北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の取材でフランス東部アルザス地方のストラスブールを訪れた。ドイツ国境の街で思い出すのが、小学校の国語教科書にあったドーデ作「最後の授業」。十九世紀末の普仏戦争で敗れ、フランス語を禁じられたアルザス住民の悲劇を描いた作品だ。
不朽の名作と思いきや、パリ支局同人によると、この地方でもほとんど知られていないだろうという。試しに街のカフェで若いフランス人の親子連れに聞いてもらったが、やはり首をかしげていた。
小説にはそもそも事実誤認があり、この地方では元来ドイツ語に近いアルザス語が使われていたという。親子連れも「ここに移り住んでしばらくたつが、アルザス語が分からないのでなかなか地元に溶け込めない」と漏らしていた。母国語、愛国心とは何か。ちょっとした会話が生きた教科書になった。 (岩田仲弘)
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