有権者が七億一千万人という数字には圧倒される。インドの総選挙で、与党連合中心の国民会議派が、ヒンズー教至上主義を掲げる最大野党のインド人民党に圧勝した。
党の「顔」になったのは、三十八歳のラフル・ガンジー下院議員だった。父は故ラジブ・ガンジー元首相だ。そのラジブ氏とゆかりのある「インド僧」が四十余年ぶりに一時帰郷した。
新見市出身の佐々井秀嶺さん。一九六七年、法衣一つで渡印。中部インドのナグプールを拠点に、仏教復興に取り組んできた。ラジブ政権時代にインド国籍を得、ラジブ氏から法名を授かったという。
ブッダの生誕地であるインドの仏教はこの数百年間、消滅状態にあった。一九五〇年代、インド憲法を起草したアンベドカル博士が復興の灯を掲げ、佐々井さんがその遺志を継いだ。
その破天荒ともいえる半生は佐々井さんの評伝「破天―インド仏教徒の頂点に立つ日本人」(山際素男著、光文社新書)に詳しいが、過酷なカースト制度の下で苦しむ民衆を救うのは、平等、博愛を唱える仏教しかないとの思いが、長い苦闘を支えているのだろう。
岡山市で講演した佐々井さんは「私は『法兵』をもって仏法を守る」と語った。まるで新仏教が興った日本の鎌倉時代を彷彿(ほうふつ)させる。インドは広く、そして深い。