Web現代トップNews Web Japan > 経済 > 2003.10.01
image 日本国民に痛み、外資にうまみ ハゲタカファンド直撃 “日本むしり”のからくり
経済 取材・文:草薙厚子 取材:島田健弘

優勝しても窮地のダイエー
NYブロードウェイのモルガン・スタンレー本社
国内銀行と外国ファンド
日本で活動する主な外国金融機関

外資による日本企業の合併・買収(M&A)が相ついでいる。
最近では、あおぞら銀行(旧・日本債券信用銀行)が米投資ファンド、サーベラスの傘下に入った。また日本シリーズで阪神との決戦を控えているダイエーホークスもターゲットだ。プロ野球機構に大きな影響力を持つ巨人の渡辺恒雄オーナーは「実権はハゲタカ(ファンド)に奪われ、名目だけ(経営陣に)日本人が入ることは許されない」と反発している。しかし、9月25日、ダイエーと主力銀行は、米投資ファンドのコロニー・キャピタルにシーホークホテルと福岡ドームを売却する方向で交渉を進める案を産業再生機構に打診した。球団は2004年のプロ野球シーズンが終了するまでダイエーが保有し、その後、改めて売却を検討する方針だ。

自民党総裁選の際には、小泉内閣の経済政策を批判する亀井静香氏がこう何度も力説していた。
「このままでは日本は溶けてなくなってしまう。メガバンクをはじめとする金融機関もハゲタカ外資の影響下に入っており、貴重なわが国の金融資産も吸い尽くされつつある」

「ハゲタカ」とは息も絶え絶えの日本ビジネスのはるか上方で旋回しながらチャンスを待つというニュアンスで使われている。アメリカでは「private-equity firm」(株式を公開していない将来有望な新興企業や再建途上にある企業に出資し、または融資した上、優良企業に育て上げ、その上で、投融資を他に転売したりしてもうける会社)が盛んで、中でも破綻寸前の企業の再建を専門とするものを俗に「vulture (ハゲタカ)fund」と言っている。なぜこうしたハゲタカファンドが日本で跳梁跋扈できるのか。先週末、私はニューヨークで当事者に直接取材を試みた。

「破綻寸前の企業で、一部または全社的に再建可能と見た場合、お金をつぎ込むというだけのことです。日本では、そのような発想がほとんどありませんが、例えば、企業の中では色々なパートがあり、全部ダメとはかぎりません。そのため、その部分を安い値段で買い、ある程度利益を出すように経営刷新などをして再建させるということなのです。そこに私達のビジネスチャンスがあるのです。
投資、リターンともに巨額なため資金はタックス・ヘイヴン(租税回避地)を通します。本社をケイマン諸島などに置いてあるところが多いですね。1ドルから100ドルまでで会社が作れます。その会社に対して担保をつける形で出資をつのり、日本の企業や不良債権を買っています。日本の国税当局は出張費がかさむのでほとんど調査には来ません」(NYのファンド運営会社)
破綻寸前の大企業が多い日本は格好の猟場なのだろう。


竹中大臣が加速させた“日本売り”
3月にあおぞら銀行本店は旧さくら銀行本店に移転

9月26日、あおぞら銀行は、米投資ファンドのサーベラスが筆頭株主になったのを受け、サーベラスと関係の深いアメリカ人のエドワード・ハーシュフィールド取締役(66歳)が代表権のある会長に昇格する人事を正式に発表した。

あおぞら銀行はソフトバンク社長の孫正義氏が48.87%の株式を保有していた。孫氏は2000年9月にあおぞら銀行の前身、旧日本債券信用銀行の株式を493億円で取得。その後2002年6月にはあおぞら銀行株を売却する方針を明らかにした。

「孫氏が勝負を掛けていたブロードバンド事業の資金繰りのためでしょう。当時の柳沢金融担当相は筆頭株主のソフトバンクが、株式を外資に短期間で転売することに難色を示していました。ところが、2002年の9月30日に小泉首相が当時の柳沢担当相を更迭し、代わって兼務することになったのが竹中経済財政担当相です。竹中さんは外資に売却しても問題ないとする哲学の持ち主なのです」(ある外資系通信社記者)

