銚子市立総合病院休止問題を巡る出直し市長選で、リコール(解職請求)推進派の候補4人が共倒れとなったものの、失職に追い込まれた岡野俊昭前市長は選ばれなかった。政党や団体が関与しない草の根的なリコール運動の限界と可能性を共に示した格好だ。
医師不足と自治体の財政難から各地で公立病院の縮小や廃止が相次ぐ中、岡野氏は昨年7月、市立病院(393床)の診療休止を決断。9月末で医師や看護師ら計195人を一斉解雇する強引なやり方に市民の批判が噴出した。
今年3月の住民投票では、リコール反対1万1590票に対し、賛成は2万958票とダブルスコアだった。市民の怒りは一点に集中し、岡野氏を失職へ追い込んだ。
その後の出直し選挙では、リコール運動の母体となった「何とかしよう銚子市政・市民の会」代表の茂木薫氏ら、推進派4人が並び立った。「分裂した」という見方に、4人は「運動は市長を失職に追い込んだ時点で終わった。分裂ではない」と反論した。
だが、有権者には理解しづらかったようだ。出漁準備に忙しい漁師(60)は、あきれた表情で言う。「候補を1人に絞るべきだ。リコールって何なのか考えちゃうね」
4人の訴えの違いも不鮮明だった。市民の怒りは行き場を失い、行政手腕を期待して中立的な元職の野平匡邦氏へ流れた。推進派4人の得票は合計1万1430票で、野平氏1人の票に及ばない。
会代表の茂木氏は17日深夜、敗戦の弁で「リコール成立後のことは考えていなかった。責任は、代表の私が立候補したことで果たした」と述べた。
ただし、リコール運動の関係者は異口同音に「市長候補を絞り込もうとすれば、紛糾して運動自体が空中分解してしまっただろう」と振り返る。ここに草の根のリコール運動の難しさがあるようだ。
とはいえ「リコールはそもそも無意味だった」ということにはならない。「失職に続き市長選でも岡野氏を落選させたのは大きな成果だ」との声もある。市民は自らの手で市長の首をすげ替えた。その経験が今後市政を活性化させていくという期待と爽快(そうかい)感が、市民の間に広がっている。【新沼章】
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当 15289 野平匡邦 61 無元
7969 岡野俊昭 63 無前
4256 茂木薫 58 無新
3151 石上允康 63 無新
2709 松井稔 45 無新
1314 高瀬博史 59 無新
毎日新聞 2009年5月19日 地方版