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きょうの社説 2009年5月20日
◎トキ富山へ飛来 生息環境の調査を始めたい
新潟県佐渡市で放鳥された十羽のトキのうち、雌一羽が富山県内に飛来した。近いうち
に石川県にも来て、本州最後のトキが生息した能登でも薄いピンク色の翼を広げ、大空を舞う姿が再び見られるかもしれない。昨年、金沢大学主催のシンポジウムで、能登にはトキが生息できるような自然環境が保 たれているとした調査研究の成果が報告された。トキが生息できる環境は、ほかの野生動物にも人間にも優しい環境だろう。行政も加わって、生息環境に関する調査の網を北陸全体に広げてはどうか。 トキが生きていくためには、中山間地の棚田や里山などに、ドジョウやフナがすむ生態 系を必要とする。そうした場所を複数確保しておかないと、トキが定着しようがない。大型の鳥類が生息可能な里山や水田地帯、湿地帯などは、日本の原風景であり、種の多様性を支える「ゆりかご」である。環境省は二〇一五年までに六十羽のトキを自然に戻す計画という。石川県や富山県でもトキの定着を目指して、息の長い取り組みを始める価値はあるのではないか。 石川県はトキの分散飼育地に決定し、七月から、いしかわ動物園(能美市)に設置する 飼育施設の工事が始まる。受け入れ態勢が整えば、来年度にも佐渡トキ保護センターから繁殖経験のあるつがい二組四羽が移送され、繁殖・飼育がスタートする。 分散飼育は鳥インフルエンザ対策の一環だが、これとは別に、野生復帰の試みが始まっ た佐渡では、専門家も予想外のことが起きた。長い距離を移動しないはずのトキの雌四羽が本州に渡り、うち一羽は一日百五十キロ以上も移動したのである。日本と中国のトキは、遺伝子的に種が異なるほどの開きはないと見られていたが、飛翔能力は日本の古来種よりはるかに優れていた。 つまり放鳥場所がどこであろうと、トキは気に入った場所を探し、そこにすみつくだろ う。能登をはじめ、北陸はトキの安住の地に適している。焦らずに、トキがよみがえる夢をじっくり腰を据えて育てていきたい。この地でトキの姿が日常的に見られる日が意外に早く来るかもしれない。
◎漢検前理事長ら逮捕 検定の信頼回復の一歩に
日本漢字能力検定協会の前理事長親子が京都地検に背任容疑で逮捕された。漢字検定は
昨年度、受検者が約二百八十九万人に上った。社会に広く定着し、資格は進学や就職などでも優遇されている。その公共性の大きさからして、疑惑をうやむやにするわけにはいかないと検察は判断したのだろう。協会を私物化したと言わざるを得ない数々の疑惑は、二人が協会運営から手を引いても 消えることはなく、検定への不信感から受検者の大幅な減少も見込まれている。協会の自浄能力に限界がある以上、疑惑の解明は司直の手に委ねるしかない。協会側は旧体質を一掃し、検定の信頼を取り戻す一歩にしてほしい。 協会が多額の利益を得ていた問題が今年一月に発覚して以降、次々と浮上する疑惑は公 私混同も甚だしく、およそ公益法人とは思えないものばかりだった。逮捕容疑となった大久保昇前理事長らの親族企業への不透明な取引をはじめ、前理事長が協会名義のクレジットカードを私的に使用したり、在職中に退職金名目で約五千三百万円を得ていたことも分かった。 協会の理事や評議員には著名な国語学者や文化人らが名を連ねながら組織としては機能 せず、実態は大久保親子の家族経営に近いものだった。受検料などが私腹を肥やすために流用されていたとすれば、検定自体の信頼が揺らぐのもやむを得まい。 新体制となった協会はまず、これまでとは全く違う組織に変わったことを明確に示す必 要がある。透明性の高い運営は言うまでもなく、検定料の引き下げなど、受検者の理解を得る改善策を早急に実行に移してほしい。 刑事事件に発展してあらためて疑問に思うのは、監督官庁である文部科学省が五年前か ら再三、協会側を指導しながら結果的に私物化を許してきたことだ。漢字検定は文科省の国語政策にも合致するため、審査に甘さがあったのではなかろうか。今回の事件は、制度改革の途上にある公益法人の在り方と、それを監督する省庁側にも多くの教訓を含んでいる。
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