2007-03-05 17:36:14

統合失調症とアスペルガー症候群

テーマ:広汎性発達障害、アスペルガー症候群
最近、アスペルガー症候群の患者さんによく遭遇する。先日の簡易鑑定でもそうだったし、最近転院してきた統合失調症疑いの患者さんもたぶんそうだと思う。

アスペルガー症候群と統合失調症の患者さんの違いなんだけど、診察時の目の動きが決定的に違うと思う。ぱっと見でかなり違いがあるように感じる。ただし、アスペルガーの人は視線を合わせない人もいるくらいなので、ちょっとわかりにくい時ももちろんある。

僕は、診察時に明らかに統合失調症とは違うと思ったら、それ以外の疾患を考えるが、アスペルガーは発達障害の1つに過ぎないので、統合失調症じゃなかったらアスペルガーと言うことは全然ない。アスペルガーは他覚的にそれっぽい所見はあるのだけど、普通にしていると正常と区別がつかない人も多いので、やはり生活歴や現病歴みたいなものが重要だと思う。

基本的に、統合失調症は慢性進行性の要素があるけど、アスペルガーはその逆だ。つまり、ある程度社会的な経験が本人を成長させ、なんとか社会に適応できていく人もきっと多いのだと思う。

アスペルガーは健常人に近い人とかなり重度の人の間になだらかな連続性があって、何パーセントくらいアスペルガー的といった言い方も可能かもしれない。要するに、アスペルガーは突き詰めていくと、おそらく正常も異常もない(正常と異常の境界がないと言う意味。精神疾患の一部には、本人または周囲が苦しんでいて初めて「正常ではない」という病気がある)。

それに対し統合失調症の場合は、正常とは連続していない。ある時、大きな断層があると思う。

僕がアスペルガーは統合失調症とは逆だと書いたが、実際には、ある日、突然発病するように見えることがある。これはおそらく発病しているわけではなくて、社会的というか環境的なストレスのため、ある時、破綻してしまうのである。そのとき初めて不適応が明瞭になる。本質的に本人は何も変わっていないのだけど。

だから、例えば大学生や大学院生などのようにモラトリアムを容認する環境なら、不適応を起こさず生きていきやすいとは言える。もちろん大学の先生もそうだ。医師でもずっと医局にへばりついているような人々。うちの大学でもそうなのであるが、大学を出て関連病院で普通に働ける人は「予後良好」なのである。

社会人になると、なぜ破綻しやすいかというと、いろいろバランスを取って生活しないといけないから。このバランス感覚なるものが彼らには乏しい。例えば、仕事上でこの書類を仕上げてくれとか言われると、これはできる。ただし、「この書類もだけど、忘年会の段取りもお願いね」とか言われると、混乱してしまう。1つの仕事を忠実にやっていくならできるし能力も高いのだけど、平行していくつか仕事をやらせると、なんとなくメリハリをつけてできないので、どうして良いかわからなくなる。

10年前のマッキントッシュは積んであるメモリが8メガバイトだったりした。メモリは1メガバイト1万円の時代もあったのである。このマックに同時にいくつかソフトを立ち上げて仕事をしていると、すぐにフリーズした。これに似ている。

アスペルガーの人々は基本的に真面目なのである。だから、すべて完璧にやろうとする。こういうところがバランス感覚の欠如している部分だと思う。アスペルガーの人で東大に合格してしまう人は、こういう徹底的にやる強迫性が実を結んだとしか言いようがない。

アスペルガーの創造性と統合失調症の創造性は少し違っているような気がしている。限定された場面での創造性がアスペルガーにはある。もちろん統合失調症にもあるけど、統合失調症の場合、自然にほとばしるというか湧き出てくるような感じだ。つまり発想という意味で統合失調症の方が上回っているのである。

アスペルガーの場合、時間をかけてそこに到達している。時間的な推移が必要というか、何か知識を集積してそこに到達していて、創造性でもプロセスが違う。

今回、簡易鑑定の診察時に、

小学校の時、どんな科目が好きだった?
テレビゲームはどんなのが好きですか?
体育で得意なのと苦手なのを教えてください?


