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社説:郵便幹部逮捕 不正許した責任は重い

 障害者団体向けの郵便料金割引制度が悪用された事件で、郵便事業会社(日本郵便)の新大阪支店の支店長と、新東京支店の総務主任の2人が郵便法違反の疑いで大阪地検特捜部に逮捕された。

 制度の条件を満たさない違法なダイレクトメール(DM)と知りながら約270万通の発送を承認し、広告主の企業などが本来支払う料金との差額約3億円を免れさせた疑いだ。ただ、これは氷山の一角に過ぎない。チェック機能の働かない日本郵便の無責任体質が不正を助長させてきたと言える。

 障害者団体は発行回数などの条件を備えていれば格安で刊行物を郵送できる。日本郵便は発送時の審査、定期調査などで違反がないかを確認する。ところが、少なくとも両支店は返送先として広告主の企業名が記載されていても黙認したり、返送先を障害者団体に変えるよう指示するだけの漫然とした対応だった。

 違法DMが表面化した後の日本郵便の調査で、07年4月から約1年半の間に発送された1億9000万通近くの8割が不正利用とわかった。とりわけ両支店の違法DMの取扱量や1回の発送量は他の支店より突出していた。

 広告・通販業界では10年以上前から制度が悪用されていた。DMの取り扱いをめぐっては、発送数の過少申告を見逃す見返りに業者から現金を受け取ったとして、郵便局職員が8年前に加重収賄罪で実刑判決を受けるなど、刑事責任を問われたケースもある。

 にもかかわらず、きちんとした審査態勢は取られてこなかった。割引料金でも多額の収入が得られることから、各支店は発送量のノルマを課せられ、民営化後は競争が激しくなったという。それが審査を甘くさせたとすれば筋違いだ。

 制度を悪用し、広告主は格安のDMを顧客に送ることで経費を減らせる。広告会社などは仲介手数料が得られ、実態のない障害者団体は名義使用料を受け取っていた。日本郵便のおざなりな対応がこのような違法ビジネスをはびこらせてしまった。

 違法DMにかかわった活動実態のほとんどない二つの障害者団体側からは、民主党の衆院議員が代表の党支部に献金されたり、自民党都議の個人口座に入金されていたことも明るみに出た。

 障害者福祉を目的にした割引制度は、一般の郵便利用料で補てんされている。日本郵便側に国民の負担で成り立っているという意識が欠如していたと言われても仕方がない。信頼を回復するためにも日本郵便は組織の問題点を洗い出し出直さなければならない。

毎日新聞 2009年5月20日 東京朝刊

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