きょうのコラム「時鐘」 2009年5月18日

 水を張った田に合掌造り集落が映る「逆さ合掌」の美しい写真が紙面に紹介されていた。田植え前後にしか見られない季節限定の観光絵巻である

同じ所を旅しても、季節や天候などで印象は随分違う。立山連峰の美しさは、澄んだ冬空にそびえる雪の姿が最高だろう。白山の頂が雲に隠れていると、加賀平野を走っても物足りない。渋滞覚悟の名所巡りは、ついおっくうになる

旅を楽しむのも、なかなか難しい。だからこそ、北國風雪賞を受賞した観光マイスター、北林昌之さん(七尾・一本杉町会長)の「茶の間観光」の実践が新鮮に映る。観光の核は、普段着のもてなしである。美しい花嫁のれんを飾った茶の間に客を招き、「ゆるりゆるり」と語らいの時を共に楽しむ。雨風の影響や大渋滞とは無縁の旅の演出である

当地には、天下に名だたる絶景や荘厳華麗な名所などが、よそに比べて飛び切り多いわけではない。が、「茶の間のもてなし」なら、どこにもひけは取るまい

富士や日光の美よりも、土地の人との出会いが楽しい土産になった。そんな旅の思い出は、誰にでもあるだろう。