2007-03-22 22:00:38

アスペルガーの異常感覚

テーマ:広汎性発達障害、アスペルガー症候群
アスペルガーの異常感覚であるが、これは特殊感覚とでも言えるのかもしれない。特定の感覚が研ぎ澄まされており、特に物音に敏感で次第に妄想的に解釈するようになることがある。(もちろんそうならない人も。これは個人差がある)

僕がアスペルガー症候群の少年を個室で診ていた時、突然、「ほら、○○が自分のことを言っている・・」と、言葉を遮るようなことが何度かあった。部屋の外に出てみると人がいることもあるし、いないこともある。幻聴なのか、あるいは、本当に人の声を聴いたのか微妙だ。細かい物音に敏感で、その延長線上に、幻聴のような異常体験や被害関係念慮があるように見える。

アスペルガーの子供~青年あたりの患者さんは、家にいる時、自分の部屋の壁を殴りってボコボコにしていることがある。家具も壊している。これはいろいろな原因があるが、

① 隣の音がうるさいから殴る
② イライラのためむしゃくしゃして殴る

ぐらいが多い。人によると拳に殴りタコができているほどだ。たいてい、家族はそれを放置している。言って止まるようなものではないのがわかっているから。そういう破壊行動は入院後もある。壁やドアをボコボコにするのはまだ良いとして、ひとつずつ修理してもまた壊すので意味がない。だから僕は退院時にまとめて修理するつもりで放置していた。

本人には、「あまり殴ると拳を骨折することもあるから」くらいに言っておいた。

これはあまりにピントがずれているが、これくらいしか思いつかなかったのである。これなら2人で笑えるし。このあたりの対応は難しいが、強く叱責すると恨まれそう、というか、個人的に若い人に嫌われたくないのもある。どうしても真意が伝わらないし、コミュニケーションがズレてしまうので、僕が決定的な場面を避けていることももちろんある。つまらないことで医師・患者関係が崩れてしまうと、その後の治療が続かないから。こちらも妥協する他はない。

そうこうしているうちに、修理代がどのくらいかかるか彼の方から僕に聞いてきた。さすがに家とはちょっと違うのに気がついたか、あるいは他の患者さんが教えてくれたのかもしれない。だいぶん本人が落ち着いてから、どういうメカニズムでボコボコにしているのか、順を追って説明した。彼が理解したかどうかはわからない。

あと、かっときて他患者を殴ったときは、すぐに強く叱責して相手の人に一緒に謝りにいった。なかなか最初は行こうとしなかったけどね。壁を殴るのと人を殴るのは全く意味が違う。こういう体験が、今後どの程度意味があるのか、その時はわからないと思った。

統合失調症の人の治療との違いは、こんな時にちょっと気を使わないといけないことかもしれない。それに、僕はアスペルガーの治療経験が多くはないので、このような対応が良かったかどうかさえ自信がない。

あと、「におい」に敏感な患者さんもいる。僕は、アスペルガーの人にタバコを吸う人があんがい少ないのは、タバコの臭いを嫌っている人が多いからと思っている。僕が診た中でタバコを吸う人では、統合失調症と誤診され閉鎖病棟に10年くらいいた人がいた。これは次第に慣れていったのと周りが皆吸っていたからと思う。

アスペルガーの聴覚に関する敏感さについて、ある患者さんは「地獄耳」と言った。地獄耳というのは非常に的確なイメージで、まさにその通りだと思う。しかし、精神科医が「それは幻聴ではないのか?」と聴いたため、そういわれればそうかも?と本人は思い始めたのである。つまり、この異常体験には本質的な幻覚のクオリティがやや欠けている。

「幻聴といわれれば幻聴かもしれない」と本人は思っていた。こういう他人事風味が、ちょっと統合失調症のそれと違うと思うのである。

コメント

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1 ■無題

精神科医、大変だと思います。苺自身軽度発達障害の患者です。でも国立大に在学中です。決してくじけないでいいドクターになってくださいね。

2 ■>>苺

応援ありがとうございます。
あまりにもナイスなコメントに感動しますた。

3 ■僕も

めっさ感動しますた。

4 ■統合失調症と診断された鳶職の方ですが1/2

前に話題にあがった元鳶職の男性。この方を思い出しました。
入院療養計画書に思いっきり「病名:統合失調症」と書かれた紙を持って、おいらの前で軽く笑っていた彼なんですが、ちょっと普通の統合失調症と違うような気がしました。

