精神科の診断の偏向について
テーマ:広汎性発達障害、アスペルガー症候群うちの病院の近くに、思春期~青年期が専門だとぶち上げているクリニックがあるのだが、その精神科医が診た患者さんを時々いろいろな場所で診察する機会がある。いろいろな場所とは、うちの外来であったり、あるいは今往診に行っている総合病院であったりするのであるが、真剣に病歴を聴取して診断しているのか相当に疑わしい。僕にはその精神科医の診断における思考パターンが理解できない。
たぶん彼は少し僕より卒業年度が後でまた大学病院で仕事をしていた期間が長いと思うので、実質的な臨床経験はたぶん少ない。また出身大学も違うし研修した大学病院も違うのでよく知らない人ではある。ある時、一緒に措置入院の鑑定をしたことがあった(2名で行うため)。一緒に診察していれば、そのドクターが冴えているかどうかなんてすぐにわかる。
最近最も驚いたこと。ある男性患者さんを総合病院で診た。その患者さんは自殺未遂で大怪我をして入院していたのであるが、そのクリニックの診断はなんと「アスペルガー症候群」であった。さて、僕の診断は何だったのでしょうか?
アスペルガーはプレコックス感とは全く異なるが、ある一群の人々はその雰囲気がある。しかし今のところ、僕はその雰囲気によらない診断をしている。たくさんのアスペルガーを診ているわけではないし、そういうことを言い始めると主観に惑わされる可能性も高いため。
その自殺未遂の少年だけどサッカー部の主将だったらしい。運動ができるできないを置いておいたとしても、アスペルガーの人に運動部の主将は相当に難しいでしょ。日本ではいわゆる体育系の上下関係があるから。彼は診察中、愛嬌が結構あるし、話し方、思考面も含め、コミュニケーションにアスペルガーっぽさは微塵もなかった。
自殺未遂の瞬間に限れば、たぶん亜昏迷だったのだと思う。しかし背景になる疾患は非常に内因性っぽいのだが、少なくとも統合失調症ではなかった。僕は特に重視したいのは、病識が乏しいこと。まさに欠如していると言えた。また、数ヶ月往診で診ていたのだが、彼には生きていく上での、「アスペルガーっぽい苦悩」が全くないと思った。
いったい、どういう点に着目してアスペルガー症候群と診断したのか彼の頭の中を見てみたいよ。ああいう人までアスペルガーと診断するなら、たぶん精神科新患の10%以上がアスペルガーになってしまう。(参考)
僕は抗うつ剤(デプロメール50mgだけ)を投与していたが、入院中は全く普通の少年のようにしていたし、たぶん退院したら薬を飲まないと思う。疾病に関しての彼の構えはその程度なのだ。彼の場合、薬を中断したとしても数ヶ月~数年は何もないかもしれない。しかしこれは僕の考えなのであるが、必ず同じような精神的危機がやってくる。自殺しないためには服薬していた方が確率的には良いだろうが、少量だけ服薬している場合は危機を防げないかもしれないとも思う。彼は統合失調症ではないが、たぶんその瞬間においては統合失調症的な精神状態になるのだと思う。それは周囲から全く予測できない「自殺未遂発作」なのかもしれない。
アスペルガーについてだけど、今、発達障害が流行とは言ってもバカのひとつ覚えのようにそればかり診断するのはいかがなものかと思う。結局、このような精神科診断のありかたが一般精神科ユーザーの不信感に繋がっている。A医師とB医師の診断が全く違うなんて、精神科診断はどうなっているんだ?と言われても仕方がない。
精神科診断は極めてサイエンスなものなのに。
参考
専門性について
精神科は本が捨てられないこと
1 ■診断名
私はある大学病院で、双極Ⅱ型と診断されました。
心理テストの結果を元に診断されたように思います。
一回の診察で、診断名が下せる物なのでしょうか?疑問です。
現在の診断名は不安神経症です。
多分これで間違いないと思います。
主治医は、心理テストでわかるものなら診察なんかいらない!ネットで十分じゃないかっていつも言ってます。