間を可変長とした場合であっても、ゲイン切換手段118によって、開ループ伝達関数GP(s)、GS(s)のゲインKPP、KSPが小さくされるので、外乱LR、RLの出力態様に対応して制御の発散を防止し、エミッションの低下を防止することが可能になる。 【0063】 以上説明したように本実施形態によれば、外乱LR、RLをインパルス状に出力してリニア空燃比センサSW4のむだ時間Lや時定数τを判定パラメータとして利用し、劣化態様を詳細に分析することが可能になるとともに、そのような外乱LR、RLを利用しているにも拘わらず、フィードバック制御系110の発散を可及的に防止することができるという顕著な効果を奏する。 【0064】 上述した実施形態は本発明の好ましい具体例に過ぎず、本発明は上述した実施形態に限定されない。 【0065】 例えば、劣化診断を具体化するに当たり、図8で示したフローチャートにおける過渡時間Tに代えて、選択される判定パラメータ毎(むだ時間L毎、時定数τ毎)に処理を実行するようにしてもよい。 【0066】 その他、本発明の特許請求の範囲内で種々の変更が可能であることはいうまでもない。 【図面の簡単な説明】 【0067】 【図1】本発明の実施の一形態に係るエンジンの系統図である。 【図2】本実施形態に係る劣化判定装置の制御回路ブロック図である。 【図3】図2の制御回路によって実現される劣化判定装置のブロック線図である。 【図4】本実施形態における劣化診断プログラムのフローチャートである。 【図5】本実施形態における劣化診断プログラムのフローチャートである。 【図6】図4および図5のフローチャートを実行することによって得られた信号のタイミングチャートである。 【図7】リニア空燃比センサのステップ応答特性を示すグラフである。 【図8】劣化判定処理の詳細を示すフローチャートである。 【図9】図4における収束判定しきい値設定副ルーチンの別の例を示すフローチャートである。 【符号の説明】 【0068】 1 劣化判定装置 10 エンジン 32 三元触媒 100 コントロールユニット 101 CPU(微分手段、判定パラメータ演算手段の一例) 102 補助記憶装置 103 主記憶装置 110 フィードバック制御系 111 基準入力要素 112 BIAS補正要素 114 主制御要素 115 副制御要素 116 外乱発生手段 118 ゲイン切換手段 DO2 微分値 DV 目標値 GP、GS 伝達関数 IP 基準入力 KPP、KSP ゲイン L むだ時間 LR、RL 外乱 Ne エンジン回転速度 PF 実空燃比に相当するリニア空燃比センサの出力 Qa 吸入空気量 SbS 副補正量 SF 検出値 SW1 回転角度センサ SW2 エアフローセンサ SW3 スロットルセンサ SW4 リニア空燃比センサ SW5 酸素濃度センサ T 過渡時間 TRL、TLR 平均過渡時間 τ 時定数
|
【出願人】 |
【識別番号】000003137 【氏名又は名称】マツダ株式会社
|
【出願日】 |
平成17年6月28日(2005.6.28) |
【代理人】 |
【識別番号】100067828 【弁理士】 【氏名又は名称】小谷 悦司
【識別番号】100096150 【弁理士】 【氏名又は名称】伊藤 孝夫
【識別番号】100099955 【弁理士】 【氏名又は名称】樋口 次郎
|
【公開番号】 |
特開2007−9711(P2007−9711A) |
【公開日】 |
平成19年1月18日(2007.1.18) |
【出願番号】 |
特願2005−187905(P2005−187905) |
|