レセプトの電子化
テーマ:広汎性発達障害、アスペルガー症候群今、ちょうど月始めであり、このレセプト病名のチェックをしているのだが、従来は良かったけど今はそう書けない病名もあって、いろいろと考えを巡らして憂鬱なのである。
以前、リーマスとリボトリールを併用した場合、非常に困ると書いたことがあった(参考)。なぜならリーマスはデパケンRとは違い「躁うつ病」ないし「躁状態」しか適応がないが、リボトリールは本来てんかんの薬物だから。おまけにリーマスはてんかんに禁忌ときている。
臨床医としては、これで減点された日には怒りが爆発なのであるが、振り上げた手をゆっくりとおろし、現実的に対応しなくてはならない。そのまま減点されるのはまさしくアホだ。
僕は以前はこれを乗り切るのに、
① 躁うつ病
② 眼瞼痙攣
のようなレセプト病名にしていた。実は、眼瞼痙攣はジストニアの一種なので、リボトリールの適応はない。だが、痙攣という用語が入っており、レセプトをチェックするオッサンの目の錯覚を狙っているのである。この作戦は功を奏し、これで減点になったことはなかった。
実は、この「眼瞼痙攣」というのは一般的に使われているが正式病名ではなく、正確には「眼瞼攣縮」(がんけんれんしゅく)と呼ばれる。眼瞼攣縮と正確に書いてしまうと錯覚が狙えないのがちょっと・・
また同じような診断名を何回もレセプトに書くのも気が引けるので、やがて平凡に「自律神経発作」にすることにした。眼瞼痙攣は精神科的な診断名ではないし、珍しいのでこれが頻発するのはやはりおかしい。
自律神経発作は一見、軽い疾患に見えるが、部分てんかんの1つであり、よく考えるとリーマスのてんかんに禁忌と言う制約をクリアしていない。しかしなんとなくだが、一瞬、自律神経の失調症状を表わしているように見えるところがミソなのである。これもレセプトのオッサンの目の錯覚を狙っている。まあ、基本的にはレセプトのオッサンの弱点を突く。そういう風にクリアするしかない。
僕はこの作戦でも未だ失敗がない。というか、リーマスはてんかんに禁忌であることを知らないオッサンも多いような気がしている。なぜなら、以前は「躁うつ病」に加え「症候性てんかん」の病名でほとんどクリアしていたからだ。
レセプトは高い薬ほど減点されやすく、リーマスやリボトリールのような原価割れしているような薬物は減点されにくい。敵も一応考えており、たいして戦果が上がらないような減点はしないようにしているようには見える。やはり減点するなら高価な非定型精神病薬やSSRIなのである。
ところで最近、最も困っているのは、統合失調症で抗精神病薬に加えリーマスと抗うつ剤を併用してるような人のレセプト病名である。例えば、
エビリファイ 3mg
リーマス 600mg
テトラミド 20mg
このような処方は多くはないがたまにはある。この場合、以前は
①統合失調症
②躁うつ状態
と書いて大丈夫であった。ところが電子化されると「躁うつ状態」という病名は存在しないのである。もしテトラミドがないなら、「躁状態」という病名はあるので大丈夫だ。しかしこのケースは難しいのである。「うつ状態」という病名はなぜか存在しないので、
①統合失調症
②躁状態
③うつ状態
というのもダメなのである。結局、僕は統合失調症と躁うつ病を併記しないとどうしようもないことに気付いた。全く昔の教授が泣いとるよ。
① 統合失調症
② 躁うつ病
こういうバカ丸出しの病名を書かせるとは、さては、われわれ精神科医をバカにさせるつもりだな・・「3の倍数の時だけバカになります」どころの話ではないのであった。
実はこの問題は、主病名を躁うつ病に変更すればクリアできるのである。「統合失調症様状態」という病名はあるから。
① 躁うつ病
② 統合失調症様状態
これは主病名を曲げているということで、精神科医的には同意できない。こういうことをしていると、その人がいったい何の病気なのか?とか、統計的なものにも歪が来ると思われる。
また、応用問題でこういうのも非常に困ることがわかった。抗精神病薬に加えデパケンR、リボトリール、抗うつ剤を併用しているアスペルガーの人たちのレセプト病名である。レセプト的には本来アスペルガー症候群に適応がある薬物はないので、アスペルガーの状態像を書かないといけない。例えばこういう処方だったとしよう。
デパケンR 400mg
リボトリール 0.5mg
アナフラニール 25mg
ルーラン 1mg
これはアスペルガーではいかにもありそうな処方だ。この場合、ルーランは統合失調症にしか適応がないので、いかなる病態であれ「統合失調症様状態」は付けざるを得ない。したがって、
① アスペルガー症候群
② 統合失調症様状態
この後が困るのである。もしデパケンRの双極性障害の適応を重視し「躁状態」と付けるとアナフラニールはどうなるんだ?と言う話になる。上でも触れた通り「躁うつ状態」はありえないからである。これがデプロメール75mgなら対応しやすい。「強迫性障害」と書けば良いから。しかしアナフラニールなら、なにがしか「うつ状態」に関しての病名を付けざるを得ない。しかもリボトリールもてんかんに関する何らかの病名も必要なのである。
結局、このような診断にした。
① アスペルガー症候群
② 統合失調症様状態
③ 躁状態
④ 器質性うつ病性障害
⑤ 自律神経発作
まさにメチャクチャであるが、まだアスペルガーの雰囲気は表現できているのが救いだ。
本当は③④はまとめて「躁うつ病」と書けば済むのであるが、①②でアスペルガーと統合失調症状態と書いた以上、更に「躁うつ病」なんて酷すぎる。なぜなら躁うつ病は内因性疾患だからである。精神科医的には内因性疾患ならそれを主病名にすべきだ。統合失調症と躁うつ病の併記も相当に酷いが、この2つはまだ同じ内因性疾患なので、非定型精神病のような病態で困って付けたのだろう、ぐらいに思われるが、アスペルガーは内因性疾患ではないので、あまりにもなのである。
実際、上の5つの病名も相当に酷すぎるけどね。
1 ■保険医療行政
おそるべし。こんなことでも苦労させられるなんて、先生がお気の毒です。適応症は誰がどういうふうに決めるのでしょう?