Second Lifeは終わらない 増えるユーザー、成長する経済
5月18日12時31分配信 ITmediaニュース
Second Lifeのログイン画面 |
Second Life内に「SIM」(島)を構えて参入していた大企業も、ほとんどが撤退。「Second Lifeは失敗だった」――そんな論調で語られることもある。
だがSecond Lifeは終わっていない。企業の参入は急速に減ったが、アクティブユーザー数は着実に伸びている。日本のアクティブユーザー数は、ブーム当時の2〜3倍。Second Life内の経済も成長しており、2008年年間で3億6000万ドル(約360億円)分の仮想通貨が流通している。経済メディアや大企業の失望とは裏腹に、コミュニティーは成長を続けているのだ。
07年当時のブームは何だったのか、今Second Lifeでは何が起きているのか。Second Lifeベンチャー・マグスルの新谷卓也社長と、米Linden Labの日本担当責任者ジェイソン・リンクさん、ブーム当時からのユーザーであるmina junさん(アバター名、30代女性)に聞いた。
●Second Lifeとは
Second Lifeは米Linden Labが2003年6月に正式公開した3D仮想世界で、米国では06年半ばごろから、日本では07年初めごろからメディアをにぎわせ始めた。
最大の特徴は、アバターアイテム、建物、家具、アミューズメント施設など世界内のアイテムがすべてユーザーによって作られていること。専用ブラウザには3Dモデリングツールが組み込まれており、ユーザーが自由にアイテムを創造できる。
基本機能の利用は無料だが、家や店などを建てるための土地は有料。仮想通貨「リンデンドル」を使い、ユーザー間でアイテムの売買も可能だ。リンデンドルは現金に換金できる。
Second Life内で100万米ドルを稼いだミリオネアユーザーが06年末に話題になり、米国で報道が過熱。その勢いを受けて07年には日本でも話題になり、大手企業の参入も相次いだ。
●「訳の分からない人がみんなやって来た」
「ブームってこういうものなんだな、と思った」――マグスルの新谷社長は07年当時をこう振り返る。「訳の分からない人たち……訳を分かろうともしない人たちがみんなやって来ていた。99%が“関係ない”人だった」
同社は2006年11月、Second Lifeに参入。「マグスル東京」という名のSIMを区画に分け、企業・個人向けにレンタルする事業を始めた。
06年12月26日、日本経済新聞がSecond Lifeに関する記事を1面に掲載したことを皮切りに、翌年1月からSecond Lifeに関する報道が急速に盛り上がり、マグスル東京にも申し込みが殺到。4月3日には、1000あった区画が売り切れた。
日経に続くように、さまざまなメディアがSecond Life特集を組み、同社にも取材が殺到。大手テレビ局はほぼすべて取材に訪れ、新聞、経済誌、サブカル誌など、あらゆるメディアが取材に訪れ、Second Lifeを報道していった。
企業から「Second Lifeを説明してほしい」と声もかかった。「営業に回ったこともないのに、いきなり大手から話が来た」と振り返る。
●当時の参入企業は――「実験」か、パブリシティー効果狙い
同社はSecond Lifeの参入支援事業も展開。アトラスやインテリジェンス、H.I.S、サントリーなどのSIMを手がけた。
Second Lifeに参入する企業には2種類あったという。(1)3次元仮想世界で新たなマーケティングなどを「実験」してみたい企業、(2)参入によるパブリシティー効果を狙った企業――だ。
Second Life内の土地を借り、立派な3Dの建物を構築して参入するには、最低数百万円かかる。だが当時の日本のユーザー数は多く見積もっても3万人程度と少なく、企業がSIMを作るなどして参入しても、収益はほとんど期待できない。
このため参入企業は、Webに積極的で予算に余裕があり、3D仮想世界でマーケティング実験を行える大企業か、参入が報道されることによるパブリシティー効果を期待する企業に限られていた。
「Second Lifeには人がいない」「Second Lifeの企業参入は失敗」――07年春以降、メディアでこういった記事が目立ち始めると、参入企業が急速に減少。「参入しようにも、企業内での稟議が通らなくなった」と新谷さんは解説する。
