第53回
慰安婦決議案に毅然と反対するイノウエ氏
国際問題評論家 古森 義久氏
2007年7月17日
米国下院の外交委員会が慰安婦問題で日本政府を糾弾する決議案をついに可決した。6月26日のことだった。「ついに」と書いたのは、この採決が当初、提案者のマイク・ホンダ議員らが予告していた時期よりずっと遅くなったからである。しかし委員会を通過したこの決議案は、いまや下院の本会議で審議され、採決される見通しが強くなった。しかも7月中にも採択されそうなのだ。
この決議案自体には拘束力もなく、日本への実質上の影響は少ないようにもみえる。だが日本側での反発も激しい。日本側からすれば、60年以上も前の案件をいまさら外国、しかも同盟国の議会から糾弾されることはいかにも不自然となる。そもそも決議の内容は日本側の事実関係の反論を一切、封じたままの一方的断罪なのである。だからこれまで米国との同盟を支持してきた日本側識者の間でも、憤慨は深い。米国への不信や不満に火をつける効果があるのだ。この意味では重要な決議案なのだといえる。
しかしそんな日米両国での動きのなかで、米国議会の長老議員が敢然として、この決議案への反対を表明した。しかも何度も繰り返しての表明だった。民主党の上院議員ダニエル・イノウエ氏である。民主党の全国委員長をも務め、米国議会全体でも最も尊敬される政治家の一人だといえるイノウエ氏は、上院に身を置きながら、下院での決議案に強い反対を公式に言明したのだった。日本側にとっては心強い言明だった。米国側にも日本の立場や日米関係の重要性を正しく認識し、それに逆行する流れには、堂々と反対を表明する政治指導者が存在することを印象づけたといえる。
その意味でもこのイノウエ議員の発言は注視されるべきである。だが日本のマスコミもこのイノウエ議員の言明をあまり大きく報道していない。ここで改めて光を当ててみることにした。
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