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社説

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感染拡大―現実に合った指針を急げ

 国内での新型の豚インフルエンザへの感染者が160人を超えた。渡航経験者以外で初確認されてからわずか3日で、数は世界4位に躍り出た。

 兵庫県と大阪府では一斉休校の措置がとられ、修学旅行も取りやめられた。従業員の感染がわかった店が休業する動きもある。

 人の動きを考えれば、感染が2府県以外にも広がっているのは確実だ。拡大を抑えることは必要だが、どの範囲で休校や休業をするのか。経済社会への影響も考えて判断せねばならない。

 今それを迫られているのが自治体のトップたちである。

 昨日、開かれた全国知事会議では、「ウイルスが弱毒なら、それを前提とした行動計画に転換してほしい」と意見が出た。大阪府の橋下徹知事は「本当に弱毒性を前提としてやっているのか明確に伝わってこない」と舛添厚生労働相に苦言を呈した。

 国内外の例では、通常のインフルエンザと同様に感染力は強いが、多くの患者は軽症のまま回復している。このため政府の専門家諮問委員会は、鳥インフルエンザを想定した行動計画を「弾力的」に運用するよう提言した。

 ところが、その「弾力」の判断が自治体に任されているのだ。

 新型インフルエンザに臨む姿勢は政府がまず、統一的に示すべきである。舛添厚労相は昨日の会見で「総じて言えば季節性インフルエンザと変わらない」として、修正の検討を表明したが、自治体が判断できる具体的な指針が早く必要だ。

 「水際対策」の継続で、感染者と同じ航空便で近くにいた人に対する「健康監視」の作業に、自治体は悲鳴を上げている。国内発生早期の対策である「疑い例はすべて検査し、感染が強く疑われる場合には軽症・重症問わず措置入院」という方針は、大阪、兵庫ではもう対応しきれていない。

 政府は現段階を発生早期としているが、患者が感染したルートを追い切れないなど事態が進行した現場での対応能力とは、すでにずれが出ている。蔓延(まんえん)期ととらえた対策が必要だ。

 治療は早期発見、早期治療が基本だ。日本にはタミフル、リレンザなどの治療薬が3800万人分備蓄してあり、現時点では十分だ。

 海外からの報告では、糖尿病やぜんそくなど慢性病の人、妊婦の人たちが重症化する可能性がある。病院は、急がない手術を先送りするなど重症者にも備えた態勢作りを急ぐ必要がある。

 学校や保育園の閉鎖が長引けば、子どもがいる医師や看護師の勤務など診療態勢にも影響が出るだろう。

 感染拡大の防止と社会生活の維持という、難しいバランスをとる施策が求められる。問われているのは、政府の危機管理能力である。

インド総選挙―シン政権が担う重い責任

 5年ぶりのインド総選挙で、国民会議派を軸とする与党連合が過半数に迫る議席を獲得した。与野党接戦という事前の観測を覆す勝利だ。

 04年から政権を率いるシン首相(76)の続投が確実となった。

 インドでは、独立闘争以来の国民会議派と、ヒンドゥー至上主義のインド人民党(BJP)が長く拮抗(きっこう)してきた。だが最近は、地域小政党や左翼政党が勢力を伸ばし、大政党はそうした中小政党と連立しなければ政権を維持できない不安定な状態が続いていた。

 今回もその傾向が強まると予想されたが、国民会議派は545議席のうち単独で200議席以上を確保する見通しだ。中小政党との連立は変わらないが、基盤は格段に強くなり、安定した政権運営が可能になりそうだ。

 さまざまな要因が絡まっての結果だが、結局のところ、貧困対策を重視してきたシン政権の実績と姿勢が評価されたと見るべきだろう。

 BJP中心の前政権は市場経済化を推し進め、結果として貧富の格差が広がったと批判されていた。世界経済危機の波が押し寄せる中で、国営企業の民営化や規制の緩和などに慎重だったシン政権の経済政策が、有権者に安心感を与えたのではないか。

 米国と原子力協定を結ぶなど対米関係を劇的に改善し、中国とも良好なつながりを築いてきた。こうした外交面での手腕も評価されたに違いない。

 選挙戦で国民会議派は、ネール初代首相、第2代のインディラ・ガンジー首相らを生んだ「ネール・ガンジー王朝」の4代目、38歳のラフル・ガンジー氏を将来の指導者として前面に立てた。これも、古い政党のイメージをぬぐう大きな効果があったようだ。

 インドの周囲を見回してみれば、イスラム過激派の攻勢にさらされるパキスタンやアフガニスタン、内戦に揺れたスリランカ、軍政が続くミャンマー(ビルマ)など、いずれもきわめて不安定な状況にある国ばかりだ。

 この地域に人口11億人のインドが、安定した民主主義国家として存在する意味は大きい。シン政権には引き続き、南アジア地域の安定のために建設的な役割を果たしてもらいたい。

 情報技術産業などを中心に高度成長を続けてきたインド経済だが、世界経済危機の波は押し寄せている。07年に9%台だった国内総生産の伸びは今年、5%程度となる見込みだ。

 だが、中国とともに、世界経済を回復させる牽引(けんいん)役としての期待は高い。貧困対策と同時に、より開放的な経済への改革を続ける必要がある。

 地球温暖化対策や自由貿易体制の強化などでも、新興国のリーダーとして担うべき国際責任は大きい。安定した政権基盤を生かして、大胆な指導力を発揮すべきだ。

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