2008-02-25 20:06:46

アスペルガーと前頭前野

テーマ:広汎性発達障害、アスペルガー症候群
精神医療の中で、僕が最も自信を持っており、また誇りにしているのは「統合失調症の診断」である。これはたぶん、精神科医になってからの環境、教育によるところが大きいと思っている。

僕が精神科医になってから、「統合失調症ではない」と否定的に診断した人は、間違っていたことが1度もない。最もよくわからないのが、統合失調症でないと診断して、その後時間が経ってからもそうなった人がいないこと。これはちょっとした謎であった。

逆に「統合失調症である」と肯定的に診断して、実はそうではなかった人は過去にいることはいる。ここ数年では1名のアスペルガー症候群である。この子は時間が経ってから訂正したが、この子が僕の目を一時にせよ欺いたことも、ずっと謎であった。

僕は幻覚妄想があるからとか、陰性症状があるように見えるからといって統合失調症とは診断しない。参考にするだけだ。

アスペルガー症候群の人たちは、脳の機能不全の部位が統合失調症とオーバーラップしているように見える。これは最近、そう思うようになった。「対人接触性の座」は前頭前野と関係が深い。たぶん、アスペルガー症候群の人たちも、ここが同じように機能不全なのだろう。特に病状が悪い時は。だからこそ、彼らの病状が悪い時に騙されるのである。

「前頭前野」は、コミュニケーション、思考、創造、行動・情動の抑制、意欲、記憶、自発性など多岐の要素と深いかかわりがある。例えば、数人と会話している時に、中心になっている人に注意を向けたり、話に追随したり、笑うところで笑ったりするなど、人間らしい行動、情動を制御しているといえる。また、嫌なことがあってもそれを表情に出さず、上手い具合にバランスをとって円満な人間関係を保てるのもここが関係している。アスペルガーの人は、同時にいくつかの仕事を頼まれるとパニックになったりするが、これは前頭前野が不調だからである。意味不明に暴力を振るうのもこれに関係が深い。

実はアスペルガーは前頭前野に加え、もう少し感情や他の精神機能にも障害に広がりがあるのである。だから統合失調症とアスペルガーは、もちろん同じではない。僕がアスペルガーの診断があってもなくても良いくらいにいうのは、しょせん統合失調症ではないことが大きい。上のように書くと、あたかもアスペルガーの方がより疾病として重いように思われるかもしれないが、統合失調症の場合、その障害が深遠なのである。

アスペルガーは落ち着いてくると、統合失調症の人に比べ全く見違うような接触性の改善を見せる。だからこそだが、アスペルガーの人たちがいつまでも統合失調症のふりをし続けるのは難しい。数ヶ月経って、まだアスペルガーを統合失調症と思っていたら、それはよく患者さんを診ていないのである。

もしアスペルガーを誤診して、例えば定型抗精神病薬やリスパダールのようなincisiveな薬物で薬漬けにした場合、長い期間、見分けがつきにくくなることは十分にありえる。これはアスペルガーの精神症状から言っても、いかにもありそうなことだ。アスペルガーの一部に極めて暴力性が高い人たちがいるからである。

しかしよく観察していると、精神面がいくらか改善している時期、声をかけた時の反応性や目の動きが、統合失調症のそれとは異なっているようには見える。だから常に注意していれば診断に疑問を持つのが普通だと思われる。

なぜ、リスパダールの大量などで薬漬けにすると統合失調症と見分けがつかなくなるかだが、このような薬物は前頭前野も含め前頭葉の機能を低下させるからであろう。陰性症状が改善するどころか、かえって悪くなっているように見えることもこれをあらわしている。

(薬漬けにしたことで統合失調症になったわけではないことに注意。薬漬けの紛らわしいアスペルガーもアルペルガーには変わりはない。もしそんなことで統合失調症に変化したとしたら、ウルトラDだと思う。)

統合失調症に対する真に理想的な抗精神病薬は、中脳辺縁系でドパミンの過剰を抑え、なおかつ前頭(前頭前野も含む)でむしろドパミンを増やすようなメカニズムを持たなければならない。こうならないと、幻覚妄想を消失させ、あわせて陰性症状が改善して来ないからである。大量のリスパダールや旧来の強いタイプの抗精神病薬は、すべからくドパミンを遮断してしまうので、もちろん理想とは程遠い薬物とは言えた。

