世界的大流行を指す「パンデミック」という言葉を初めて知ったのは十年以上前の一九九八年暮れだった。本紙の連載「忍び寄る新インフルエンザ」に出てきた。
連載は古代ギリシャの医学の祖ヒポクラテスが既にインフルエンザを記録していることから始め、新ウイルス発生の危険性を説いていた。豚が鳥と人、双方のウイルスに感染し、その体内で遺伝子の交雑が起きて人の新型ウイルスが誕生する可能性も記されている。
そのような経過をたどったのだろうか。発生した新型インフルエンザは世界各地に広まり、国内でも関西圏の高校生らが感染したことが確認された。人から人へ感染が拡大している可能性が高いという。
病気、それも相手が新手のウイルスであれば、もちろん怖い。けれども、人間には事前に危険を予見し、備えるという優れた特質がある。この武器を駆使し、現に一定程度の備えは行われてきた。
ウイルスの感染力は季節性より強いものの、幸いにも毒性はそれほどでないとみられている。しかし、感染を繰り返すうち悪質化しないとも限らない。拡大の阻止に努力を傾けたい。
まだ「敵」についての知識が足りず、対策には手間も費用もかかる。国、自治体、企業、個人と各レベルで、あわてず冷静に対処する姿勢が肝要だ。