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きょうの社説 2009年5月19日
◎国内感染拡大 過剰反応は混乱を招く恐れ
新型インフルエンザの国内感染者が一気に百三十人を超え、患者が集中する兵庫県や大
阪府では週明けとともに、学校の休校措置が全域に広がり、イベント、スポーツ大会などの中止や延期も相次ぐ事態となっている。新型インフルエンザで怖いのは健康被害のみならず、ウイルス感染を恐れすぎて社会が混乱に陥り、経済活動にも必要以上の悪影響が及ぶことであり、今こそ冷静さが求められる局面である。橋下徹大阪府知事は舛添要一厚生労働相に「このままでは大阪の都市機能がまひする。 どこかで通常のインフルエンザ対策に切り替える必要がある」と訴えた。政府は今回の新型インフルエンザは弱毒性で、通常のインフルエンザと変わらないと説明しながら、その対応については強毒性の鳥インフルエンザを想定した当初の行動計画に縛られている印象も否めない。計画に弾力性を持たせる方針を決めたとはいえ、地方に判断を委ねる側面が強く、橋下知事の指摘は十分理解できる。 感染拡大を防ぐ社会的利益よりも経済的な損失などが上回れば対策の意味は薄れる。一 定の感染の広がりを前提にした社会の在り方を考える時期にきており、今後は感染拡大状況と社会、経済活動の兼ね合いを見極めながら、通常のインフルエンザと同様の対応に近づけることの可否についても検討が必要である。 大阪府や兵庫県内の動きをみると、知事や市長などが対応に苦慮し、最悪の事態や判断 ミスを恐れるあまり、対策の網を広げ、行動制限の方へ流れやすい傾向がみられる。国内感染が急速に広がったため、大きく構えるのはやむを得ない面があるとしても、今後、感染拡大とともに不安をあおるような過剰対応が広がっていけば混乱は避けられない。 神戸市は軽症患者については隔離入院でなく、自宅療養させることを決めた。指定医療 機関の病床数が足りなくなる恐れがあるためだが、こうした現実的な判断はこれから増えてくるだろう。感染拡大を抑えながら、社会の機能をできる限り維持していくバランスの取れた対策が求められている。
◎進む魚離れ 地産地消に力を入れたい
回転ずしを中心にすしの人気が衰えを知らない一方で、若者を中心に全世代で魚離れが
加速するという現象が続いている。すしのネタではマグロが断トツの人気であるが、水産物の世界的な需要拡大と漁獲規制で、輸入にばかり頼っておれない状況の中、さらに魚離れが進めば、漁業や水産加工業の経営悪化を招くという二〇〇八年度水産白書の警鐘が現実味を帯びてくる。先ごろ閣議報告された水産白書は、小売店やスーパーの店頭などで魚の調理法を普及さ せることや、学校給食に地元で水揚げされた魚を積極的に用いることなどを呼びかけている。日本海に好漁場を持つ石川、富山県は新鮮な地魚のおいしさを知ってもらう取り組みをさらに強めたい。 例えば、魚津漁協が最近、地場産の大衆魚ウマヅラハギを「魚津寒ハギ」のブランドで 売り出しに力を入れているように、高級魚だけでなく近海で捕れる大衆魚にもっと光を当て、広報活動も活発に行って需要の拡大を図る努力、工夫が求められる。 白書によると、魚介類の消費が肉類を下回る状況が〇六年から続いている。しかし、大 日本水産会の昨年の調査では、魚料理が「好き」な子どもは46%に上り、「嫌い」は11%弱に過ぎない。 また、母親の80%以上は「子どもに今以上に魚を食べさせたい」と思っている。とこ ろが、調理や後片付けに手間がかかるといった理由から、実際には肉料理などに傾いているのが実情であり、このギャップを埋める取り組みが重要である。幸い、食の地産地消や食育が高まりを見せている。行政や関係団体は、魚介類の伝統的な料理法の紹介や、豊かな栄養特性などに関する情報提供を絶えず心がけてもらいたい。 家庭での魚離れの背景として、近海魚を中心にした町の「魚屋さん」が減り、新鮮な地 魚が入手しにくくなったことも挙げられる。そうした点は、伝統の対面販売を続ける金沢市の近江町市場は貴重な存在であり、再出発を機に日本の魚食文化を支える役割をさらに力強く果たしてほしい。
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