ところで、僕が統合失調症ではないと診断した人たちだが、確率的にはそれから統合失調症になってもおかしくないはずだ。ところがそうならないのは、ある程度、精神症状が出現し病院に初診した時点で、統合失調症ではない場合、既に精神疾患として別なルートを歩み始めていると考えた方がすべての辻褄が合う。だからこそ、それから統合失調症にならないのである。こういうのを見ても、初期分裂病なる概念が存在せず、その理論が根本的に間違っていることがわかる。

これは「猿の惑星」ではないが、現代の猿が遠い将来にわたって人間にはならないことに似ている。進化の過程では「時間」が重要なファクターなのと同じように見えるのである。

僕たちが行うクラシックな診断法は、いわゆる操作的診断法ではできない、優れた診断法なんだろうと思う。

コメント

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1 ■さすが!!

職人技!!

2 ■興味津々で読みました

統合失調症の友人がいます。何年も、「どこが統合失調症なんだろう?本当にそうなの?プレコックス感って何?」と思っていましたが、kyupin先生の記事を読んでいるうちに、納得が行くようになりました。「あの時のあれが、陰性症状というものだったのかもしれない」って。
先日の、幻覚妄想を何十年も話さない人がいるという情報も、目から鱗でした。

彼女はジプレキサで良くなっているようで、この頃は、「あれっ!?私より元気かも!積極的!頭良い!」と思うことが増えました。大事な友達と出会い直すことができたみたいで、嬉しいです。

それからアスペルガーの脳では、前頭前野と扁桃体のコネクションに何かがあると、生かじりの知識を総動員した勘で思います。ぜひ研究が進んでほしいポイントです。

最後に、自分の自制心の弱さを棚に上げて、kyupin先生にお願いです。記事が面白過ぎです!毎日upするのはやめてもらえませんか?←半分冗談

3 ■!

先生にやられました。
私が公開しようか迷っていた記事と似たような内容です。
先生、早いです~。
私の方は×にします。。。
先月の症例検討会で、統合失調症でリスパダール使ってますが困ってます、っていう報告があったのですが、私は話を聴いていて「それ違うわよ!」って思いました。

4 ■最近の風潮

>僕たちが行うクラシックな診断法は、
>いわゆる操作的診断法ではできない、
>優れた診断法なんだろうと思う。

こういうことは、一般社会にも当てはまる事が多いと思った。
なんでも、マニュアル化、手順化、標準化するのは、最近の風潮と思うから。
ちなみに、僕はクラシック?!派です。

また、「僕たち」
というのは、先生のほかに誰をさしているのかが、少し気になりました・・・。

5 ■ロック伝説 

私は昔から60年代のロックが好きなのですが、
いろいろ検索してみると、
ジム・モリソンと初代ピンク・フロイドのシド・バレットは
アスペルガーなんだとか・・・\(◎o◎)/!
私はず~っとジム・モリソンはLSDのやりすぎで廃人みたいになったんだと思ってました。
シド・バレットは、統合失調症だと思ってました。
今更アスペルガーなんて呼ばれて、彼らもあの世で異議を唱えているかもしれませんね。
(本人を直接診察しないで診断できるのでしょ~か?)

私が一番精神的にヘビーだったんじゃないかと思うミュージシャンは、グラム・パーソンズです。
確か、両親が自殺で、本人も20代初めで自殺しちゃいました。
ハーバード大で、金持ちで、ハンサムで、才能もあるのになんでそんな生き急いだのか?

ロックじゃありませんが、アンディ・ウォーホルや彼のファクトリーにたむろしてた人びとは、
今の時代だったら、いろんな診断名をつけられそうな気がします。
昔より「正常」の枠が小さくなっているのだとしたら、生きにくい世の中です・・・。


6 ■うつと前頭前野

 うつのときも,前頭前野の機能が低下する,と何かで読んだ気がします.
 うつの人も,同時に複数のことを平行して遂行することができなくなったり,対人恐怖に陥ったりすると思うのですが,アスペルガーの人の不調とはどのような点で異なるのでしょうか.

