新型インフルエンザの国内での感染者があっという間に100人を超えた。学校での集団感染を中心に、家族や企業関係者にも感染者が出ている。
ウイルスの性質や人の動きを考えると、感染が特定の地域にとどまっているとは到底思えない。短期間のうちに、別の地域でも同じような新型の流行が明らかになると覚悟したほうがいい。
国は、対策の「第2段階(国内発生早期)」には、感染が強く疑われる人を、すべて措置入院させることにしてきた。しかし、感染症病床の数は限られ、今回のように集団感染が起きれば、あっという間にパンクしてしまう。
流行の状況からも、物理的に対応できるベッド数からも、「第2段階」を超え、すでに「第3段階(国内蔓延(まんえん)期)」に入っていると考えるのが妥当ではないか。
国は、蔓延期に向けた具体的指針を早急に示すことが大事だ。決断の遅れは混乱を招く。
その時に大事なのは、今回の新型ウイルスの特徴を踏まえ、「国民の健康被害を抑えること」と、「社会機能や経済活動を混乱させないこと」のバランスを賢く取ることだ。
現在の計画でも、蔓延期になると発生早期とは大きく対応を変え、軽症者に自宅療養を求める。さらに、発生初期に患者を診る「発熱外来」だけでなく、一般の医療機関でも感染者の診療に当たってもらう。
今のところ、新型インフルエンザに感染しても、多くの人が軽症で治っている。その点では、自宅療養を求めるのは理にかなう。ただ、誰が重症化するか、まだわからない要素があり、その警戒は必要だ。
現在、抗インフルエンザ薬は医師の処方が必要だ。薬を求めて医療機関を訪れる人も増えると思われる。感染すると重症化する恐れのある慢性疾患の患者や妊婦と、感染者が接触せずにすむ体制が一般の医療機関に整っているか。薬などが十分にあるか。点検し、対応策を取ることが急務だ。
医療機関に感染者が殺到し、機能不全に陥ることも心配だ。国は、自宅療養する患者への対応として、薬の宅配や往診を例示している。地域の保健所や医師会は、安心して自宅療養できるよう、そうした可能性も探ってほしい。
今回は、「海外渡航者」とは別に、インフルエンザ患者の集積に注目しなかったため、感染者の発見が遅れた。インフルエンザのように感染力の高いウイルスの場合、「国内発生早期」から「蔓延期」に至るまでに、ほとんど間がないこともわかった。今後の対策の教訓としたい。
毎日新聞 2009年5月19日 1時49分