Second Life内で販促物を配布したり、アンケート調査を行うなどマーケティングを淡々とこなしていた企業は、長期的視点で淡々と実験を続けていたが、「この不況で予算が取りづらくなり、この3月でほとんど撤退している」(新谷さん)という。
●「勝手に熱が上がり、勝手に冷めていった」
運営元はブームをどう見ていたのだろうか。「勝手に過剰に熱が上がり、勝手に冷めていった」と、Linden Labのリンクさんは冷静に振り返る。
リンクさんは当時から、企業参入の盛り上がりに違和感を覚えていたという。「企業に参入してもらえるのはうれしいが、どういうコミュニティーなのかを理解せず投資するのはリスクが大きいのでは、と思っていた」
参入はなぜ過熱したか。「ITに乗り遅れた企業が、『今度こそは乗り遅れまい』と焦っていたのでは」とリンクさんは分析する。Webに焦っていた企業が、Web2.0の次の本命ともてはやされたSecond Lifeに飛び付いたのも無理はない。
Second Lifeはもうかるという話が一人歩きしたことも、ブーム過熱の背景にあったとみる。Second Life内の土地の転売で100万ドルを稼いだアンシェ・チャンさんが注目を浴び、経済系メディアで大きく報じられたことが、「Second Life=もうかる」という誤解を広げた。
当時、Second Lifeに参入した企業のSIMには、繰り返し訪れたいと思える魅力あるものは少なかった。「“ハコモノ”を作れば人が来ると勘違いしていたのでは。仮想世界で何をしたらいいかを追求せず、Web1.0の広告ベースのモデルを導入しようとしていた」ことが失敗の理由だとリンクさんは分析する。
●「07年のころの友人はいなくなった」が……増える日本のユーザー
ユーザーはブームをどう見ていたのだろうか。ブームをきっかけにSecond Lifeを始めたminaさんは、当時からアバターアイテムなどを創作し、自分の店で販売し続けている。
06〜07年、ブームが盛り上がり始めたころのSecond Lifeはminaさんにとって「未知なる世界」で、「毎日、新しいSIMや企業参入ニュースがあったので、いろいろな場所を冒険したり、勉強したり、実験していた」と振り返る。
だが今は「新しい場所が見つかるというよりも楽しかった場所が撤退するという知らせや、お友達がやめていくということのほうが多いので、若干寂しい感じはある」という。
「07年のころ知り合った友人は、ほとんどいなくなっている」とも話す。特に目的もなく、流行っているからと何となく始めた人は、早々に飽きて辞めていくことが多いようだ。その一方で、創作に打ち込むクリエイターは残り、創作物のレベルを上げているという。
複雑なオブジェクトを作れるようになったり、空や光などを自由に調節できるようになるなど、創作ツールも進化。「高度な技術に対応できる一部のクリエーターたちが残り、07年とは比べ物にならないくらいにハイクオリティーなものを量産するようになった」そうで、日本最大のSecond Lifeブログコミュニティー「ソラマメ」にも、多くのクリエイターが参加し、盛り上がっている。
●増える女性ユーザー アバターで本格ファッションを楽しむニーズ
minaさんの店はブーム当時より拡大し、今も毎日、多くの人が訪れている。来訪する日本人の比率は半数ぐらい。ブーム当時より増えているという。
実際、日本人のユーザーは増えている。Linden Labによると、Second Lifeにアクセスするユーザー数は月間約100万で、うち日本のアクティブユーザー数は4万5000人程度とブーム当時の2〜3倍に拡大。ここ最近は右肩上がりに伸び続けているという。
特に、主婦など女性ユーザーが増えているようだ。ファッションに敏感な女性ユーザーが、高価なアバターアイテムをひんぱんに購入し、アバターを美しく着飾って楽しんでいるという。
記者もminaさんに連れられ、アバターアイテムの有名店をめぐってみた。ヘアスタイル、肌色、メイクから、シャツやワンピース、ドレス、アクセサリーまで、現実世界に存在するありとあらゆる服飾品があり、細かいディテールまで丁寧に作り込んである。
ファッションにそれほど興味のない記者だが、minaさんとショッピングをし、試着したアバターを見てもらっては「かわいい?」と聞いたりしていると、まるで現実世界でショッピングを楽しんでいるような錯覚を覚え、楽しかった。
最近では、女性誌もSecond Lifeに参入。25歳前後をターゲットにした「ヴァンサンカン」は、本誌に掲載した商品を3Dアバターで紹介したり、イベントを開いたりしている。