7 ■私の場合

私は初診のとき、「うつ病だと思います」と言われました。そのうち「普通のうつ病とは違う」と言われ、「アスペルガーに近いけど、アスペルガーではない」と言われ、んじゃ私はなんなんだ?と頭の中が不安と疑問でいっぱいになっています。アスペルガーと統合失調症は近いんですね?ますます???です。今
トリプタノール50㎎
エビリファイ12㎎
飲んでますが、イマイチ芳しくありません。

8 ■アスペルガーと統合失調症

アスペルガーと統合失調症だって診断されてジプレキサとセロクエルを少量飲んでいます。
私には、意欲減退と感情鈍磨の症状があるみたいです。
アスペルガーでも、重い場合統合失調症と区別出来ない事があるのでしょうか?
先日、WAISという知能検査を受けました。
私のほうから懇願したのですけど、一時はダメだって言われたんだけど今後どうしたらいいかって相談したら検査してみよーか?って言ってくれて受ける事になりました。
これ、アスペルガーの検査だって認識してるんですが。。。違ってますか?
私、たぶんできたところと出来ないところ極端だろうなーって思います。
(まだ結果が出てません。。。。)

9 ■ウルトラD

先生、こんにちは。
 
レス頂き、ありがとうございます。抗精神薬が何故処方されているのか不思議だったのですが、副作用が少ない点で気分の変調が激しい私には合っているのかもしれません‥。
私の姉が気狂いし、統合失調症と診断され入退院を繰り返し、約16年が経ちます。
今現在最悪の状態で、自宅看護は難しく(目が離せない程で)入院しております。
私は同居しておりませんが、幻聴による正気でない姉を目の当りにしています。
そして私自身は、ウツと診断されて2年程になります。
初期分裂病は、医学にド素人な私も、ナイと思っています。前兆があったとするならば、それは要因があったとゆう発病の『きっかけ』に過ぎないと思います。現に、私事になりますが、ウツになる要因があり(要因をきっかけだとするならば‥)その要因と、姉の病の要因を比べれば、遥かに私の方が気を狂わすほどの酷な要因だらけ‥。にも関わらず、私は統合失調には至りません。幻覚幻聴もありません。ストレスにより片耳の聴力は失いました‥でも私は、統合失調症にはなりません。これから先もならないと自ら言えます。(続きます‥)

10 ■ウルトラD(続きです)

でも確立がある事は否定出来ず、恐いとは思います。その確立は、突然引き起こす脳内の作動。要因が酷であろうがなかろうが『きっかけ』→見事に病へ一気に墜ちてしまうのだと思います。私は自分の精神をコントロールする上で、必ず心がけている事が『逃げ』です。寝ず、食べずになる程の悩みが現実にある場合、自らを壊さない為に、本意に反していたとしても「捨てて諦める」とゆう術で、脳内の分泌に変化をもたらし、自分を立て直す分泌を脳に出してあげている‥?そんな気がしています。
そして、姉の場合は、その「逃・捨・諦」の分泌がコントロール不能になり、間違った分泌が一気に放出され、正気でいられなくなったのだと。万が一、薬が原因で統合失調に至るのなら、そのお薬の真逆のお薬で、治せちゃう。そんな魔法のようなお薬を頂けるなら、ハダカで小踊りして逮捕されてもいいです。
変なコメントをしてごめんなさい。ちょっと可笑しな子?だと見逃して下さい。
姉の統合失調症は、治療次第でいつか改善する日が来る。と、私は信じています。
先生は、すごくすごくすごーく強い精神力をお持ちなのでしょうか?まだまだ気温の変化が激しい時節、お身体壊されませんように、ご慈愛下さい(懇願)。
 
ウルトラD並みに長くなり、失礼致しました。

11 ■例えば

両親がアスペルガーです。私は双極Ⅱ型ですが、生育歴やWAIS-R、随伴症状などから、潜在的アスペルガーであることは間違いありません。
どちらの疾患も、複数の遺伝子が関与していると考えられます。それで、私の場合は双極Ⅱ型の遺伝子セットの方がパワーが強く、矛盾する性質であるアスペルガーの中核症状が、目立たなくなったのではないかと考えています。
実際、気分障害の兆しが出始めた頃と、アスペっぽさが薄れた時期は、大体重なります。

一方、潜在的アスペルガーだったお陰で、うつの診断治療はずいぶん遅れたと思います。興味のあることのためなら異様に頑張れるから、軽いうつでも他人からは元気に見えます。記憶力も頑丈だし、変なところで忍耐強いし…

こういう人、出会ったことはないけれど、他にもいると思います。

12 ■統合失調症の元同僚

ホーム&アウェーではレスありがとうございました。その後、元同僚に確認したところ、去年の夏(53歳)初めて幻覚が起きて、友人におかしいと言われ、強制入院させられ、気がついたら病院のベッドだったそうです。珍しいですよね?そんな年齢で。