まず、とにかく柱を殴るんです。他の患者さんや他の場所は殴らない。それを病棟の医師や看護師も知っているから、最初の内は保護室にでも入れられていたんでしょうが、その後は放置。ただ、拳が怪我をするのと、音が五月蠅いから、その柱だけマットレスみたいなものを被せておいてあるんです。

直向きに毎日毎日、彼はその柱を殴る。身体の重心をかけて殴る。
その鳶の人、テレスミンだけは、お薬の時間に口の中をチェックされても器用にテレスミンを隠していて、便所で捨てて流すのです。
「テレスミンは嫌いだ~。テレスミンは怠くなる。テレスミンは悪魔のクスリだ」とか、色々言ってました。

でも、柱を殴る以外は好青年なんですね。筋肉質なんですが、誰と話しをしても腰が低いし礼儀正しい。ただ、雨の日だけは病室から出てこない。雨の日が苦手なんですね。
まぁ、気候や気圧の変化をモロに受ける患者さんは珍しくないですが、その鳶の人、時々ホールで絵を描いていました。
見てみると結構上手いんです。勿論、見よう見まねで一生懸命描いているのですが、まぁ、色彩設計とかデッサンとか遠近法とか、そういう技術的なもんはないのですが、直感で、この人、練習すれば観られる絵を描けるな、と思った次第です。

5 ■統合失調症と診断された鳶職の方ですが2/2

ずっと付き合いがあり、3度目に入院したときも彼がいたので親しくなりましたが、普通のというか、普遍的な幻覚妄想様式はなかったように思うのです。敢えて統合失調症だとするならば緊張型かなと思うくらい。
まぁ、プロの精神科医が統合失調症と診断してるので、そういうエピソードはあったのかも知れませんが、鳶のその人、アスペルガーに通じる特異性もあるように今は思うのです。

やっぱり聴覚が長けていました。
「ゴロゴロ音がする・・・」と、いきなり言ったりするのです。そういう話しは閉鎖病棟ではよくある話しなので、周囲はスルー。
それでも「ゴロゴロ音がする」と言います。
しばらく経ってから雷雨になりました。
皆さんが聞き取れない遠雷を察知してるんですね。「ゴロゴロ言うから部屋に戻ります」と言って出てこないんです。
病棟の遠くに新幹線の高架があったんですが、もの凄く遠い。しかし彼は「新幹線がうるさい」と言うのです。振り向いて遠くを凝視すると、確かに小さく見える新幹線がスーっと走ってるんですね。

なんとなく特異体質な人だったので、猛烈に印象に残っています。(現在は寛解期を維持している様子で、北関東で仕事をしながら年老いた母親と静かに暮らしています)

6 ■アスペルガーの人は高温多湿が苦手

アスペルガーの人は高温多湿などの肌というか身体にかかわる感覚も過敏なので、苦手な人がいると言われています。この鳶職の人はアスペルガーかもしれないですね。(責任はもてないけど)対人接触性も、テリ造氏の記述の範囲では良さそうだし。

薬は、リボトリールだけ飲むのが良かったかもしれませんね(これも責任がもてないけど)。というか、こういう人に薬を出しても副作用が出るだけと言うことも多いです。

7 ■まさか?

私は10代前半の頃から壁殴ったりカッターや小刀で傷をつけたりをやっていました。高校生のときに電信柱殴って手全体に内出血でどす黒い手になって以来、手で殴らないかわりに蹴飛ばしばかりになりました。今でもエレベーターで一人になると蹴飛ばしてしまいます。
音にも匂いにも敏感です。遠くの新幹線の音がわかるほどではありませんが、救急車などのサイレンの音には敏感です。匂いについては女性だから敏感で当然なんだと思っていましたが、この記事を読んで思い当たる節が…

まさか私はアスペルガー?

8 ■>>wingseed-1975

ここで出てくる所見は、診断の根拠になるというだけで、特異性が非常に高いまではいきません。上の鳶職の人ですら、その後テリ造氏とのメールでの検討で、そうでない可能性も相当にあるという結論です。

つまり、アスペルガー症候群は達障害が診れる医師に診察を受けるしかありません。

9 ■ありがとうございます

ありがとうございます。特異性が非常に高いわけではないんですねf^_^;

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