Second Life内で人気の服が、本物の服として販売されたこともある。Second Lifeで有名なクリエイター、ノンコ・ノエルさんがデザイン・販売した着物を、着物メーカーの「撫松庵」(ぶしょうあん)が商品化し、伊勢丹が販売。着物はすべて売り切れたという。
●多様化・リアルになった職業
Second Life内の職業も多様化している。アバターアイテムのクリエイター、デザイナーやミュージシャン、映画監督など、多様化・本格化し、よりリアルに近付いてきている。
有名洋服ブランドもあり、専業モデルを擁してファッションショーを行うことも。定期的にカーレースを行うレーサーもいれば、それを応援するチアリーダーもいる。Second Life内で“俳優”を集め、アニメ映画を撮影するクリエイターなど、あらゆる職業があり、“プロ”としてお金を稼ぐ人たちがいる。
Second Life内の“撮影所”で撮影されたアニメ映画「漆紅」
インディーズアーティストによる仮想ライブも盛ん。本格的なライブになると、演奏するアーティストだけでなく、ステージ構成やライト演出、衣装を提供するクリエイターなどそれぞれの専門家が集まり、チームを組んでライブを演出する。世界中のショップのオーナーになり、稼いだ資金で芸能人を応援する人もいる。
Second Lifeのみで演奏活動を行うアーティスト「chouchou」
「壮大なごっこ遊びが行われている」(新谷さん)
――そこにはあらゆる職業と人生があり、まさに第2の人生、「Second Life」が展開されている。
●成長する仮想経済
Second Life内で流通するリンデンドルの総額も右肩上がりに増え続け、08年には3億6000万ドル(約360億円)分に上った。
マグスルはSecond Lifeに設置した「自動販売機」で、日本円とリンデンドルの両替業を営んでいるが、取扱高は増加傾向。1カ月に2000人ほどの利用があり、1人1回当たりの販売額は平均3500円、月間1600万リンデンドル(約1000万円分)の売り上げがあるという。
「仮想現実の中でお金をかけることに抵抗のないプレーヤーたちが、特にファッション分野で、以前より高額なお金を使うようになっている感じがする」と、minaさんは話す。
マグスルの新谷社長によると、「Second Lifeだけで生計を立てている人は何十人もいるし、年収500万円を超えるような人もいる」という。その多くがアバターのクリエイター。特に日本人の繊細なデザインは海外ユーザーにも人気だそうだ。
ブーム当時、Second Lifeビジネスの中心だった、SIMの土地の切り売りは下火だ。「環境SIM」と呼ばれる低価格なSIMの登場や、SIMを個人で購入し、友人らだけを呼んでプライベート空間でコミュニケーションするユーザーが増えたことなどが要因。国内事業者が運営するSIMも撤退が相次いでいる。
「今も残っているコアユーザーは、住む場所と遊ぶ場所を分けている」(新谷さん)――ショッピングセンターやライブ会場のある街で、おしゃれに着飾って買い物やライブを楽しみ、友人とのコミュニケーションはプライベート空間の我が家でなど、生活の場を使い分けるユーザーが増えているという。
●Second Lifeは「今の方が面白い」
Second Lifeはブーム当時より今の方が面白いと、3人は口をそろえる。
当時は、Second Lifeはもうかるという勘違いが先行し、面白みのない企業のSIMが乱立。「Second Lifeでできることの模索以前に、流行るか流行らないかや投資価値や費用対効果のみで騒いでいた」とminaさんは振り返る。
ブームが落ち着いた今は、企業や投資家のノイズが収まり、個人クリエイターが目立ってきた。「Second Lifeの楽しさや深みは、07年のそれよりも強まってきているような気がする」(minaさん)
Second Lifeに国境はない。「わたしは英語が全くできないが、国境の関係無い仮想世界の中で、作品を通じてダイレクトにさまざまな国のクリエーターやプレーヤーと交流できることは、本当に素晴らしいことだと思う」(minaさん)
現実社会と同様に“生活”でき、ビジネスでき、世界の人とコミュニケーションできる。ブーム時にいわれていたSecond Life可能性が、ブームが落ち着いた今、花開いてきている。
最終更新:5月18日16時29分
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