13 ■>>setsukonet

お久しぶりです。

14 ■>>サボテン猫

なかなか詳しいですね。アスペルガーの記事は今後も時々アップする予定です。

15 ■>>あずさ

今後ともよろしく。

16 ■>>柊★拓★人

誰でも同じようにできるようにしようというのが難しいのかもしれないですね。

17 ■>>ちーやん

シドバレットのことはいつかアップしようかと思っていたのですが、最近、気力が萎えますた。

18 ■>>usb7

一言でいえば、その重さと障害の厚みなんだと思う。

19 ■>>じゅんこ

それだけだと、なんだかわからないですね。

20 ■>>理紗

アスペルガーと統合失調症ってかぶる場合があるのでしょうか?

普通、滅多にないけど知的発達障害と統合失調症が一緒にある人がいます。もしあったとしたら、こんな感じかもしれません。

21 ■>>SKY BLUE SKY

それはセルフ・コーピングをしているのかもしれないですね。

22 ■シド・バレット・・・

先生の気力が回復されて気が向いたら
ぜひぜひアップしてください!!!
私を含め、ごく少数の長年のファンが待ってます~。

個人的には、シド・バレットやケイト・ブッシュは
精神の純度が極めて高い天才型ミュージシャンだと思っています。
一体彼らの内面世界はどんなものなのやら!?

世の中、まるでアフガニスタンの地雷原のような、不毛で殺伐とした内面世界の人が多いです。
私はしょっちゅう地雷を踏んでバラバラになってます。
でも、純度の高い人の作品や美しい自然や動物に触れると、
瞬時に元に戻り、立ち直れます。ありがたや~。

23 ■そのご

後日、受診したらルーラン4mgが増えました。
これで少しは良くなることを期待したいです。

24 ■シド・バレット

シド・バレットはいろいろ意見があるのですが、憶測でしかありません。それと、シドバレットといっても、この読者で知っている人のほうが少ないような。

ケイト・ブッシュですが、声は独特ですね。ピーター・ガブリエルはあの声が好きで、「SO」などのアルバムでは一緒に歌っている曲があります。(ドント・ギヴ・アップ)。僕はピンクフロイドは今でもよく聴くアーチストです。

25 ■シド

「帽子が笑う…不気味に」とか、なつかしいですね。まだご存命なのかな、と思ってたら、2006年に亡くなられていたようですね。知りませんでした。

ピンク・フロイドは、シド・バレット→ロジャー・ウォーターズ→デヴィッド・ギルモアと、リーダーが入れ替わりながらもよく存続し続けましたよね。正直、ロジャー・ウォーターズ脱退以降はあまり聞いていませんが..
そういえば、「ザ・ウォール」のビデオ持ってます。当時評論家筋には評判良くなかったですが、私は好きでした..懐かしい...

26 ■音楽、詳しいですね~!

先生は、精神科医になっていなかったら、
ミュージシャンか音楽評論家か獣医さんになっていたかもしれませんね。

ケイト・ブッシュがピーター・ガブリエルとデュエットしていたなんて知りませんでした・・・。
(知ってる人はほとんどいないと思いますよー)
あの二人は異才同士で相性が良さそうですね。

ピンクフロイドはシド・バレット脱退後のものも
好きですが、気分が落ち込んでる時に聴くとますます落ち込みます。
ロックを聴くのは、気力・体力要ります~。

27 ■>>ち~やん

いつか、ぜひ音楽の記事もアップしたいですね。僕はピンクフロイドが最も好きなバンドで、ブートレグも幾枚か持っています。

最近でもピンクフロイドは聴きますが、もう少し最近のバンドも聴きますね。

28 ■その後。。。

統合失調症+アスペルガーだって診断されているものです。
先日、診察に入って最近疑問に思った事を先生にぶつけてみました。
私はどうやら、来た当時 話にまとまりがなくて周囲に敏感で 全体の様子から総合的に統合失調症だと判断したみたいです。
旦那さんも調子を崩して他の病院にかかって
統合失調症とアスペルガーは似ていて誤診が多いって事を聞いてきた事、それから私の妄想はアスペルガーのフラッシュバックが元で起きたんじゃないかってこと、それから妄想は後で聞いてみるとつじつまが合っていて了解できる内容だったって話してくれました。
そしたら、先生は 発達障害で一時的に統合失調症の症状が出たけど 良くなってもとの発達障害の状態に戻ったって言ってました。

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