なんて質問をしていたので、付き添いの人に、この先生はバカじゃないかと思われたかもしれない。

例えば、他はそれほどでもないけど地理がすごく得意とか、苦手教科が多いけど漢字だけはすごくできた、走るのはそれほど悪くないけど球技が全然ダメ、なんてことが非常に意味があるのである。

コメント

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1 ■無題

この前NHK教育テレビを見てたらアスペルガー症候群の人たちが出てました。
どの人も素人の見た目では普通の人となんら変わりが無いような印象を受けました。
心に残ったのは、ある人が大人になってからアスペルガー症候群だとわかってホッとしたけど子供の時はわからなくてよかった、と言ってたことです。
普通の子供でも大人に成長するまでにはいろいろあると思いますが、その人の成長するまでの人一倍の苦労がうかがわれるような気がしました。

2 ■円 広志さん

「夢想花」をかつてヒットさせたタレントですが、突然パニック障害になりしばらく休養せざるを得なくなったことがあるらしいです。(ちょっと前に日曜日の民放でやってました)

あちこち病院に行き、もう治らないなんていわれたこともあって、ずいぶん悩んでいたと言います。あるとき自分の病名がはっきりわかった時、すごくほっとしたと話していました。そんなものかもしれません。

3 ■遅発性ジスキネジア(?)で困っています。

初めてコメントさせていただきます。いつもたいへん楽しみにしています。ありがとうございます。今大学休学中の23歳の息子はおとなし過ぎる優等生でしたが、21歳のとき 「生きているのがつらい。大学も行けない」と【破綻】しました。ドグマチール50*3/日ですぐ元気になり、昼夜逆転でもともと好きなゲームとTV野球観戦の日が続き、2年半になります。ただ、ドグマチール50×2+ルボックス25×2(1年弱)で別人のようにハイ、そわそわし、ジプレキサ2.5+トレドミン25×2(1年間)では暗く、沈み、ルーラン4(2ヶ月)で首が回転し、リスパダール1(3ヶ月)で口や体が動き薬を中止して1ヶ月半です。『たぶん、アスペルガーです。』と言われますが、心理検査は受けていません。今はメイラックス1だけです。困っているのは、口がすぼんだままの表情、体が揺れる、舌が動くのか、あごが動き、発音もはっきりしないなどです。いつ頃まで待てば治るのでしょうか。主治医は困惑した表情ではっきり言ってくれません。お疲れのところ申し訳ございません。
よろしくお願い申し上げます。

4 ■>>yknn

それは遅発性ジストニアです。一部遅発性ジスキネジアもかぶっているのでしょうが。遅発性ジストニアの場合、ジスキネジアより男性に多く、また比較的若年者に生じる深刻な副作用です。抗精神病薬全般で起こりうるのですが、非定型抗精神病薬は比較的起こりにくいといわれています。この子の場合、ドグマチールからリスパダールまですべてが悪かったと思います。こういう敏感な人は珍しいのですが、知的発達障害とかそんな脳にダメージを持つような人がむしろ出現しやすい印象があります。

治療ですが、薬物をやめておくしかありません。それも数年単位の時間を要すこともあります。グラマリールやベンゾジアゼピンなどの薬物も処方されることもありますが、むしろ何も使わない方が良いくらいです。精神症状を考えると、せめてベンゾジアゼピンくらいは使わないとまとまらない場合もあり、そういう薬物だけ服用させておくこともあります。この子の場合、その薬物がメイラックスなのでしょう。僕はメイラックスはマイナスにはならないと思います。

結局、気長に時間をかけて回復を待つより他はないのです。

5 ■続き

本人がその症状(体が揺れるなど)に非常に苦しがる場合、神田橋氏によると、水泳などが良いらしいです。これは重力がどうも悪いらしく、それを減少させる方法として、プールに入るということらしいです。

6 ■たいへんありがとうございます。

休日にもかかわりませず、さっそくのコメント恐縮いたします。教えていただき感謝申しあげます。今引きこもったネットオタクでパワー不足の状態ですが、水泳を勧めてみます。ありがとうございます。ずうずうしく質問させてください。このまま今の主治医にかかるのがいいでしょうか?本人は変化に慣れにくく、この頃先生に慣れたところです。

7 ■>>yknn

遅発性ジストニアは個人差が大きいので、副作用とはいえ、主治医に責任が大きいとはいえません。悪いまま放置していたのなら別ですが。

今の処方自体は良いと思うので、それを考慮して決めたらと思われます。

8 ■大人のアスペルガーについて

初めまして。今年の4月から精神科に勤めるようになった心理士です。今までは福祉分野で子どものアスペルガーを見てきたのですが、大人をみるようになって戸惑っているところです。最近WAISをやってみたアルコール依存の人がいて、発達障害を疑うバラツキがあり、アスペルガーの可能性を考えているところです。目つき、視線は確かに重要なポイントだと思います。今の病院の先生は、あまり発達障害に詳しくないので相談する人も居ない中、とても参考になりました。

9 ■>>momo

今後ともよろしく。

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