森田健作知事の剣道2段は「自称」AERA5月18日(月) 13時21分配信 / 国内 - 政治だが、この男の言葉は軽い。完全無所属もそう。剣道2段までそうだった。── 剣道2段。 森田健作千葉県知事(59)のプロフィルには、しばしばこの一項目が登場する。 1970年代に大ヒットしたテレビドラマ「おれは男だ!」で剣道部主将の高校生を熱演し、「青春スター」の地位を築いた森田氏。実生活でも小学生のころから道場に通っていたとアピールし、「森田健作といえば剣道」というイメージをつくり上げてきた。 ■全剣連の段位はなし 3月の知事選を含め、これまでの選挙でもそのイメージを活用。しつけや武士道精神の重視など、政治家としての主張に説得力をもたせてきた。 ところが、剣道2段は森田氏の「自称」に近いことが、アエラの取材でわかった。 剣道の段位は、全日本剣道連盟(全剣連)が開催する審査会で認定されたものを指すのが一般的だ。しかし、森田氏は全剣連の段位は取得していない。 森田氏に説明を求めたところ、所属する「サンミュージックプロダクション」の制作部長で、森田氏のマネジャーも務める石本耕三氏が代わりに説明した。 それによると、親類の「範士(剣道の最高位者)」が開いた道場に通っていた森田氏は、中学3年か高校1年のとき、範士に「君はもう2段だ」と言われた。そのことを受け、「剣道2段」を名乗っているのだという。 「33年間、森田(知事)のマネジャーをしていますが、今回本人に事情を聞いて、私も初めて知りました」 と石本氏は言う。 有段者という触れ込みは、3月の知事選でも広められた。 投票日前に各候補者の人物像を伝える記事で、地元紙などが森田氏について「剣道二段」と紹介。当選後にも、共同通信の配信で各地の新聞が掲載した記事で、やはり「剣道二段」と報じられた。 2段を公言することで、有権者や一般の人々に、誤った認識を与えてきた恐れはないのだろうか。 「ないと思っています」 森田氏の考えを代弁するとして、石本氏はそう言い切る。 「森田は、『2段の実力があると言われたのだから、自分は2段だと思っている』と言っています」 自らの言葉を周囲がどう受け止めるかは重要ではない。自分が意図した意味がすべてであり、聞く人はその意味で理解すべきだ。 そう言い放つかのような森田氏の姿勢は、知事に当選した直後から問題を引き起こしている。 とりわけ深刻なのが、「完全無所属」問題だ。 ■「完全無所属」は虚偽 森田氏は今回の知事選で、「政党に振り回されず、県民第一の政治を実現する」と強調。どの政党からも距離を置き、支援は受けないとして、「完全無所属」を宣言した。ビラなどにも「完全無所属」と明記。政党とつながりのある「無所属」の対立候補とは違うんだと、力を込めた。 ところが当選後、自民党の東京都衆院選挙区第2支部の支部長を務めていることが表面化。さらに、同支部が集めた資金が、知事選で使われたのではないかとの疑惑も浮上した(森田氏はこの疑惑を否定)。 また、選挙戦では森田氏支援を表明した自民党県議33人が、演説会などで場所取りから段取りまでをサポート。当選後は、同党の菅義偉選挙対策副委員長が「実質的に我々が応援した候補が勝利したのはうれしい」と述べたと、新聞が報じた。 「『完全無農薬』を売りにしていたのに、実際は『自民党』という農薬漬けだった」 森田氏をそう非難するのは、県議の吉川洋氏だ。 「『完全無所属』と聞いて、政党とまったく関係がないと思い込み、そういう人に知事になってもらいたいと、票を投じた人も多いだろう。森田氏は政党不信を逆手に取り、有権者に虚偽を伝えて当選した」 初登庁した4月6日の記者会見では、この点に質問が集中。森田氏は「党の公認がなければ無所属にしなければならない」などと説明するとともに、こうも言った。 「無所属だから、無所属でしょう」 こうした発言に業を煮やした県民らは団体を結成。同月中旬、森田氏が公職選挙法(虚偽事項の公表)に違反したなどとして、千葉地検に刑事告発した。森田氏は、その翌日の会見で、「完全」がついていたので誤解した人もいると指摘されると、次のように述べた。 「もし、そういうことがあったならば、残念だ」 本当に残念なのは、誤解させられた県民のはずだが、ここでも森田氏には、自分の言葉が招いた「混乱」について、反省したり悪びれたりする様子はない。 ■当選直後「ダム推進を」 もしかしたら、確信的に誤解を生じさせ、それに乗じているのではないか。または、自分をちょっとぐらい飾ってカッコよく見せるのは、演出として許されると考えているのではないか。そんなふうにさえ感じさせる口ぶりなのだ。 森田氏の発言をめぐっては他に、八ツ場ダム(群馬県)建設に関しても、不信を募らせる県民がいる。 「精査しながら、関係都県と協議した上で対応を考える」 利根川水系の治水と利水を目的に国と関東6都県が進めてきた同ダム事業について、森田氏は選挙期間中、そう表明していた。相当の時間をかけて、是非を検討するとも取れる言葉だ。 ところが現実には、知事に就任するやわずか6日目に、自民党系議員が中心の会合で、「八ツ場ダムはやらなきゃだめ」と推進の立場を明確化。選挙戦での発言は何だったのか、と問う声が県内外で出ている。 100万を超す票を獲得して当選してから、まだ2カ月足らず。しかし、この間に噴出した森田氏の発言をめぐる問題は、同氏の人間性に対する評価にも影響を与えているようだ。 森田氏を告発した団体は、4月25日と5月10日に県内の主要駅前で、森田氏は「ウソつき」と思うかと通行人に質問。それぞれ255人と354人が応じ、ともに8割以上が「そう思う」と答えた。 森田氏は2004年に出した著書で、こう述べている。 「僕だって、いっぱい嘘をついたことがある。ただし、人の人生を狂わせる嘘と、人の足を引っ張る嘘だけはつかない。これだけは自信がある」 それ以外の「うそ」も、政治家の場合には深刻な問題になり得ることを、森田氏は肝に銘ずるべきだろう。編集部 田村栄治 (5月25日号)
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