実際に竹中担当相は、銀行の資産査定の「厳格化」や自己資本比率の算定方法の「見直し」など、銀行に不良債権処理をより加速させる、いわゆる「竹中プラン」(金融再生プログラム)を推進。ペイオフ(破綻金融機関からの預金払い戻し保証額を元本1000万円とその利息に限る措置)の全面凍結解除を2年延期。その上で金融機関の会計ルールの運用や不良債権の査定基準も厳しく見直した。金融機関を追い込んで、体力が弱った銀行などには公的資金を投入し、国関与のもとで不良債権を一掃しようというものだった。

ワールドファイナンシャルセンターからグランドゼロを望む

竹中プランで急な財務悪化を招く恐れがあった金融界は、国有化を避けるため、総額2兆円以上の大規模な増資などに東奔西走した。しかし、そのため株式市場の需給バランスは崩れ、今年3月期末の日経平均株価は8000円を割る水準まで落ち込んだと言われている。

日本経済悪化の元凶と名指しされ、本人も辞任を覚悟していた竹中担当相を内閣改造で無理矢理留任させたのが小泉首相だった。
「小泉さんは、歴代の中で、最もアメリカ大統領と仲良くしようとしている総理大臣です。ブッシュ大統領とかなり馬が合うと聞いています。だから、アメリカは非常に応援しています。また、小泉首相は経済政策に関して竹中大臣をかなり信用して任せていると思います」(アメリカ財務省関係者)
亀井氏の小泉批判は正鵠を得ているらしい。


サーベラスが狙うキャピタルゲイン

昨年12月、自己資本比率改善の狙いで三井住友ファイナンシャルグループは財務体質の良いあおぞら銀行を買収することに手を挙げた。結果、あおぞら銀行の株価は上昇。三井住友と以前から名乗りをあげていたサーベラスは競合することになった。
孫氏は三井住友の提示した800億円に対して「買収額が低すぎる。上乗せしてほしい」と要望を出した。そのため今年2月下旬の三井住友との買収金額を巡る1回目の交渉は決裂した。その数日後、三井住友は提示額を1000億円に上積みしたと言われているが、実際は1000億円弱のようだ。結局、三井住友は付帯条件が合わないということで断念、サーベラスが勝ち残った。サーベラスへの売却代金は1011億円でソフトバンクは518億円のキャピタルゲインを得たことになる。

「孫さんは始めから外資でも日本でもどちらでもよかったのでしょう。柱となる仕事をやるために莫大なお金が必要だったし、“ハゲタカ”も儲けになると見た。両方の考えが一致したので取引が成立したのです」(ある外資系ファンド会社)

旧長銀にも4兆3000億円近くの公的資金が

今後、サーベラスはソフトバンクのように、より多くのキャピタルゲインを稼げる方法を模索することになる。NYで取材したある投資系銀行経営者は、その手口をこう解説する。
「日本法人を作り買収する方法と、他のアメリカのファンドがそのまま株を持つという形態のふたつがあります。前者は6月11日で開業3年目に入る東京スター銀行です。米投資ファンドのローン・スターが経営破綻した東京相和銀行の営業譲渡を受けて、株式再上場も視野に入れて経営体制を刷新しています。再上場できれば巨額のキャピタルゲインが得られます。また、新生銀行はリップルウッドが直接持っているという後者のほうです。しかし、新生銀行は、外資系が100%持っていることで安定株主作りが出来ないため上場できないデメリットがあります。単体として利益を出していますが、リターンを早くするにはどこかに転売するしかありません」

リップルウッドに10億円で売却された新生銀行(旧日本長期信用銀行)には4兆3000億円近い公的資金がつぎ込まれていた。あおぞら銀行にも3兆5000億円が投入されている。破綻目前企業の負担額があまりに巨額なため外資導入が避けられない状況下で、日本人が営々と築いてきた金融資産が、小泉政権下で喰いつぶされようとしている。

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