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きょうの社説 2009年5月18日
◎在職者訓練支援 技術の向上、継承の好機
雇用・能力開発機構の石川、富山センターが、それぞれ地元の中小企業が行う社員教育
訓練への支援を強化している。雇用調整助成金制度を活用して休業中の社員の教育訓練を行う企業が石川、富山県内で急増しているためで、時宜にかなった取り組みである。不況の時は一般的に、経費節減のため社員の研修費などは削られがちであるが、逆に「 不況時こそ人材育成の好機」と、生産調整で空いた時間を生かして、熟練者から若手への技能継承やスキルアップに積極的な企業も多い。 ただ、中小企業の中には、社員の技術指導を行う人材やノウハウの不足に悩まされてい るところが少なくなく、行政は中小企業の在職者訓練に対する支援策をさらに考えてもらいたい。 両センターはこれまで、失業者向けの職業訓練に重点を置いてきた。しかし、休業社員 の教育訓練を行うと国の雇用調整助成金(雇調金)が上乗せされる制度の適用を望む企業が、このところ急激に増えているため、従来の高度な在職者訓練だけでなく、教育訓練を実施する企業への講師派遣やセンターの設備の貸し出しなどにも積極的に応じることにした。 こうした在職者訓練の支援強化は緊急雇用対策の一環であるが、中小企業における技能 継承などは、団塊世代の大量退職に伴う課題として、かねてより指摘されてきた。石川県が三年前に行った産業人材の育成・確保に関するアンケートでも、指導のための「人的・時間的な余裕があまりない」ことや、その都度の対応で「本当の意味での教育訓練ができていない」といった深刻な悩みが企業側から出されている。 不況で減産を強いられている製造業などは、高度技術をじっくり若手に教える良い機会 ともいえ、積極的な対応が望まれるが、せっかくの雇調金制度の教育訓練も、単独では実施困難な中小企業が多い。このため、大企業や業界団体が講師派遣などでバックアップする動きが北陸でもみられる。県や関係機関は、「平時」における対応も含め在職者訓練支援の在り方を研究してもらいたい。
◎米国が人権理事国 「拉致」を素通りできぬ
米国が国連人権理事会の理事国に選ばれた。国連人権理の活動から事実上離脱していた
米国が単に復帰するだけでなく、初めて理事国に入ったことで、人権理の停滞が打開される期待が出てきた。日本にとって人権理は、北朝鮮による拉致事件が国家主権と人権侵害の重大犯罪である ことを国際社会に理解させ、解決への協力を促す重要な場である。米国のライス国連大使は、人権に関する多国間外交の舞台で指導的役割を果たすことに意欲をみせたが、今後、人権理の理事国として北朝鮮の拉致問題を素通りするわけにいかないことを認識してほしい。 人権理は国連加盟国の人権問題を監視し、改善を図る国連総会の下部機関である。非民 主的な国が含まれているといった批判から機能不全に陥った国連人権委員会を改組し、二〇〇六年に発足した。米国のブッシュ前政権は、理事国の選出基準が甘いため「人権侵害国」も理事国になれると批判し、距離を置いてきた。しかし、オバマ政権は「人権外交」重視に転換し、米国自身が人権侵害の批判を浴びてきたテロ容疑者の処遇の誤りを認めて、初めて理事国選挙に名乗りを上げた。 現在の人権理は個別問題で有効な手を打てずにいる。例えば、イスラム諸国を中心にし た途上国の影響力でイスラエル非難が繰り返される現状に米国などが反発し、中国の抵抗でチベット問題は取り上げられないといったあんばいである。人権問題は深刻な外交問題に発展しやすいためで、米国の復帰で人権理がすぐに機能するとは考えにくいが、オバマ政権はこうした状況に風穴を開ける役割があると心得てもらいたい。 北朝鮮に対しては今年三月、日本や韓国が共同提案した人権状況の改善を求める決議が 採択されている。理事国であれば、この決議を実現させるための国際圧力の先頭に立たなければなるまい。 オバマ政権が六カ国協議や米朝協議で拉致問題にどう対応するか定かではないが、「日 本の立場を理解する」といった言葉にとどまらない取り組みを望みたい。
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