日本メーカーとは別の道を行く、ハーレーダビッドソン ジャパンの戦略
日本でのハーレーダビッドソンの成長に腕を振るったのが、前社長の奥井俊史氏だ。以前、ハーレーの販売は代理店による輸入販売だったが、89年に日本法人であるハーレーダビッドソン ジャパン(以下HDJ)を設立した。奥井氏は90年10月にトヨタ自動車からHDJに移り、91年4月に代表取締役社長に就任。正規販売網の整備やマーケティング戦略など、経営全般で強いリーダーシップを発揮した。
その戦略は常識の否定からスタートしている。「挑まない」「比較しない」「非凡に徹底」「マスマーケティングに頼らない」など。日本の二輪メーカーが性能や価格など、あらゆる面で競争を行っている中で、まったく別の道を歩んだ。
具体的にはメーカー、販売店、ユーザーの3者間の「きずなの構築」、イベントやカスタム、ファッションなど、「ライフの提供」に注力した点が挙げられる。徹底的に顧客の視点に立ち、それぞれの顧客に対し、きめ細やかなサービスを提供。販売店も仲間と考え、共に儲ける体制を整えてきた。
特にハーレーで驚かされるのは、イベントの多さだ。富士スピードウェイで毎年行なわれる「ブルースカイヘブン」や長崎の「ハーレー フェスティバル」をはじめ、販売店主催を含めて多くのフェスティバルを開催している。女性向けの体験試乗会「レディース デビューライド」などもある。また、ハーレーのオーナー「H.O.G.」(ハーレー オーナーズ グループ)の会員を対象にした各種パーティー、ツーリングラリーも数多く行なっている。こういったイベントでハーレーのオーナーは仲間と知り合い、ハーレーに乗る楽しみを増やしていく。
カスタムもハーレーの楽しみ方の一つだ。純正のままハーレーに乗るオーナーはむしろ少なく、ほとんどは何らかのカスタムが施されている。サードパーティーのパーツも豊富だが、メーカー自らがカスタムを主導している点がハーレーらしい。毎年HDJが発行する純正パーツ&アクセサリーカタログは膨大なページ数を誇り、バイクのパーツからウェアなどのファッション関連まで、幅広く網羅している。
つまり、バイクという「モノ」を売るだけでなく、ハーレーに乗るという「コト」の包括的な楽しみをオーナーへ提供する戦略が、現在のハーレーの成功につながった。そして創業当時には社員数20人足らず、販売店数34社だったHDJは、現在は従業員100名以上、正規販売社数137社まで成長している。